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魔力切れ
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193 魔力切れ
勝利の喜びもそこそこに冒険者たちは外に出ていく。
まだ戦いは終わっていないのだ。
砦の外をみるとシドとフェルを中心に少数の冒険者たちがゴブリンの大軍を押し留めていた。
砦の中で戦ってた人たちがそれに加わってゴブリンたちを押し返す。
マジックポーションを飲んでそれを防壁の上から見守った。
マジックポーションは初めて飲んだけど、すぐに魔力が回復するわけではないみたいだ。
じわじわとゆっくり何かが溜まっていく感じがする。
魔力察知を広げて森の様子を探る。
ゴブリンの群勢の奥にオークが5体。
そのうち1体の反応が強いから上位種かな?
ふと考えた。
目標を見なくても、気配察知を使って狙撃することはできないのだろうか?
要はさっきの戦いの中盤でやっていた、気配察知と狙撃の応用だ。
あの時は気配察知で獲物を見つけ、最後は目視で狙っていたけど……。
頭の中に浮かぶ映像を肉眼で見ている視界に近づけてと。
……なんか気持ち悪い。物が二重に見えてる感じだ。
体の揺れをできるだけ抑えて、見えてる視界と、頭で感じる3D映像を重ね合わせる。
カチッと何かが噛み合う感じがした。
あ、できたかも。
この感覚が消えないように静かに弓を引く。
……やばい、弓に魔力が結構持ってかれる。
一番大きなオークの反応に向かって打つ。
ズキュツ.......ドガーーン
森がえぐれて何本か木が倒れる。
オークの反応は……消えてる。
おぉぉ。なんか前世の記憶にあるロボットのアニメを見ているようだ。
続けて森の奥の残りのオークの反応に向けて矢を放っていった。
撃つたびに凄まじい音をさせて矢がオークにあたってその周辺が爆発する。
なにこれ。やばいかも。
5本の矢を打ち終わった段階で胃が気持ち悪くなった。
魔力切れだ。
震える手で、マジックポーションを取り出しゆっくりと飲んだ。マジックポーションはこれで最後だ。
少し気持ち悪いのが治った。
お茶の入った水筒を取り出して口をゆすぐようにゆっくりと飲む。
なんとか落ち着いてきた。
下で戦っている人たちに声をかける。
「すみませーん魔力切れでーす。少し休みまーす」
砦の外で戦っていたジンさんがこっちにきて、手を振る。
「ケイ!もうこっちは大丈夫だから下に降りてゆっくり休め!何かあったら呼ぶから!」
お言葉に甘えて休憩を取ることにする。
下に降りるとジークとザックのジグザグコンビがマジックバッグにオークの死体を入れているところだった。
至る所にあったオークの死体はだいぶ片付けられている。
オークキングの死体ももうなかった。
ギルドから借りたマジックバッグは大容量のものだったらしく、時間停止の機能までついていた。
なんでも昔、辺境伯さまがどこかで手に入れた物らしい。
手が空いた治療士の女の人が周辺にクリーンをかけてくれた。おかげであたりの血の匂いがかなりおさまった。
地べたに座り、マジックバッグからコンロを出してお茶を淹れる。
ジグザグコンビが、何やってんだお前、みたいな目で見てくる。
いいんですよ。
魔力切れたらもう何にもできないし。
休憩するんです。
暖かい紅茶を砦の中にいる人に配った。
いつだったかエリママにもらったいい茶葉だ。
外では戦いの音が聞こえてるけど、砦の中にはのんびりとした空気が流れてる。
僕は地べたに座り込み、エリママがくれた美味しい紅茶を飲んだ。
空を見上げるとゆっくりと雲が流れて行くのが見えた。
外からはまだ剣戟の音が聞こえてくる。
紅茶はフェルが淹れてくれたやつの方がやっぱり美味しいよな。
しばらく空を見上げてぼーっとしていた。少し冷めてしまった紅茶を飲み干し、立ち上がって体を伸ばして深呼吸をする。
なんかお腹、すいたな。
オークキングのいた中央の建物の中で、手頃なテーブルを何個か見つける。
ジグザグコンビに手伝ってもらって外に出してもらった。
水魔法でテーブルの上を濡らしてタワシで擦って綺麗にする。
建物の中は獣臭くて、とてもじゃないけど中では休めそうになかった。
タワシでゴシゴシ擦ってからもう一度水で流すとテーブルはだいぶきれいになった。
ポーションを飲んでから魔力は少しずつ回復してる。
水魔法みたいな生活魔法ならいくらでも使えるのに、あの弓に持っていかれる魔力はハンパない。
いったいどれだけの魔力を持っていかれてたんだろ。
マジックバッグからオークを1体出してもらって、テーブルの上で解体する。
内臓など捨てるものは空いてる樽を取り出してそこにいれた。
オークの睾丸は高く売れるらしいので、また別の樽に入れておく。
疲れていたから、ちょっと雑になっちゃったけど、食べられる部分を切り分け、あまった皮などはマジックバッグの中に戻した。
オークの肩の肉は塊にして、バラ肉は適当な厚さにスライス。
モモの肉はちょっと薄めのステーキのようにした。
持ってきた魔道コンロは4台。
そのうち2台を使って米を炊く。
もう1つのコンロを使ってスープを作る。スープと言ってもただの味噌汁なんだけど。
いつのまにか砦の中の一部がミニキッチンのようになっていた。
「何してんだー?ケイ」
治療を終えたシドがこっちに向かってくる。
「シド、おつかれー。みんなお腹が空くだろうと思って食事の支度だよ。討伐終わってもすぐ帰らないでしょう。だったらみんなで焼肉でも食べたらいいんじゃないかなと思って」
そう言ったらシドが大爆笑。
「あはは、普通、そんなことやるやついねぇぜ、せいぜい干し肉でスープを作るくらいだ。食材や料理道具まで持ち込んでんのか?あーそれでマジックバッグの容量がないとか言ってたんだな。普通マジックバックは狩った獲物を入れるために持って来るんだぞ」
「だって、普段はウサギしか狩らないし、今回も、マジックバッグはギルドから借りられるとか言ってたし。いいじゃんか、大体僕は料理人なんだ。魔物を討伐するのが仕事じゃないんだよ」
「料理人であの弓の腕前かよ。どうなってんだ?今回お前の弓の腕にに命を救われたってやつもいるんだぞ?」
見てたの?けっこう余裕あったんじゃん。
「弓は、いつかフェルに追いつきたいから毎日ずっと練習してた。食堂の仕事に行く前とかに。なんか命中すると気持ちがいいから、自分でもけっこう好きでやってたかも」
シドと話しながら手早く作業を進める。
タレどうしようかな。
「今回みたいなのはほんとに初めてだよ。普段は炊き出しで使うためのホーンラビットしか狩らないんだ。なんとかなったのはシドが教えてくれた気配察知のおかげかな」
タレに使えそうな材料を並べて考える。リンゴと……にんにく?あったかな?
「矢が当たったのもみんながオークの注意を引いていてくれたからであって、僕は当てやすい的にただ矢を当てただけだから。みんなの方がすごいよ。前線で危険なところで戦ってる。だから終わって帰ってくるみんなをこうやって労ってあげようと思って」
シドは呆れた顔で。
「自覚がないってのもまた困っちまうな。まぁ、お前はそれでいいのかもしれないな。そんで、何作ってんだよ」
「んー、オークをさっき1体潰したからその肉で焼肉かな。勝手に焼いて貰えばこっちの手間も少ないし。こっちの塊肉は、じっくり転がして焼いてローストポークみたいにするつもり。シド、手が空いてるなら薪取ってきてよ、あの建物の裏にいっぱいあったからさー」
「手が空いてるって、俺さっきまで、1人でゴブリンと戦ってたんだぞ!」
「上からフェルがたまに見てたよ。なんか大丈夫そうだからほっといてたらしいけど」
「大丈夫な訳あるか!こっちは必死だったんだって」
そんな文句ばかりのシドは無視して。
「あーみんなお茶も飲みたいよねー。でもコンロが足りないな。シド、冷たい水でもいいと思う?」
「お、おぅ。いいんじゃねえか?みんな喉は乾いているだろうし」
「オッケー。用意しとくー」
「なんか最初にあったときと口調が変わってんな、これが素か?」
「冒険者同士は敬語はいらねーって言ったのはシドじゃないか。もう疲れちゃってさー。なんか面倒でこんな話し方になってきちゃってるんだよ」
「神の目だとか言われるくらいの弓の達人にはとても見えねぇなぁ、まあそのくらいでいいと思うぜ」
そう言ってシドは笑った。
なんだかんだ文句を言いながらシドが持ってきた薪に火をつけて、焚き火をいくつか作っていく。
かまども作って、今作っているスープはそこにうつした。
バッグの中に入ってた野菜や、リンゴなどを使って、焼肉のタレみたいなのも作った。材料が足りないから満足のいく出来にはならなかったけど、それっぽいそこそこ美味しいタレができた。
なんとなく感覚で作ったのが良かったのかな?
使った材料はノートに書いておいた。
シドはもう1体、オークを解体しはじめた。
これじゃあ、肉が足りねぇそうだ。
さっきは人のこと頭おかしい奴みたいに言っていたのに。
食べるでしょう。夕飯くらい。
どうせ食べるなら美味しい方がいいじゃん。
バーベキュー用の焼き台は5つ持っている。今回の旅のためにガンツに追加で用意してもらっていた。
焚き火していた薪がいい感じに炭になってきているのを拾ってバーベキューコンロに入れていく。その上でオークの塊肉を焼いていった。
周りにしっかり焼き目がついたら、火の弱いところに置いてじっくり焼いていく。
お肉の焼けるいい匂いがする。
スープのおかわりするかもしれないなと思って、追加で味噌汁を大鍋でもう一つ作る。
具はオーク肉の切れ端と、ネギ。
もう入れる野菜がないので、ちょっと寂しいけど。
ごはんが炊き上がったのでおにぎりを握る。
シドが米を食べたことがないと言ったので、小さく握って味見させる。ただの塩むすびだけど。
シドは急に興奮しはじめて、「この量じゃぁ足りねぇ。もっと作れ!」と騒ぎ出す。
仕方ないので炊飯器の魔道具で追加でお米を炊いた。
コンロが1つ空いたので、もう一度お茶を淹れる。
疲れた顔でロザリーさんが戻ってきた。魔力切れだそうだ。
淹れたばかりのお茶を渡す。
最後に大きな魔法を放ってきたので、だいぶ数は減ったけど、まだ東側の奥からゴブリンとオークが集まってきているらしい。
もう少しかかるかな?
フェルは大丈夫だろうか。
戦いの音が聞こえる方をなんとなく眺めた。
砦で密かにケイの発案で焼肉パーティが企画されていた頃、砦の外ではゴブリンの軍勢との戦いが続いていた。
時間はまた少しだけ遡る。
「ロザリー!魔法でこの辺全部薙ぎ払え!」
「ジン!これで魔力切れちゃうけど大丈夫?」
「構わねー!それ撃ったら下がって休んでいいからとにかくでかいの頼む!」
ロザリーの大魔法が炸裂する。
あたり一面に焔の壁が出来上がった。
続々と増えていたゴブリンが一掃される。
北側はもう大丈夫そうだ。
森の奥にいたオークはケイの最後の攻撃で全部死体になっていたらしい。
あの弓ならドラゴンでも倒せるんじゃないかと思えてしまう威力だった。
オークの死体にはどでかい穴が空いていたと調査に行った奴らが報告してきた。
ケイ、どうやったらそんなことになるんだ?
「おい……、なんかいい匂いがしねぇか?」
「そうだな……、砦の中からじゃねーか?」
しつこくせまるゴブリンを相手にしながら、冒険者たちがざわつきはじめる。
「お前ら、いいから集中しろー!」
オークの槍を弾きながら俺は叫んだ。
とたんにフェルが大きな声で笑いだす。
「これはきっとケイだ!ケイが料理を作ってるんだ!」
うれしそうにフェルが叫ぶ。
「みんな!終わったら美味しいご飯が待ってるぞ!楽しみにしておけ、ケイの作る料理はうまいからな!」
剣を高くあげフェルはみんなを鼓舞する。
「あと少しだ!みんながんばれ!」
「「「おうっ!」」」
冒険者たちが気合の入った声でそれに応える。
あれ?
さっきから俺がずっとみんなを鼓舞してたけど、返事とか一切なかったじゃねぇか。
何?フェルならいいの?美人だから?
リーダーやるのはもうやめよう。つまんない。
指揮なんてシドとか、ロザリーとかに任せて、戦闘に集中したい。
「ジン!ソルジャーが来た!砦にいた奴より一回り大きいぞ。たぶんアレがこの群れのボスだ!」
ザックが森から飛び出してきた。
さっきの戦いで、ザックの剣は使い物にならなくなってしまった。
今は疲労困憊だったシドに変わり、斥候役を引き受けてくれている。
「森から出てきた瞬間を狙え!出鼻を挫くんだ!」
一回り大きなオークが森から出てきた瞬間、フェルがそいつに向かって飛び込んだ。
大きな声で笑い出し、ケイが無事と分かった瞬間、フェルの動きが格段に良くなっていた。
きっと安心したのだろう。
フェルちゃんケイのこと大好きだもんな。
まだ付き合ってないらしいけど。
フェルは手前のゴブリンを盾で蹴散らし 真っ直ぐにオークソルジャーに向かって行く。
無理するなよと声をかけようとしたが、フェルは上段から振り下ろされた剣をヒラリとかわし、その手首を一瞬で切り飛ばした。
これで勝負はついた。
悲鳴をあげるオークの首をフェルが切り落とし、オークソルジャーはあっけなく討ち取られた。
その後も次々とゴブリンを切っていくフェルを見てたら、お腹が空いたから早く終わらせたいだけなのかも、と思ってしまった。
オークソルジャーが討ち取られたことで、統率が取れなくなったゴブリンたちが逃げていく。
普段なら追いかけてとどめを刺すところだが、今回はもういいだろう。
俺たちの勝利だ。
勝利の喜びもそこそこに冒険者たちは外に出ていく。
まだ戦いは終わっていないのだ。
砦の外をみるとシドとフェルを中心に少数の冒険者たちがゴブリンの大軍を押し留めていた。
砦の中で戦ってた人たちがそれに加わってゴブリンたちを押し返す。
マジックポーションを飲んでそれを防壁の上から見守った。
マジックポーションは初めて飲んだけど、すぐに魔力が回復するわけではないみたいだ。
じわじわとゆっくり何かが溜まっていく感じがする。
魔力察知を広げて森の様子を探る。
ゴブリンの群勢の奥にオークが5体。
そのうち1体の反応が強いから上位種かな?
ふと考えた。
目標を見なくても、気配察知を使って狙撃することはできないのだろうか?
要はさっきの戦いの中盤でやっていた、気配察知と狙撃の応用だ。
あの時は気配察知で獲物を見つけ、最後は目視で狙っていたけど……。
頭の中に浮かぶ映像を肉眼で見ている視界に近づけてと。
……なんか気持ち悪い。物が二重に見えてる感じだ。
体の揺れをできるだけ抑えて、見えてる視界と、頭で感じる3D映像を重ね合わせる。
カチッと何かが噛み合う感じがした。
あ、できたかも。
この感覚が消えないように静かに弓を引く。
……やばい、弓に魔力が結構持ってかれる。
一番大きなオークの反応に向かって打つ。
ズキュツ.......ドガーーン
森がえぐれて何本か木が倒れる。
オークの反応は……消えてる。
おぉぉ。なんか前世の記憶にあるロボットのアニメを見ているようだ。
続けて森の奥の残りのオークの反応に向けて矢を放っていった。
撃つたびに凄まじい音をさせて矢がオークにあたってその周辺が爆発する。
なにこれ。やばいかも。
5本の矢を打ち終わった段階で胃が気持ち悪くなった。
魔力切れだ。
震える手で、マジックポーションを取り出しゆっくりと飲んだ。マジックポーションはこれで最後だ。
少し気持ち悪いのが治った。
お茶の入った水筒を取り出して口をゆすぐようにゆっくりと飲む。
なんとか落ち着いてきた。
下で戦っている人たちに声をかける。
「すみませーん魔力切れでーす。少し休みまーす」
砦の外で戦っていたジンさんがこっちにきて、手を振る。
「ケイ!もうこっちは大丈夫だから下に降りてゆっくり休め!何かあったら呼ぶから!」
お言葉に甘えて休憩を取ることにする。
下に降りるとジークとザックのジグザグコンビがマジックバッグにオークの死体を入れているところだった。
至る所にあったオークの死体はだいぶ片付けられている。
オークキングの死体ももうなかった。
ギルドから借りたマジックバッグは大容量のものだったらしく、時間停止の機能までついていた。
なんでも昔、辺境伯さまがどこかで手に入れた物らしい。
手が空いた治療士の女の人が周辺にクリーンをかけてくれた。おかげであたりの血の匂いがかなりおさまった。
地べたに座り、マジックバッグからコンロを出してお茶を淹れる。
ジグザグコンビが、何やってんだお前、みたいな目で見てくる。
いいんですよ。
魔力切れたらもう何にもできないし。
休憩するんです。
暖かい紅茶を砦の中にいる人に配った。
いつだったかエリママにもらったいい茶葉だ。
外では戦いの音が聞こえてるけど、砦の中にはのんびりとした空気が流れてる。
僕は地べたに座り込み、エリママがくれた美味しい紅茶を飲んだ。
空を見上げるとゆっくりと雲が流れて行くのが見えた。
外からはまだ剣戟の音が聞こえてくる。
紅茶はフェルが淹れてくれたやつの方がやっぱり美味しいよな。
しばらく空を見上げてぼーっとしていた。少し冷めてしまった紅茶を飲み干し、立ち上がって体を伸ばして深呼吸をする。
なんかお腹、すいたな。
オークキングのいた中央の建物の中で、手頃なテーブルを何個か見つける。
ジグザグコンビに手伝ってもらって外に出してもらった。
水魔法でテーブルの上を濡らしてタワシで擦って綺麗にする。
建物の中は獣臭くて、とてもじゃないけど中では休めそうになかった。
タワシでゴシゴシ擦ってからもう一度水で流すとテーブルはだいぶきれいになった。
ポーションを飲んでから魔力は少しずつ回復してる。
水魔法みたいな生活魔法ならいくらでも使えるのに、あの弓に持っていかれる魔力はハンパない。
いったいどれだけの魔力を持っていかれてたんだろ。
マジックバッグからオークを1体出してもらって、テーブルの上で解体する。
内臓など捨てるものは空いてる樽を取り出してそこにいれた。
オークの睾丸は高く売れるらしいので、また別の樽に入れておく。
疲れていたから、ちょっと雑になっちゃったけど、食べられる部分を切り分け、あまった皮などはマジックバッグの中に戻した。
オークの肩の肉は塊にして、バラ肉は適当な厚さにスライス。
モモの肉はちょっと薄めのステーキのようにした。
持ってきた魔道コンロは4台。
そのうち2台を使って米を炊く。
もう1つのコンロを使ってスープを作る。スープと言ってもただの味噌汁なんだけど。
いつのまにか砦の中の一部がミニキッチンのようになっていた。
「何してんだー?ケイ」
治療を終えたシドがこっちに向かってくる。
「シド、おつかれー。みんなお腹が空くだろうと思って食事の支度だよ。討伐終わってもすぐ帰らないでしょう。だったらみんなで焼肉でも食べたらいいんじゃないかなと思って」
そう言ったらシドが大爆笑。
「あはは、普通、そんなことやるやついねぇぜ、せいぜい干し肉でスープを作るくらいだ。食材や料理道具まで持ち込んでんのか?あーそれでマジックバッグの容量がないとか言ってたんだな。普通マジックバックは狩った獲物を入れるために持って来るんだぞ」
「だって、普段はウサギしか狩らないし、今回も、マジックバッグはギルドから借りられるとか言ってたし。いいじゃんか、大体僕は料理人なんだ。魔物を討伐するのが仕事じゃないんだよ」
「料理人であの弓の腕前かよ。どうなってんだ?今回お前の弓の腕にに命を救われたってやつもいるんだぞ?」
見てたの?けっこう余裕あったんじゃん。
「弓は、いつかフェルに追いつきたいから毎日ずっと練習してた。食堂の仕事に行く前とかに。なんか命中すると気持ちがいいから、自分でもけっこう好きでやってたかも」
シドと話しながら手早く作業を進める。
タレどうしようかな。
「今回みたいなのはほんとに初めてだよ。普段は炊き出しで使うためのホーンラビットしか狩らないんだ。なんとかなったのはシドが教えてくれた気配察知のおかげかな」
タレに使えそうな材料を並べて考える。リンゴと……にんにく?あったかな?
「矢が当たったのもみんながオークの注意を引いていてくれたからであって、僕は当てやすい的にただ矢を当てただけだから。みんなの方がすごいよ。前線で危険なところで戦ってる。だから終わって帰ってくるみんなをこうやって労ってあげようと思って」
シドは呆れた顔で。
「自覚がないってのもまた困っちまうな。まぁ、お前はそれでいいのかもしれないな。そんで、何作ってんだよ」
「んー、オークをさっき1体潰したからその肉で焼肉かな。勝手に焼いて貰えばこっちの手間も少ないし。こっちの塊肉は、じっくり転がして焼いてローストポークみたいにするつもり。シド、手が空いてるなら薪取ってきてよ、あの建物の裏にいっぱいあったからさー」
「手が空いてるって、俺さっきまで、1人でゴブリンと戦ってたんだぞ!」
「上からフェルがたまに見てたよ。なんか大丈夫そうだからほっといてたらしいけど」
「大丈夫な訳あるか!こっちは必死だったんだって」
そんな文句ばかりのシドは無視して。
「あーみんなお茶も飲みたいよねー。でもコンロが足りないな。シド、冷たい水でもいいと思う?」
「お、おぅ。いいんじゃねえか?みんな喉は乾いているだろうし」
「オッケー。用意しとくー」
「なんか最初にあったときと口調が変わってんな、これが素か?」
「冒険者同士は敬語はいらねーって言ったのはシドじゃないか。もう疲れちゃってさー。なんか面倒でこんな話し方になってきちゃってるんだよ」
「神の目だとか言われるくらいの弓の達人にはとても見えねぇなぁ、まあそのくらいでいいと思うぜ」
そう言ってシドは笑った。
なんだかんだ文句を言いながらシドが持ってきた薪に火をつけて、焚き火をいくつか作っていく。
かまども作って、今作っているスープはそこにうつした。
バッグの中に入ってた野菜や、リンゴなどを使って、焼肉のタレみたいなのも作った。材料が足りないから満足のいく出来にはならなかったけど、それっぽいそこそこ美味しいタレができた。
なんとなく感覚で作ったのが良かったのかな?
使った材料はノートに書いておいた。
シドはもう1体、オークを解体しはじめた。
これじゃあ、肉が足りねぇそうだ。
さっきは人のこと頭おかしい奴みたいに言っていたのに。
食べるでしょう。夕飯くらい。
どうせ食べるなら美味しい方がいいじゃん。
バーベキュー用の焼き台は5つ持っている。今回の旅のためにガンツに追加で用意してもらっていた。
焚き火していた薪がいい感じに炭になってきているのを拾ってバーベキューコンロに入れていく。その上でオークの塊肉を焼いていった。
周りにしっかり焼き目がついたら、火の弱いところに置いてじっくり焼いていく。
お肉の焼けるいい匂いがする。
スープのおかわりするかもしれないなと思って、追加で味噌汁を大鍋でもう一つ作る。
具はオーク肉の切れ端と、ネギ。
もう入れる野菜がないので、ちょっと寂しいけど。
ごはんが炊き上がったのでおにぎりを握る。
シドが米を食べたことがないと言ったので、小さく握って味見させる。ただの塩むすびだけど。
シドは急に興奮しはじめて、「この量じゃぁ足りねぇ。もっと作れ!」と騒ぎ出す。
仕方ないので炊飯器の魔道具で追加でお米を炊いた。
コンロが1つ空いたので、もう一度お茶を淹れる。
疲れた顔でロザリーさんが戻ってきた。魔力切れだそうだ。
淹れたばかりのお茶を渡す。
最後に大きな魔法を放ってきたので、だいぶ数は減ったけど、まだ東側の奥からゴブリンとオークが集まってきているらしい。
もう少しかかるかな?
フェルは大丈夫だろうか。
戦いの音が聞こえる方をなんとなく眺めた。
砦で密かにケイの発案で焼肉パーティが企画されていた頃、砦の外ではゴブリンの軍勢との戦いが続いていた。
時間はまた少しだけ遡る。
「ロザリー!魔法でこの辺全部薙ぎ払え!」
「ジン!これで魔力切れちゃうけど大丈夫?」
「構わねー!それ撃ったら下がって休んでいいからとにかくでかいの頼む!」
ロザリーの大魔法が炸裂する。
あたり一面に焔の壁が出来上がった。
続々と増えていたゴブリンが一掃される。
北側はもう大丈夫そうだ。
森の奥にいたオークはケイの最後の攻撃で全部死体になっていたらしい。
あの弓ならドラゴンでも倒せるんじゃないかと思えてしまう威力だった。
オークの死体にはどでかい穴が空いていたと調査に行った奴らが報告してきた。
ケイ、どうやったらそんなことになるんだ?
「おい……、なんかいい匂いがしねぇか?」
「そうだな……、砦の中からじゃねーか?」
しつこくせまるゴブリンを相手にしながら、冒険者たちがざわつきはじめる。
「お前ら、いいから集中しろー!」
オークの槍を弾きながら俺は叫んだ。
とたんにフェルが大きな声で笑いだす。
「これはきっとケイだ!ケイが料理を作ってるんだ!」
うれしそうにフェルが叫ぶ。
「みんな!終わったら美味しいご飯が待ってるぞ!楽しみにしておけ、ケイの作る料理はうまいからな!」
剣を高くあげフェルはみんなを鼓舞する。
「あと少しだ!みんながんばれ!」
「「「おうっ!」」」
冒険者たちが気合の入った声でそれに応える。
あれ?
さっきから俺がずっとみんなを鼓舞してたけど、返事とか一切なかったじゃねぇか。
何?フェルならいいの?美人だから?
リーダーやるのはもうやめよう。つまんない。
指揮なんてシドとか、ロザリーとかに任せて、戦闘に集中したい。
「ジン!ソルジャーが来た!砦にいた奴より一回り大きいぞ。たぶんアレがこの群れのボスだ!」
ザックが森から飛び出してきた。
さっきの戦いで、ザックの剣は使い物にならなくなってしまった。
今は疲労困憊だったシドに変わり、斥候役を引き受けてくれている。
「森から出てきた瞬間を狙え!出鼻を挫くんだ!」
一回り大きなオークが森から出てきた瞬間、フェルがそいつに向かって飛び込んだ。
大きな声で笑い出し、ケイが無事と分かった瞬間、フェルの動きが格段に良くなっていた。
きっと安心したのだろう。
フェルちゃんケイのこと大好きだもんな。
まだ付き合ってないらしいけど。
フェルは手前のゴブリンを盾で蹴散らし 真っ直ぐにオークソルジャーに向かって行く。
無理するなよと声をかけようとしたが、フェルは上段から振り下ろされた剣をヒラリとかわし、その手首を一瞬で切り飛ばした。
これで勝負はついた。
悲鳴をあげるオークの首をフェルが切り落とし、オークソルジャーはあっけなく討ち取られた。
その後も次々とゴブリンを切っていくフェルを見てたら、お腹が空いたから早く終わらせたいだけなのかも、と思ってしまった。
オークソルジャーが討ち取られたことで、統率が取れなくなったゴブリンたちが逃げていく。
普段なら追いかけてとどめを刺すところだが、今回はもういいだろう。
俺たちの勝利だ。
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アリステラ王国の16番目の王子として誕生したアーサーは、性欲以外は賢王の父が、子供たちの生末に悩んでいることを知り、独自で生活基盤を作ろうと幼い頃から努力を重ねてきた。
王子と言う立場を利用し、王家に仕える優秀な魔導師・司教・騎士・忍者から文武両道を学び、遂に元服を迎えて、王国最大最難関のドラゴンダンジョンに挑むことにした。
だがすべての子供を愛する父王は、アーサーに1人でドラゴンダンジョンに挑みたいという願いを決して認めず、アーサーの傅役・近習等を供にすることを条件に、ようやくダンジョン挑戦を認めることになった。
しかも旅先でもアーサーが困らないように、王族や貴族にさえ検察権を行使できる、巡検使と言う役目を与えることにした。
更に王家に仕える手練れの忍者や騎士団の精鋭を、アーサーを護る影供として付けるにまで及んだ。
アーサー自身はそのことに忸怩たる思いはあったものの、先ずは王城から出してもらあうことが先決と考え、仕方なくその条件を受け入れ、ドラゴンダンジョンに挑むことにした。
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追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした
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※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
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