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 178 スポーツ

 早朝、ご飯を食べたら真っ直ぐギルドに向かう。
 依頼を受けて場所の地図をもらった。

 西門から出た方が近いみたい。
 街の様子を見ながら西門から依頼の場所に向かった。

 この街の人たちは朝ごはんを屋台で食べるみたい。街の至る所で朝食を摂る人たちを見た。

 中央から西門にかけては割と高級な住宅街で屋台やあまりお店はなかった。その手前の中央のあたりに公衆浴場を見つける。
 
 看板に「銭湯」と書かれてあった。
 王国に「銭」てお金の単位はないはずだけどな。
 ガンツがここのボイラーを修理するって言ってた。修理が始まる前にフェルと行ってみよう。

 たぶん修理が始まるとしばらく休業しなくちゃいけなくなるだろう。
 そして修理が終わる頃にはきっと帰らなくちゃいけない。
 お風呂好きとしては一度入ってみたかった。

 西門を出て刈り取られた後の麦畑を抜ければ、いろいろな野菜が育てられている畑に出る。
 広い畑だな。農地がきれいに整理されてる感じがする。戦争があった後改めて農地を作り直したのかな。

 畑の真ん中の道を南側に曲がる。
 きちんとされすぎてなんだか景色はつまらないけれど、きっとみんなで頑張って耕したんだ。
 しばらく行けば騎士団の詰め所があるそうだ。そこで細かい場所を聞いて欲しいとギルドの職員さんは言っていた。

 少し遠くの方に森が見える。
 ちょうど畑が終わるあたりに小さな小屋が建っていた。たぶんここが詰め所なんだと思う。

 扉は開いていて中には3人の騎士がいた。
 1人は金属鎧だったけど、2人の騎士は革鎧で割と楽そうな格好だった。
 騎士ってみんな金属鎧みたいなイメージだったけど、確かに領内の比較的安全なところにいるなら革鎧の方が動きやすいから機動性がある。

「すみません。ホーンラビットの討伐依頼を受けに来た者なんですが」

「ん?ずいぶん早いな。こんなに早くから始めるのか?」

「ホーンラビットは午前中の方が狩りやすいので、早めに来てその分早く帰ろうかと思いまして」

「へーそういうものなのかい」

 革鎧を着た騎士のうち、落ち着いた雰囲気のする金髪の男性が僕たちの対応をしてくれる。

「さっそく狩り場と、あと血抜きもしたいので水の使える場所が知りたいです」

「ん?そういえば君たち見ない顔だな。新人かい?」

「僕たち普段は王都で冒険者ギルドに登録してます。2人ともDランクです」

 2人の実力は全然違うのだが。

 ギルド証を見せて改めて挨拶をする。

「失礼した。私はマリスという。この辺りを担当している2班の班長だ。ホーンラビット狩りの依頼は私たち騎士団から出させてもらった。引き受けてくれてありがとう。今日はよろしく頼むよ」

 もっと騎士って固いイメージがあったけど、マリスさんはなんだか柔らかい印象の人だった。
 別にフェルのことがどうだというわけじゃない。なんとなく騎士全般のイメージがそうなだけだ。

 マリスさんから狩り場というか、大発生している場所を聞いてフェルに柵を作ってもらう。
 血抜きは用水路の下流の方を使っていいそうだ。
 そっちにはスライムが生息してるから勝手に浄化されるらしい。スライムにウサギの肉が食べられちゃったりしないだろうか。
 少し不安だ。

 近くの農家の家に行って売り物にならないクズ野菜をたくさんもらってきた。
 毎週末ホーンラビット狩りをしているからこういうのももう慣れたものだ。

 3軒の農家を回ったけど、僕が騎士団の依頼でホーンラビットを駆除しに来たと伝えると喜んでみんなクズ野菜をくれる。
 世話好きそうなおばさんからは普通に朝採れたトマトをいただいてしまった。
 こんな小さな事でも騎士団が動いてくれるからありがたいとみんな言っていた。
 
 なんかいい街だな。なんか暖かい。

 クズ野菜をもらったら急いでフェルのところに戻る。
 良かった。杭を打つ前に戻れた。

 ライツに前に作ってもらった組み立て式の柵を組み立てる。
 フェルは久しぶりだったから作り方がうろ覚えで僕が戻るのを待ってたみたいだ。
 それを聞いて素直に謝る。
 
「仕方ないではないか。気にするな」
 
 そう言ってフェルが微笑む。

 柵を作り終わって時刻は8時30分。
 もちろん腕時計なんて持ってない。
 家から置き時計を持ってきていた。

 エサを初めは広範囲に巻く。
 誘き寄せるように野菜のすりおろした汁を柵の切れ目近くに撒き散らした。
 すりおろす野菜の汁は少し匂いのするものがいい。
 生姜やニンニク以外の野菜を適当にすりおろして撒くのだ。

 けっこう僕も狩りに慣れてきた。
 王都のギルドにはまだ報告していないけど、ホーンラビットは意外と嗅覚が鋭い。
 エサの強い匂いで、まずは柵の近くに集団を誘導するのだ。
 これをやると短時間でたくさん狩れる。

 最近はだいたい30匹くらいのホーンラビットを1時間ほどで狩っている。
 王都の周りのホーンラビットはだいぶその数が減ったけど、絶滅する心配はたぶんないだろう。
 繁殖期の春を過ぎたらまたかなりの数が狩れるようになった。
 あちこちギルドに指示されて毎週日曜日は王都の西側のいろんな場所で狩りをしている。

 それでも王都の周辺の農村地帯は劇的にホーンラビットの被害が減ったそうだ。
 そのうち、もっと狩りの方法が確立できたらこのやり方も王都のギルドに報告しよう。

 でもみんなやるかな。野菜のすりおろしを撒き餌にするなんて。
 あの優しいろくでなしの冒険者たちが、必死にニンジンをすりおろす姿を想像して少し笑った。

「じゃあ開けるよ。しばらくしたら交代するから」

「いつでもいいぞ、やってくれ」

 フェルがなんだか楽しそう。

 左右にだいたい20メートルくらいに広がる柵の真ん中にはちょうど一体ずつホーンラビットが出て来れる切れ目があって、そこは小さな戸板のようなもので塞いである。

 くの字に少し折れ曲がったその柵にホーンラビットを集めて少しずつその切れ目から出てくるようにするのだ。

 戸板を開けて少し待つ。
 ピョンと飛び跳ねながらホーンラビットか次々と出てくる。
 初めはエサに向かって近づいてきたホーンラビットたちはフェルを見つけた途端に体当たりで次々と襲いかかる。
 それをフェルが撫でるようにどんどん斬りつけていく。

 急所を一撃で斬られたホーンラビットが次々と地面に落ちていく。
 そしてマジックバッグを片手にそのホーンラビットをどんどん集める僕。
 少しかっこ悪い。

 それにしてもけっこういるな。
 5分も経たないうちにもう30匹くらいのホーンラビットが狩られている。

 ペース早くない?何?この狩り場。

 50匹を超えたあたりで交代する。
 フェルが盾で大きくホーンラビットを弾き飛ばして、その隙に交代した。
 交代する時に水筒のお茶を渡して今度は僕がホーンラビットの注意を引きつける。

 最近は弓で狩ることが多いのだけど、今日は昔みたいにガンツが作ってくれた剣鉈でホーンラビットを狩る。

 体力はまだ全然フェルには勝てないけれど、王都に来た頃と比べたらだいぶ僕も成長した。

 フェルみたいに首筋に毎回上手に刃を立てられないからだいたい僕は頭を強く鉈でぶん殴るんだけど。

 5匹に1匹くらいは僕でも首を落とせたりする。これでも上達したのだ。たぶん。

「いい調子だぞ。ケイ。だいぶ狩りが上手くなったではないか」

 そうフェルが声をかけてくれて嬉しくなる。

「交代だ。そのまま3歩下がれ。入るぞ、3、2、1、今だ!」

 その合図で素早く後ろに下がる。
 フォンッ。
 風を切るその音が聞こえたと思ったらもう僕に飛びかかってきたホーンラビットの首が刎ねられている。

 やっぱりすごいなぁ。
 まるで優雅に踊っているかのよう。
 見惚れてしまう。

 久しぶりにフェルが戦っているところを見たけれど、やっぱり綺麗だ。
 華があるっていうのか、なんて言えばいいんだろ。
 
 伸びた髪を後ろで一つ結びにして、その
綺麗な金色の髪が動くたびにふわりと揺れるんだ。その様子が美しい。

 役割を入れ替えるタイミングは、少しずつ意地悪くなったりして。

 前世の僕はやったことはないみたいだけどそれはテニスをやっているのに似ている。柵があるからスカッシュ?
 まるでスポーツをしてるみたいな感じだ。

 これってデートなのかな?
 前に王都の暮らしには娯楽がないんだって思ったことがあったな。
 楽しいからまあいいか。

 200体を超えたあたりから数えていない。

 とにかくいっぱいホーンラビットを狩りました。

 狩った獲物のうち10匹ほど解体して協力してくれた農家の皆さんに配ることにする。
 ついでってわけじゃないけど騎士団の詰め所にも届けるか。お昼を作ってとどければいいだろう。
 これから少しの間だけどお世話になるんだし。

  
 
 
 
 
 



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