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おあいこ

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 144 おあいこ

 火曜日、水曜日と順調に仕事をこなして、今日は木曜日。仕事が休みの日になる。フェルも今週3日間ずっと働いていたので今日は休みにするそうだ。

 3日間、ソロで冒険者活動をして平均で1日銀貨4枚くらいになったらしい。
 無理しないで1人でそのくらい稼げたならば充分だと思う。

 目覚ましはかけていないけど6時には目が覚めてしまった。手を伸ばして暖房の魔道具のスイッチをつけたら、僕に寄り添って眠るフェルを抱きしめて二度寝することにした。

 次に目が覚めるとフェルが隣にいなかった。部屋を見回すとちょうどフェルが着替えをしているところだった。
 着替え途中の下着姿のフェルをしっかり見てしまった。

 慌てて布団をかぶってフェルに謝る。

「気にするな。おあいこだ」

 よくわからない言葉を残して、着替えたフェルがリビングの方に行く。

 着替えて気持ちを落ち着かせたら僕もリビングに向かう。

 コーヒーのいい香りがする。
 そういえばこの前フェルがサンドラ姉さんにコーヒーの淹れ方を教わっていたな。
 
 火曜日の夜の営業は比較的落ち着いていたので時間があったのだ。

 テーブルに座ってフェルとコーヒーを飲む。フェルはコーヒーにお砂糖を2杯入れた。コーヒーを飲みながら今日の予定を2人で確認し合った。

 朝市の場所まで走る。マルセルさんのところで野菜と卵と牛乳を買って、ロイのパン屋に行く。時間は8時を過ぎた頃だと思う。
 お客さんの流れも少し落ち着いてきていた。

「よく来てくれたっす。こちらがケイくん、そしてフェルさんっす。それでこれがうちの両親っす」

「ケイくん。この間は世話になったわね。私がロイの母のモニカです。いつもロイがお世話になってるみたいでありがとうね。それでこっちが父親のポールよ」

 ポールさんとロイは挨拶をしたら仕事に戻って行った。
 この前買ったバゲットと、アップルパイ、そしてオススメされたパンをいくつか買う。今日の夜もパンを食べよう。
 フェルはチーズとベーコンが乗っている惣菜パンを選んだ。

 モニカさんに少しおまけしてもらって店を出た。フェルが渡された紙袋を大事そうに持っている。
 なんだか楽しそうにしていたので、帰りはゆっくり歩いて帰った。

 オムレツと、簡易で作ったコンソメスープ。ベーコンを焼いて朝食を食べる。
 デザートにリンゴも切った。

 朝食を食べたら行動開始だ。
 いろいろやらなくちゃいけないことがある。

 フェルは部屋の掃除を。僕は昼食の準備に取り掛かる。

 ハンバーグの焼き方の練習がしたくって、お昼はハンバーグを焼くことにした。
 手早くタネを作って保冷庫にしまう。

 あ、午前中エリママも来るんだった。先に何かお菓子を用意しないと。
 小麦粉に重曹を混ぜて一度フルイにかける。
 溶いた卵に牛乳を少しとお砂糖を入れて、ほんの少し油を入れる。
 それを泡立て器で丁寧に混ぜ合わせて、そこにさっきの粉を少しずつ入れて混ぜ合わせた。
 生地が粉っぽくならないように、牛乳を少しずつ足して、パンケーキの生地のようなものを作った。

 それをガンツに前に作ってもらった金型に半分くらい入れてフライパンの上に並べる。

 中火と弱火の間くらいの火で、しばらく熱を加える。生地がいい感じに膨らんで来たところでお箸を刺してみる。生地がくっついてこない。ちゃんと中まで火が通ってる。

 包丁をうまく使って金型から外せば、小さめのカップケーキのようなものができた。
 表面に薄くカラメルを塗ったら完成だ。

 掃除の途中だったフェルに味見をしてもらう。
 うまく作れているのはフェルの表情でよくわかった。

 10時過ぎに玄関の呼び鈴が鳴る。
 呼び鈴なんて初めて鳴ったのを聞いた。なんか嬉しい。
 すごいぞ都会。

 玄関を開けるとエリママが笑顔で立っていた。奥には絨毯を持った商会の人の姿も見える。

 来客用のスリッパを出して、靴を脱いで上がってもらう。

「少し面倒だけど部屋が汚れないっていうのはいいわね」

 エリママがスリッパを履きながら言う。

 そのあと商会の人が絨毯を敷いてくれて、その周りに家具を配置した。

 商会御用達の画家さんだろうか、先にリビングから描いてしまうと言ってクレパスのような画材を使い、手早く部屋の絵を描いていく。
 その間に僕はエリママに部屋の中を案内して、フェルにお茶を入れてもらう。

「新居はどうかしら?何か不便があったらなんでも言うのよ。お風呂だって作ってあげちゃうんだから」

 エリママはそんなに僕とフェルを混浴させたいのか。

「家具とかはこれからライツが持って来てくれるんです。食器棚とかはまだ時間がかかるらしいんですが。寝室に棚を1つと、向こうの部屋に食料を置いておける大きめの棚を作ってもらうつもりです」

「まぁ殺風景だけどはじめはこんなものだと思うわ。少しずつ2人で思い出を増やしていけば、家具なんていつの間にか揃っているものよ。あら、この部屋寒いわね。うちで暖房の魔道具を買いなさいな。主人に安くするよう言っておくから」

「この前の日曜日に本当は買うつもりだったんですけど、3男がいなかったから何を買ったらいいかよくわからなくって。3男が仕入れから戻って来たら買いに行くつもりです」

「あの子なぜかそういうのに詳しいのよね。いいところばかりじゃなくて悪いところもきちんと見抜くから、ガンツとよくやり合ってるわ」

 フェルがお茶が入ったと声をかけてくれたのでリビングに戻る。リビングにはきちんと暖房の魔道具を入れてある。

 市場で買ったいい紅茶と、さっき急いで作ったお菓子を出す。
 作法はよくわからないからフェルに全部お任せした。

「あら美味しい。このケーキ、素朴だけど優しい甘さだわ」

「さっきケイがパパッと作ってくれたのだ。私も1個もらってもいいだろうか?」

「気をつかう必要なんて無いのよ。みんなで食べましょう。貴族みたいなお茶会じゃなくて家族としてもてなしてくれた方が私も嬉しいわ」

 僕は途中で席を立って昼食の用意をする。お弟子さんは何人来るかな。前に使ってた折りたたみのテーブルも出さなくっちゃ。

 絵師の人はお茶を飲みながら寝室の絵を描いている。薄いピンクの絨毯を敷いた寝室は温かみがあっていい感じだと思った。

 呼び鈴が鳴ってライツたちが来た。

「弟子に場所を言えばそこに置かせるからな。俺はちょっと家の周りを見てくる」

 お弟子さんたちは全部で12人。今日は家具を担当した人達が来たみたいだった。お弟子さんはあと10人くらいいて、今日は南門の拡張工事に出ているらしい。
 
 今日来てくれたのは家具担当の職人さんたちと、まだ若い見習いの人たちなんだそうだ。

 フェルに頼んで、家具を配置してもらう。下足棚を置いてそこにみんなの靴を収納する。
 マジックバッグから前に使っていた折りたたみの机を出そうとしたら、ライツたちは今度パーティで使う予定の長机も持って来てくれたらしい。
 それを工夫して配置すればなんとか全員座れるような食卓ができた。

 ライツは重ねて保管しておける丸椅子も作ってくれていた。あとでそれがしまってある納屋に行ったら結構な数作ってくれたみたいだ。納屋に丸椅子がぎっしり詰まっていた。

 テーブルに座ってもらって昼食会を始める。遠慮する絵師さんにもお昼を食べて帰ってもらうことにした。

 絵師さんはパステル画というのだろうか、淡いタッチで温かみのある絵を描いていた。それをエリママの指示で手直しをしている。置いたばかりの寝室の棚もちゃんと絵に描いてあった。

 フライパンに油を敷いて、2個ずつハンバーグを焼いていく。一度フライパンに乗せたハンバーグはできるだけ動かさない。綺麗に焦げ目がついたところでひっくり返して蓋をする。
 そのまま中火より少しだけ弱い火でじっくり焼いていく。
 肉に程よく火が通ったところで、お酒を少しふりかけて火から下ろす。あとは余熱で火が通れば大丈夫だ。

 昨日仕事中に余分に作ったオニオンソースをハンバーグの上にたっぷりかければ、小熊亭のハンバーグの出来上がりだ。
 焦げるか焦げないかギリギリの見極めが難しい。何枚かは少し焦がしてしまった。

 お皿に盛ったご飯と一緒に提供する。
 
 なかなか大人数に一気に出すのは難しいな。もう一個のフライパンも使ってできるだけ手早くハンバーグを量産していく。

 スープは簡易のコンソメスープ。
 サラダは大皿に持って各自取り分けてもらうことにした。
 ハンバーグだからどうしても個別のお皿になっちゃうな。煮込みハンバーグにすればよかったかも。

 最後の方はだいぶ上手く焼けるようになったと思う。一番上手に焼けたと思うものはエリママとフェルに出した。
 2人とも美味しいと言ってくれた。

 食後の洗い物をフェルと2人でやっている横で、エリママがみんなにお茶を淹れてくれる。フェルが私が変わると言っても、エリママは優しく微笑んでこれくらいはさせてちょうだいと言って優雅な手つきでお茶をみんなに振る舞った。
 みんなが満足そうな顔をしていた。

 エリママってすごいと思う。

 やがてみんなが帰って、僕たちは一息ついた。

「みんな喜んでくれたかな?」

「皆が料理を絶賛していたぞ。普段はあまり外食など出来ないのだそうだ。西区には食事ができる店は少ないらしい」

「ハンバーグの練習台にしちゃったけど喜んでくれたなら嬉しいな」

「だいぶ上達したと思うぞ。店の味と比べても全く遜色ない出来だった」

「鉄板で作るとまた違うらしいんだよね。ロイが言ってた」

「やっぱり早く焼き場の担当になりたいのか?」

「うん。すごく焦ってるってわけじゃないんだけどね、ロイが日に日に焼き方として成長していくのを見てると、やっぱり早く追いつきたいなって思っちゃうよ。今の下働きの仕事もまだ完璧に出来ているわけじゃないのにね」

「しばらくは地道にやるしかないな」

「ひとつひとつ積み重ねていくしかないよね」

 そう言って2人笑顔になった。

 
 

 
 
  
 

 
 




 
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