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展望台

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109 展望台

 王城へと続く石畳の道沿いに、白い建物が並んでいる。どの店も煌びやかに飾られて、扱っている商品はどれも高級そうだ。
 洋服を扱うお店はガラス張りになっていて店の中が外から見渡せるようになっている。ドレスを扱う店のようだ。中には綺麗な衣装が並んでいる。

「フェルもこういうドレスを着たことがあるの?」

「私の家は騎士爵だったからな。普段は普通の格好をしていた。しかし王城でのお披露目など何か特別な催しの時は着せられていたな。こんなに豪華なドレスではなかったが」

「見たかったな。きっとよく似合っていたと思うよ」

「私はあまり派手な格好は苦手でな。第一動きにくいのだ。下に着るものも締め付けがひどいし、食事も満足にとれん。今日の格好でもう精一杯だ。エリママがどうしても今日着ていけというから……」

 フェルは今日、ベージュのロングスカートと体のラインがわかるタイトなセーターを着ていた。それを隠すように外套を引っ張る。

「そう?似合ってるよその服。フェルはもっと女性らしい格好をしてもいいと思う」

「まあ、ケイがそういうなら……たまには着てやらんこともないが……」

 フェルが少し照れながら、外套で自分の格好を隠すのをやめた。
 今日のフェルはいつもよりなんだか色っぽい。目のやり場に困ってしまう。

 しばらく歩くと少し賑やかな場所に出た。少し人通りも多くなる。雑貨屋さんかな。店先にいろいろなアクセサリーが並べられていた。

「綺麗だな。ケイ」

 フェルが並べられている商品を手に取って眺めている。

「お客様にはこちらが似合うと思いますよ」

 店員がそう言って淡いブルーの宝石が着いたネックレスを手に取る。
 確かにフェルによく似合いそうなシンプルなデザインだった。

「実はこちらの青い石は宝石に似せて作った代用の石なんです。偽物ってわけではないのですが、この辺りにお買い物にくる方はお屋敷で働く人が多いですから。こうして店頭に並べているものはお求めやすい値段のものにしているんですよ」

 鏡の前で合わせてみる。フェルも少し気に入ってるみたいだ。
 値段を聞いてみると銀貨3枚。まあ、お求めやすいと言っても、それくらいはするよね。
 他にも髪留めやブレスレットを見たけど、やっぱり店員が勧めたあのネックレスが一番フェルに似合っていた。

「すみません。さっきのネックレスください」

「ケイ!私は要らないぞ。そんな無駄遣いなどしなくていいのだ」

「フェルも少しこういうものを持ってた方がいいよ。女の子なんだから。もっとおしゃれしていいと思うよ」

 遠慮するフェルを宥めて、お金を払って店員さんからネックレスを受け取った。

「彼氏さんにつけてもらうと良いですよ」

 そう言って店員さんは笑顔になる。
 後ろ向きになったフェルの首にネックレスを回して、留め金をとめた。

「ど……どうだろうか」

 「よく似合ってる。かわいいよ。フェル」

 少し顔を赤らめて首を見せるフェル。瞳の色と合ってネックレスはよく似合っていた。

「その……ありがとう。こういう贈りものをもらうというのは気恥ずかしいが存外に嬉しいものなのだな」

 フェルはその後ことあるごとに鏡やガラスに映るネックレスの様子を眺めていた。
 気に入ってくれたみたいでよかった。

 ホランドさんが言っていた調味料のお店はフェルのネックレスを買ったお店のすぐ近くにあった。
 
 中に入るとガラス瓶に入れられた調味料が並ぶ。
 気になったものは味見をさせてくれるらしい。
 ケチャップやマヨネーズ、醤油も売っていた。ホランドさんのいう通り少し高い。

 お湯に溶かしたりして出汁が取れるそういったものはないかと聞いたけど、置いてある調味料は全部食材にかけて使うものばかりだった。
 酸味と辛味が効いたタバスコみたいなものが気になったけど、値段を見て買うのをやめた。なんか自分で作れそうと思ったからだ。
 他にもいくつか味見をして、だいたいわかったところで店を出た。ちょっと期待外れだったな。

「良かったのか?何も買わないで」

「うん。やっぱりなんか自分で作れちゃいそうだなって思うとわざわざ買おうと思えなかったよ。村にいた時は森でいろいろ採取してきて工夫して料理を作ってたからね。なんか思ってたのとちょっとちがったよ」

 その後ガンツへのお土産を選んだ。いろいろ悩んだけど、ちょっと度数の高い良いお酒を店員さんの勧めるまま購入した。

 王城は少し小高い丘の上にある。
 緩やかな坂道をしばらく登っていくと、城門に続く道と展望台に続く道の2つに分かれていた。
 大きな門が遠くに見えて、衛兵の姿があった。展望台に行く道は王城に沿って奥の方に続いている。

 展望台はお城の城壁の端っこにあった。
 いくつかテーブルと椅子が並んでいて座って休めるようになっている。
 人はそんなにいなかったが、テーブルは空いてなかった。

 展望台からは王都が一望できる。
 方角がよくわからないから目印になる建物を2人で一生懸命探す。
 やがてあれだ!と思った建物を見つけたが、それはいつも行く公衆浴場の屋根だった。一番利用している場所だからな。
 フェルと2人して笑ってしまった。
 その後多分あれがガンツの工房だ、とかゼランドさんの商会は多分あれだとか2人でいろいろ言い合って、王都の景色を楽しんだ。
 お腹が空いたので空いているテーブルを探すが、どの席もうまってしまっている。
 芝生の上に敷物を敷いてお弁当を食べようかと話していたところで、声をかけられた。

 良かったら私たちのテーブルに座りなさいと優しく声をかけてくれたのは上品そうな老夫婦だった。
 一度は遠慮して断ったのだが、半ば強引にテーブルに座らせられてお茶を勧められた。

「私たちここにはよく来るのよ。いつもこの人と一緒だからあまり話題がないの。良かったら話し相手になってくれないかしら」

 優しい声でおばあさんが言う。大きめの水差しからお茶をコップに注いでくれて僕たちにご馳走してくれた。
 いただいた紅茶はまだ暖かくて、とても香りが良く美味しかった。

「お茶だけは良いものを使ってるのよ。私が好きでね。このお茶は私が茶葉を選んで合わせたものなの」

「これは美味しい。うちの母もお茶を淹れるのが上手であったが、これはそれ以上だ。ご婦人こんな良いお茶をご馳走になりありがたく思う」

「あの、僕たちここで昼ごはんを食べるつもりだったんですけど今食べても良いですか?」

 そう聞くと2人は笑顔で、私たちに気を使う必要はないから好きにすると良いと言ってくれた。

 お弁当は保温の箱に入れていたからまだ少し暖かい。さっきからフェルがワクワクしながら待っている。

 老夫婦はニコニコしながら僕たちのことを眺めていた。







 

 










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