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唐揚げサンド

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 86 唐揚げサンド

 昼の営業はかなり大変だった。何しろお客さんがひっきりなしに来るのだ。ホランドさんはそんなお客さんを待たせることなく次々と料理を出していく。

「ケイくん!サラダ3つ急いで!」

「おい、俺が頼んだのはスープとパンだぞ」

「若いの!その唐揚げはこっちだ」

 ときどき間違えながらも、その都度お客さんたちに支えられてなんとか昼の営業が終わった。

「大変だったろ、でもしっかりできてたじゃないか。これなら安心だ」

 椅子に座って汗を拭きながらホランドさんが僕に言う。

「いろいろ失敗もありましたけどね。でもお客さんがいい人で助かりました」

「うちのもたまに注文間違えたりしてるからな。お客さんもそれに慣れているんだ」

 そう言ってホランドさんは笑った。

 お茶を飲んでひと息ついたら、溜まってしまった洗い物を片付ける。お湯の出る魔道具があるのでそんなに大変ではない。
 みんな席に座る前に注文するからたまに混乱するんだよな。その人がどこに座ったか見てないとたまにわからなくなる。
 お客さんはほとんどが常連で、メニューも3つしかないから店に入って注文してから空いている席に座る人が多い。
 なんかいい方法ないかな。

 ノートを広げて店の中の簡単な見取り図を書く。
 定食屋ミナミでは4人がけのテーブルが2つ。窓際に2人がけのテーブルが2つ。カウンターは8人座れるようになっている。全部で20席。慣れてくれば覚えるのだろうけど、やっぱりピークの時は慌ただしくなってしまう。とにかく回転がいいのでけっこうやることは多い。

 割符のようなものがあるとわかりやすいのかな?
 あとはサラダだ。サラダは全部の定食に同じく付くわけだから、お客さんが席に着いたら水と一緒に持って行ってしまえばいい。
 水を出して、サラダも出して、だと2回往復することになる。
 夜はもっと効率よく動こう。

「普段は賄いを作って食べるんだが、今日は店のメニューにしたよ。味を覚えてくれ」

 ホランドさんが唐揚げ定食を作ってくれた。塩といくつかのスパイスで味付けされた唐揚げはパンによく合う味だった。
 サラダと一緒にパンに挟んで食べる。お客さんがやっているのを見たのだ。

「お?それは常連の食べ方だね。そうなんだよ。パンに挟むと美味しいだろ?」

 サラダのドレッシングがいいアクセントになって唐揚げサンドはとても美味しかった。でも、マヨネーズとか足したくなっちゃうな。唐揚げといえばマヨネーズだよね。

「マヨネーズとか付けたりしないんですか?」

 そうホランドさんに聞いてみたら、マヨネーズは知ってるんだけど手間がかかるからやってないそうだ。

「知り合いの鍛治師が最近卵を混ぜるのにいいものを作ったんですが興味あります?」

 泡立て器のことを話すとホランドさんは一度見てみたいという。今日は持ってきていないから、明日持ってきますと伝えた。
 マジックバッグは今日はフェルが持って行っているのだ。
 帰りにカバンでも買って、少し僕も荷物を持ってこようかな。自分の包丁のほうが使いやすいし。

 昼ごはんを食べたら、夜の部の仕込みをする。唐揚げは用意した分が半分以上なくなってしまったので、大きなボウルに2つ分作り足した。

 営業中の看板を出しに行くと、3人くらい開店を待つ人がいた。そのうち1人は冒険者で、僕のことを知ってた。

「お前、ウサギじゃねーか。ここで働いてんのか?」

「ギルドに依頼がきてたんだよ。2週間くらいここで働くんだ」

「初めてきたけどなんか唐揚げってのが美味いらしいな」

「うん。唐揚げ定食を頼む人は多いよ。僕もさっき食べたんだけど、パンにサラダと一緒に挟んで食べると美味しいよ」

「よし、じゃあその唐揚げ定食を頼むぜ」

「わかった。空いてる席に座って待っててよ」

 入ってきたお客さん3人とも唐揚げ定食だったのでホランドさんに注文を伝えてサラダを手早く作る。お盆に乗せてお水と一緒に配って回る。

「おー、なかなかうめぇじゃねーか。これで銅貨5枚?なかなかいいな。ウサギ、もう1個くれ」

「ありがとうございまーす。唐揚げ定食おかわりです」

 厨房に向けて叫ぶと、ホランドさんが返事を返す。

 そうこうしてる間にもうお店は満席だ。
 外に数人並んでいる。

「ウサギ、ご馳走さん。みんなにも勧めておくぜ。ウサギがやってる唐揚げ屋って」

「僕の店じゃないからね。でもありがとう。定食屋ミナミをよろしくお願いします」

 それから2時間途切れることなくお客さんが入って、ようやく落ち着いた頃フェルが来た。

「ケイ。どうだ仕事は?大変か?」

「フェル!いらっしゃい。注文はどうする?お腹が空いてたら大盛りが出来ないから2つ頼むといいよ。昼に来てた冒険者はそうしてたから」

 フェルは唐揚げ定食とスープとパンのセットを頼んだ。それでも銅貨10枚なのだから安い。
 ちなみにオーク肉の素揚げは銅貨7枚。美味しそうだけどあんまり出ない。この店のメインはやっぱり唐揚げだ。

 夜はしっかり食べる人が多いのだろうか。定食を2つ頼む人が多い。大盛りとか出来ればいいのにと思うけど、パンの数が決まっているのだ。
 パンは朝と夕方決まった分配達される。
 次の日の材料は昼の営業が終わった頃に届く。その時店にある在庫を見ながらホランドさんは次の日の分の発注をしている。

「フェル。あと少しで店が終わるから座って待ってて。あとでお茶持ってくるね」

 パンが無くなったところで本日の営業は終了した。

「その美人さんはケイくんの彼女かい?」

 ホランドさんが奥から出てきて僕に尋ねる。

「彼女ではないんですが、一緒に共同生活してるんです。このあと公衆浴場に2人で行って家に帰るんです」

 テーブルを拭いていたら、フェルが手伝ってくれた。それを任せて僕は厨房の片付けをする。

 ホランドさんが夕飯を作ってくれた。残ったスープとパン。それを手早くいただいて残りの片付けをする。

「なるほどねーフェルさんは冒険者をやってるのか。ねえ、今日みたいに店の片付けを手伝ってくれたら、うちで夕飯を出してあげるよ。どうせなら2人で一緒に食べたほうがいいだろ?」

「いいんですか?すごく助かっちゃいます。帰ってご飯を作るの大変だなって少し思ってたんですよ」

「普段はケイくんが食事を作ってるのかい?」

「はい。僕たちお金がないからいつも自炊してるんです」

「うちで働く日はうちで食べていくといいよ。そのうちケイくんにも賄いを作ってもらおうかな。今日見てたら結構料理できそうな感じがするし」

「やらせてもらえるなら嬉しいです。じゃあ明日の賄いは僕が作りますね」

 そんな話をしながら厨房を片付けて、フェルに出してもらった泡立て器を見せる。
 ボウルに水を入れて実際使ってもらうと、ホランドさんが納得した顔をする。

「その鍛治師にうちの分も作ってもらえるように頼んでみてくれないか?ただ、卵だよな。毎朝仕入れに行かなくちゃ行けないし」

「僕が明日は買ってきますよ。毎朝その卵屋さんに行ってるんです。そこで売ってる牛乳が美味しいんですよ。配達できるかも頼んでみますね」

「試しに明日からやってみようか。そのうち銅貨1枚でマヨネーズをつけるということにして」

「その泡立て器、試作品だからよかったら差し上げますよ。僕は新しいのもらえることになってるから」

「いいのかい?助かるよ。さて、今日はもうおしまいだね。お疲れ様、ケイくんが来てくれてよかった。明日もよろしく」







 


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