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メガネ

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 19 メガネ 
 
「身分証かギルドカードを出してください」

 受け付けのメガネをかけた男性は事務的に僕らに言う。

「あのー僕たちおんなじ村から出てきたんですけど、彼女の身分証が途中で無くなってしまって」

 メガネの男性に事情を話す。ウソだけど。

「では先にあなたの身分証から拝見します。あー、ゾルド村から、それはまたずいぶん遠くからいらっしゃいましたね。大丈夫ですよ。そちらの方も手続きすれば王都にちゃんと入れますから。ではちょっとお待ちくださいね」

 メガネの男性が先に僕の手続きを済ませる。身分証にスタンプを押してくるっと丸めて返してくる。

「ケイさんの手続きはこれで終了です。ここまで何で来ましたか?乗り合い馬車なら割符を出してください」

 そう言われてフェルのと僕の、2枚の割符を渡す。

「あー1枚あればいいですよ。はい、お預かりします」

 メガネの男性が割符を受け取る。その割符の表と裏を確認して、割符を返してくれた。
 僕が不思議そうに見ているのに気づいてメガネの男性が説明してくれる。

「割符があると言うことはですね、すでに何らかの身元の確認はできている、と言うことになります。王都行きの乗り合い馬車は怪しい人を絶対に載せませんからね」

 そうなんだ。そういえば馬車を予約する時身分証を見せて事情を説明したな。

「ということなので、今回は保証金を支払って、仮の入場になります。銅貨20枚お預かりして、こちらの証明書を発行いたします。お名前を教えていただいて良いですか?」

 フェルが自分の名前と、僕と同じ村から来たことを改めて伝える。
 
「はい。フェルさんですね。1週間以内に別の身分証明書、まあギルドカードですね。それと今回発行する証明書、こちら2つお持ちいただければ、預かりましたお金はお返しいたします。返金の期限は1週間ですのでお気をつけ下さい」

 そう言って、メガネの男性は棚から水晶玉のような魔道具を取り出した。
 
「最後に過去の犯罪履歴をこちらの魔道具で確認させていただく必要があるのですが、よろしいですか?」

 メガネの男性は机の上にある水晶玉を手に取った。青く光っている。
 男性が水晶を台座に戻すと淡い光は消えた。

 フェルが同意すると、台座ごと水晶を近づけてフェルに水晶を触るように指示する。

 フェルが水晶に触れると青く光った。

「はい。けっこうですよ。では保証金銅貨20枚、お支払いください」

 メガネの男性は証明書に2種類のスタンプを押しながら言う。保証金はフェルが自分の財布から出した。

「インクが乾くまでは触らずこのままお持ちください。インクは5分ほどで乾きます」

 証明書をフェルに手渡してメガネの男性は笑顔になった。

「はい、これで手続きは終わりです。ようこそ王都へ」
 
 そう言ってメガネの男性が軽くお辞儀する。

「はい、次のかたーお待たせいたしましたー」

 メガネの男性が僕の後ろに並んでいた人に声をかける。
 けっこう事務的だったな、しかも後でお金を返してくれるんだ。割符がなかったらもっとお金を払わなくちゃいけなかったのかな?
 とにかく出費が抑えられてよかった。

 僕たちは手を繋ぎながらゆっくりと王都の門をくぐった。

 門を抜けて少し歩けば乗り合い馬車と御者のおじさんが手を振っているのが見えた。

 割符のおかげで手続きが円滑に進められたと、御者さんにお礼を伝える。御者さんは不思議そうな顔をしている。

「ん?オレは何にもしてないぜ?王都に入る時に乗客に怪しいやつがいなかったか報告する義務はあるが特に問題なしと報告しただけだぞ?」

 御者のおじさんに割符を返して別れの挨拶をして、とりあえず真っ直ぐ王都の中心に向かって歩いた。

 北に向かってまっすぐと続いている大通りには石畳が敷かれて、その両脇にはさまざまなお店が並んでいる。道の両脇には屋台がぽつりぽつりと出店されていた。
 中心の方に近づくにつれてその広い大通りには屋台の数が増えてくる。
 なんか買ってみようかな?
 
 銅貨3枚の串焼きを2本買ってフェルにそれを渡す。

「おじさん。この辺に靴屋ってないかな?なるべく上等なものが欲しいんだけど、お金があと銀貨3枚くらいしかないんだ。どこかいい店知らない?」
 
 フェルのサンダルを指差しながら聞いてみる。
 おじさんは少し気の毒そうな顔をして。考え込む。

「質がいいものはもう少し根が張るからなー。難しいな。金が足りるかわからねーがけっこういい腕してる靴職人の工房なら近くにあるぜ。向こうの青い建物の手前の路地を入ってすぐだ。小さな工房だか、靴がいっぱい置いてあるからすぐわかると思うぜ。」
 
 おじさんの指差す方を見ると青い屋根の建物があった。
 おじさんにお礼を言って、その靴職人の店に行く。串焼きはなんの肉かよくわからなかったがけっこう美味しかった。

 靴職人の工房はすぐわかった。
 商品に触れないように気をつけながら店の中に入る。
 金髪の、キレイにヒゲを剃った20代くらいの男の人が店番をしていた。

「すみません。この子の靴が欲しいんですけど、すぐ用意することってできますか?」

「すぐって今すぐってことだよね。おや、お嬢さん、どうしたの?履いてた靴壊れちゃったの?」

 フェルがぶかぶかのサンダルを履いてるのをみて、靴屋のお兄さんが聞いてくる。

「僕たちおんなじ村から出てきて、さっき王都についたとこなんだ。途中でこの子の靴があってなかったみたいでひどい靴ずれを起こしちゃって。今まで履いてた靴は血まみれ。途中で捨ててきちゃった」

「それは大変だったねぇ。ちょっと足を見てもいいかい?うちは注文を受けてから靴を作っているから店に在庫があるわけではないんだよ。そこに並んであるのは見本でね。そうだな。見本の中で合う靴がもしあれば売ってあげてもいいよ」

 そう言われてフェルがサンダルを脱ぎ裸足の足を差し出す。
 お兄さんはしゃがみ込んでフェルの足をベタベタ触る。少し嫌な気分になった。

「あーこれだいぶひどいね。かなり前からその靴履いてたんじゃない?だめだよ。足って朝と夕方とで大きさがけっこう変わるんだよ。履けるからってピッタリの靴を履いたらダメなんだ。あ、次反対ねー」

 サンダルを履き直しもう片一方の足を差し出すとお兄さんがまたベタベタと足を触る。

「あー、やっぱりねー。中指の形が変わってきてるじゃないか。その靴ちゃんとしたお店で買ったの?」

 僕らは田舎の村の出身で、靴は貰い物だったとウソをつく。

「だめだよー。それ一番だめ。もらった靴を大事に履いてて、足の大きさが変わったことに気づかないでそのまま履き続ける。そんなことを続けたら病気になって歩けなくなっちゃうよ。その病気には回復魔法が効かないんだ。足の指を毎日無理やり引っ張って直すんだよ。痛いよーそうなったら」

 お兄さんはフェルの足から目を離さず言う。

「でもお嬢さんの足綺麗だね。この足にそのサイズの合わないダサいサンダルなんて全ての靴屋にケンカ売ってるようなものだ。よし、お兄さんが何とかしてあげよう。えーとね。確かこの辺りに……」

 お兄さんは雑然と靴が置いてある棚から1足のブーツを取り出した。

「ちょっとこれ履いてみて、あ、うんそうそう。それでちょっとつま先で立ってみて、ああいいね。ちょっと触るけどいい?靴の上からだけど。うん。はいおしまい」

 お兄さんはフェルにあれこれ指示を出し、靴の上から足を触る。なんかお医者さんみたいだ。
 ちょっと手つきが変態っぽいけど。

「さてそこの坊ちゃん。お金の話は坊ちゃんでいいのかな?その靴は別のお客さんの注文したものなんだけど、まだ納期まで時間があるからまた作り直せばいい。この靴でいいならこれからこのお嬢さんに合わせて調整して売ってあげてもいいんだけど……この靴銀貨で5枚するんだが坊ちゃんお金持ってる?」

「銀貨3枚までなら出せるんですが、そのくらいの値段の靴ってありませんか?」

 そう言うと、お兄さんは困った顔で。

「うちにあるのでちょうどいいのはこれ1足だけなんだよ。適当な安物買ってまた足の大きさが合わないとまたおんなじことになっちゃうよ。今度こそ足の指が歪む病気になっちゃう。職人としてはそんな適当な靴売れないね」

 そう言われて僕はカウンターの上に財布をひっくり返して全部のお金を並べた。
 銅貨も合わせると銀貨4枚近くはあるはずだ。

「お願いします!僕たちこれから冒険者として仕事を始めようと思ってるんです。足にあったいい靴は何より大切だと思って、ギルドに行く前に真っ先に靴を探しにきたんです。これが僕の持ってるお金の全部です。足りない分は後で必ず支払いますのでこれでフェルに新しい靴を売っていただけませんか?」

 そう言って深く頭を下げる。
 お兄さんはお金を数えながら。

「うーん。少し足りないけど……まあいいか、彼女フェルちゃんっていうのかい?冒険者にとって足元は何より大切だ。君もよくわかってるねー。そうだな、フェルちゃんの綺麗な足が歪むくらいなら、このお金全部でいいよ。この靴、譲ってあげよう。ちょっとそこに座って待ってて、今調整するから」

 そう言ってフェルの履いてるブーツを脱がしてそのブーツの中をあちこち縫い始める。
 1時間ほどしてフェルの靴が完成した。
 フェルがその靴を履いて驚いた表情をする。

「ケイ、この靴はすごいぞ。まるで裸足で歩いているかのようだ。先ほどは少し違和感があったが、今は全くないぞ」

 そう言ってフェルはその場で何度もジャンプする。

「でも良いのか?冒険者ギルドの登録料が足りなくなるかもしれないぞ?私の靴など後回しでかまわない。しばらく裸足でいたってよいのだぞ」

「「だめだよ!」」

 靴屋のお兄さんと僕は同時に叫ぶ。

 それからいかに冒険者にとって靴が大事か、2人で熱く語り、フェルはしぶしぶこの靴を買うことを承諾した。

 店を出るとき、お兄さんは名前を名乗り、今度はちゃんとお金を稼いで注文しに来てねと笑った。

 靴屋のお兄さんはサイモンさんと言う名前だった。靴のマニア?っていうの?足フェチ?腕は確かに良いみたいだけど、一歩間違えれば変態と思われるような危うい人だったな。でも自分の仕事に誇りを持ってやっている職人さんってなんかいい。
 お金に余裕ができたら靴を頼みにまたこよう。















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