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嫌な街
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14 嫌な街
目を覚ますとフェルは先に起きていて、もう着替えも終わっていた。
まだ時間はあるからゆっくり支度すればいいと言ってフェルは先に下に降りて行った。
急いで着替えて荷物を持って出る。
食堂に行く前に、先に宿のカウンターに行って鍵を返した。
宿の主人はニヤニヤしながらどうだった夕べはと聞いてくる。
適当に返事をしてお茶を濁した。
フェルは注文せずに待っていてくれていたので2人分の朝食を頼んで席に着く。
朝食のパンは1人2個までだった。
8時になる少し前に宿を出て乗合馬車の予約をしに向かう。早めに行ったおかげでちゃんと2人分席が取れた。
身分証は問題にならなかった。乗り合い馬車を運営している商会はこの街とは関係がないみたいだ。
乗車券にあたる割符をもらって、出発までまだ時間があるので食材を買いに行く。
良さげなパン屋を見つけて入ってみると、小さな丸いパンで銅貨3枚もする。
仕方ないのでちょっと大きめの硬い黒パンを2個買って店を出た。黒パンは1個銅貨2枚だった。
食料品店に入って食材を探す。
どれもみんな最初の町の倍以上の値段がする。
一番安い干し肉を1キロ買う。
店のおばさんになんでこんなに物価が高いのかと聞くと、儲けの6割が税金として取られてしまうから仕方がないのだ、と小声で教えられた。
しばらく歩くと市場のようなところがあったので行ってみる。けれど市場には活気がなかった。
ジャガイモが一番安かったので10個買った。
タマネギも欲しかったのでそれは3つだけ買った。とにかくこの街は物価が高いなぁ。
この街の貴族には本当、いやになっちゃうな。きっと自分たちだけはすごい贅沢をしてるんだ。
門に戻る途中冒険者ギルドの前を通った。覗いてみると、中にいる人はまばらで雰囲気も暗かった。
身分証が作れるとしても、この町で冒険者登録する気にはなれないな。
早くこの街を出てしまいたい。
乗る馬車を見つけて御者のところに行く。
まだ30分以上時間があるそうだ。
フェルがお手洗いに行くと言ったので待ってる間に、御者のおじさんに移動の予定を聞く。
今日は夜通し走ってこの領地から出てしまうらしい。隣の領地の町に着いたらそこで1泊、ここからはあまり無理をせず進み、毎日夕方前には次の街に着くぐらいのペースで2日。王都に着くのは4日目の昼になるとのこと。
この領地にある街はどこも規模が大きいけど、この街とおんなじで物価が高くて治安も悪いらしい。
乗客が滞在を嫌がるのだそうだ。
「この街も嫌な街だったろ」
そう言って御者のおじさんは苦笑いした。
フェルが戻って来たので馬車に乗り出発を待った。
やがて御者のおじさんの声がして、馬車が動き出す。
「初日は夜通し走るんだって、この領地を出ちゃうんだってさ」
フェルにさっき聞いた話をする。
昼過ぎに食事休憩。次の休憩は夕方になる。
そしたら夜通し走って町を目指すそうだ。
夜は止まらないで走るから気をつけろよ。用事は夕方に済ませておくんだ。
御者のおじさんがスープに固い黒パンを浸して食べてた僕たちに教えてくれた。
用事って、ああトイレのことか。
夕方の休憩ではリンゴを食べた。
黒パンが美味しくなかったのだ。
村の固いパンでもここまで不味くはなかった。
ほんと嫌な街だったな。
その後、夜通し馬車は走り続けた。
唯一救われたのは、道がちゃんと整備されていたから馬車の揺れがほとんどなかったことだ。
おかげで馬車の中でぐっすり眠ることができた。
朝方、馬車が急に揺れ出して目を覚ます。
きっと領地を出たんだ。
ピッタリ自分の領地の分だけ整備したんだろうなと想像する。
町に着いたのは朝の10時過ぎだった。
翌朝も10時に出発するとのこと。
割符をなくさないようにと注意を受けた。
お腹が空いたので何か食べてから宿を探そうと言う話になった。
フェルに何を食べたいか聞くと、僕の作ったスープが飲みたいと言う。
騎士団の詰め所があったので、そこで煮炊きしても良い場所がないか聞いてみた。
公園なら構わないと言われた。火の始末はきちんとするようにと注意されたけど。
街の中央はきれいな石畳になっていて、小さな公園があった。建物は古いものが多くて趣のあるいい風景だ。
時折り吹いてくる風が優しくて気持ちがいい。
公園のベンチの近くに、台を置いてコンロを置く。まな板など準備して、黒パンをちぎって食べてみる。
けっこう酸っぱいんだよな。このパン。
でも食べないと勿体無いしな。
タマネギを1個、細めのくし切りに。
ニンジンはみじん切りにする。それを油でさっと炒めたら、水を入れて火にかける。
ジャガイモを2個皮を剥いて1センチ角のサイコロ状に切った。
干し肉を細かく削って鍋に入れしばらく煮込む。じゃがいもでトロ味がついて来た頃に、食べやすい大きさに切った黒パンを入れる。
少し押しつぶす感じにして黒パンから酸味が抜けるようにした。
ちょっと味を見てから、辛味のある香草を少し入れて、少しずつ味見しながら塩胡椒で味を整えた。うん。なかなかいい味だ。
フェルがいつの間にか、興味深そうに鍋を覗き込んでいた。
「フェル。あそこの屋台で果実水を2つ買って来て。フェルが飲みたいって思うやつでいいから」
そう言ってお金を渡すとフェルはうれしそうに買いに走った。
フェルってあまり欲しいものとか言わないからな。どうしたらいいんだろう。
必要なものとかないのかな?宿を決めたら今日は別行動することにして、お金を渡して買い物に行かせようかな。
コンロの火を止めて最後にもう一度味見する。
酸味と辛味が効いていい味だ。
少し不安だったけど美味しくできてよかった。
フェルが戻って来たのでベンチに座り昼食にする。
「スープって言ってたけどパン粥みたいになっちゃった。ごめんね」
とフェルに先に謝っておく。
フェルは一口食べてとろけるような笑顔になった。
「美味しいぞ!ケイ。作っている時から美味そうな匂いだとは思っていたが想像以上だ。あのまずい黒パンがここまで美味しくなるとは。間違いなくケイには料理のスキルがあるぞ。機会があれば教会で見てもらうといい」
そうなのか、スキルってあるのか。じいちゃんは教えてくれなかったな。
フェルにスキルのことをもう少し聞いてみた。
食べながらフェルに聞いたスキルについての話をまとめると、普通の人でも何かの仕事や、または武術などを学び、その技術を磨いていれば、その技術がスキルとして習得できるらしい。
稀にスキルを生まれながらに持つ特殊な人もいるが、大体は後から訓練で身につけるらしい。
スキルが手に入ると身につけた技術がさらに上達する。
そしてさらに努力を続ければ、そのスキルのレベルがだんだんと上がっていくんだそうだ。
スキルのレベルが上がれば、人間とは思えないような動き、例えば剣であれば、硬い岩などもスパッと切ることができるようになるんだそうだ。たとえそれが安物の剣であったとしても。
「私が最後に教会で調べてもらった時は剣術のレベルは7だったぞ。昔、剣聖と呼ばれた剣の達人は剣術スキルがレベル10だったと言われている。だからスキルのレベルの上限は10であると考えられているのだ。私の年で剣術レベルが7になる者はなかなかいないんだぞ。こう見えてわたしはけっこう強いのだ」
フェルは自慢げに言った。ドヤ顔しててもなんかかわいい。
「すごいね、フェル。じゃあ王都に着いたらまずフェルの剣を手に入れなくちゃね」
「私の武器など後回しでもいいのだぞ。まずは住む場所ではないのか?」
「仕事で使う道具は大切だよ。その道具が無けりゃ仕事にならなかったりするでしょ。フェルは冒険者をやるつもりなんだから武器は早めに用意しないと。ほら、僕の包丁とおんなじだよ。なるべくいいものを手に入れよう」
そう言うとフェルはしぶしぶ納得する。
フェルが買って来た果実水はオレンジと桃だった。なんとなくフェルは桃が好きそうだなと思って桃の果実水を渡すと表情が輝き出す。
よかった。正解だったみたいだ。
桃の果実水を一口もらったが、確かに女の子の好きそうな味だった。
果実水を飲みながら食事を楽しみ、僕はスープをもう1杯、フェルは2杯もおかわりをした。
空になった鍋は軽く濯いで水を捨て、マジックバッグに入れる。
どこで洗い物をしたらいいかわからないから後で宿で洗うことにした。
その後果実水屋さんにコップを返しに行き、市場の場所を教えてもらい、少しこの町の物価を調べてみることにした。
市場はとても賑わっていて、気をつけないと迷子になりそうだ。物価はあの嫌な街の半分以下、いや、物によってはかなり安い。
八百屋のおばちゃんがヒマそうに座ってたので、なんでこんなに物価が安いのか聞いてみたら、この辺りは王都に住む人たちの食事を支える農業地帯なのだそうだ。この町で食料品を仕入れて丸1日かけて王都に運び市場に並ぶんだそうだ。
高速馬車と呼ばれる特殊な馬車で、御者2人で交代しながら夜通し移動して運ぶらしい。
それから最近は、あの嫌な貴族が統治する領地から農民が自分の作った作物を持って売りに来るので、さらに流通量が増えて物価が下がっているんだそうだ。
それでその人たちに儲けが出るのかと聞くと、それでも税金で取られる分を考えれば、こっちで売る方がまだお金になるみたい。
魔物の出る道を集団で抜けて、作った作物を売りに来るらしい。
農民は税をその作物で払うけど、余った余剰分を売ってお金に変えようとすると6割の税金を取られるんだって。なので村を抜け出し盗賊になる者も後を立たないんだそうだ。
そんな領地に泊まりたくなんてないよね。夜通し走って正解だ。
あの街で無理して買い物しないほうがよかったかもな。情報不足だった。
話好きな八百屋のおばちゃんにお礼を言って宿に向かう。おばちゃんがオススメの宿を教えてくれたのだ。
ひと部屋食事付きで銅貨40枚。
2人部屋なら食事2人分で銅貨60枚だ。
2人部屋でお願いする。
2人部屋と聞いたけどベッドは一つだけだった。いわゆるダブルって部屋だな。ツインて言えばベッドが2つの部屋になったんだろうか。
ツインって言っても伝わらないだろうな。
なんて言えばよかったんだろう。
フェルは相変わらず気にしてないので、今日も我慢することにする。
男として見てくれてないのかな。
年下だし、弟みたいに思われてるのかもしれない。
目を覚ますとフェルは先に起きていて、もう着替えも終わっていた。
まだ時間はあるからゆっくり支度すればいいと言ってフェルは先に下に降りて行った。
急いで着替えて荷物を持って出る。
食堂に行く前に、先に宿のカウンターに行って鍵を返した。
宿の主人はニヤニヤしながらどうだった夕べはと聞いてくる。
適当に返事をしてお茶を濁した。
フェルは注文せずに待っていてくれていたので2人分の朝食を頼んで席に着く。
朝食のパンは1人2個までだった。
8時になる少し前に宿を出て乗合馬車の予約をしに向かう。早めに行ったおかげでちゃんと2人分席が取れた。
身分証は問題にならなかった。乗り合い馬車を運営している商会はこの街とは関係がないみたいだ。
乗車券にあたる割符をもらって、出発までまだ時間があるので食材を買いに行く。
良さげなパン屋を見つけて入ってみると、小さな丸いパンで銅貨3枚もする。
仕方ないのでちょっと大きめの硬い黒パンを2個買って店を出た。黒パンは1個銅貨2枚だった。
食料品店に入って食材を探す。
どれもみんな最初の町の倍以上の値段がする。
一番安い干し肉を1キロ買う。
店のおばさんになんでこんなに物価が高いのかと聞くと、儲けの6割が税金として取られてしまうから仕方がないのだ、と小声で教えられた。
しばらく歩くと市場のようなところがあったので行ってみる。けれど市場には活気がなかった。
ジャガイモが一番安かったので10個買った。
タマネギも欲しかったのでそれは3つだけ買った。とにかくこの街は物価が高いなぁ。
この街の貴族には本当、いやになっちゃうな。きっと自分たちだけはすごい贅沢をしてるんだ。
門に戻る途中冒険者ギルドの前を通った。覗いてみると、中にいる人はまばらで雰囲気も暗かった。
身分証が作れるとしても、この町で冒険者登録する気にはなれないな。
早くこの街を出てしまいたい。
乗る馬車を見つけて御者のところに行く。
まだ30分以上時間があるそうだ。
フェルがお手洗いに行くと言ったので待ってる間に、御者のおじさんに移動の予定を聞く。
今日は夜通し走ってこの領地から出てしまうらしい。隣の領地の町に着いたらそこで1泊、ここからはあまり無理をせず進み、毎日夕方前には次の街に着くぐらいのペースで2日。王都に着くのは4日目の昼になるとのこと。
この領地にある街はどこも規模が大きいけど、この街とおんなじで物価が高くて治安も悪いらしい。
乗客が滞在を嫌がるのだそうだ。
「この街も嫌な街だったろ」
そう言って御者のおじさんは苦笑いした。
フェルが戻って来たので馬車に乗り出発を待った。
やがて御者のおじさんの声がして、馬車が動き出す。
「初日は夜通し走るんだって、この領地を出ちゃうんだってさ」
フェルにさっき聞いた話をする。
昼過ぎに食事休憩。次の休憩は夕方になる。
そしたら夜通し走って町を目指すそうだ。
夜は止まらないで走るから気をつけろよ。用事は夕方に済ませておくんだ。
御者のおじさんがスープに固い黒パンを浸して食べてた僕たちに教えてくれた。
用事って、ああトイレのことか。
夕方の休憩ではリンゴを食べた。
黒パンが美味しくなかったのだ。
村の固いパンでもここまで不味くはなかった。
ほんと嫌な街だったな。
その後、夜通し馬車は走り続けた。
唯一救われたのは、道がちゃんと整備されていたから馬車の揺れがほとんどなかったことだ。
おかげで馬車の中でぐっすり眠ることができた。
朝方、馬車が急に揺れ出して目を覚ます。
きっと領地を出たんだ。
ピッタリ自分の領地の分だけ整備したんだろうなと想像する。
町に着いたのは朝の10時過ぎだった。
翌朝も10時に出発するとのこと。
割符をなくさないようにと注意を受けた。
お腹が空いたので何か食べてから宿を探そうと言う話になった。
フェルに何を食べたいか聞くと、僕の作ったスープが飲みたいと言う。
騎士団の詰め所があったので、そこで煮炊きしても良い場所がないか聞いてみた。
公園なら構わないと言われた。火の始末はきちんとするようにと注意されたけど。
街の中央はきれいな石畳になっていて、小さな公園があった。建物は古いものが多くて趣のあるいい風景だ。
時折り吹いてくる風が優しくて気持ちがいい。
公園のベンチの近くに、台を置いてコンロを置く。まな板など準備して、黒パンをちぎって食べてみる。
けっこう酸っぱいんだよな。このパン。
でも食べないと勿体無いしな。
タマネギを1個、細めのくし切りに。
ニンジンはみじん切りにする。それを油でさっと炒めたら、水を入れて火にかける。
ジャガイモを2個皮を剥いて1センチ角のサイコロ状に切った。
干し肉を細かく削って鍋に入れしばらく煮込む。じゃがいもでトロ味がついて来た頃に、食べやすい大きさに切った黒パンを入れる。
少し押しつぶす感じにして黒パンから酸味が抜けるようにした。
ちょっと味を見てから、辛味のある香草を少し入れて、少しずつ味見しながら塩胡椒で味を整えた。うん。なかなかいい味だ。
フェルがいつの間にか、興味深そうに鍋を覗き込んでいた。
「フェル。あそこの屋台で果実水を2つ買って来て。フェルが飲みたいって思うやつでいいから」
そう言ってお金を渡すとフェルはうれしそうに買いに走った。
フェルってあまり欲しいものとか言わないからな。どうしたらいいんだろう。
必要なものとかないのかな?宿を決めたら今日は別行動することにして、お金を渡して買い物に行かせようかな。
コンロの火を止めて最後にもう一度味見する。
酸味と辛味が効いていい味だ。
少し不安だったけど美味しくできてよかった。
フェルが戻って来たのでベンチに座り昼食にする。
「スープって言ってたけどパン粥みたいになっちゃった。ごめんね」
とフェルに先に謝っておく。
フェルは一口食べてとろけるような笑顔になった。
「美味しいぞ!ケイ。作っている時から美味そうな匂いだとは思っていたが想像以上だ。あのまずい黒パンがここまで美味しくなるとは。間違いなくケイには料理のスキルがあるぞ。機会があれば教会で見てもらうといい」
そうなのか、スキルってあるのか。じいちゃんは教えてくれなかったな。
フェルにスキルのことをもう少し聞いてみた。
食べながらフェルに聞いたスキルについての話をまとめると、普通の人でも何かの仕事や、または武術などを学び、その技術を磨いていれば、その技術がスキルとして習得できるらしい。
稀にスキルを生まれながらに持つ特殊な人もいるが、大体は後から訓練で身につけるらしい。
スキルが手に入ると身につけた技術がさらに上達する。
そしてさらに努力を続ければ、そのスキルのレベルがだんだんと上がっていくんだそうだ。
スキルのレベルが上がれば、人間とは思えないような動き、例えば剣であれば、硬い岩などもスパッと切ることができるようになるんだそうだ。たとえそれが安物の剣であったとしても。
「私が最後に教会で調べてもらった時は剣術のレベルは7だったぞ。昔、剣聖と呼ばれた剣の達人は剣術スキルがレベル10だったと言われている。だからスキルのレベルの上限は10であると考えられているのだ。私の年で剣術レベルが7になる者はなかなかいないんだぞ。こう見えてわたしはけっこう強いのだ」
フェルは自慢げに言った。ドヤ顔しててもなんかかわいい。
「すごいね、フェル。じゃあ王都に着いたらまずフェルの剣を手に入れなくちゃね」
「私の武器など後回しでもいいのだぞ。まずは住む場所ではないのか?」
「仕事で使う道具は大切だよ。その道具が無けりゃ仕事にならなかったりするでしょ。フェルは冒険者をやるつもりなんだから武器は早めに用意しないと。ほら、僕の包丁とおんなじだよ。なるべくいいものを手に入れよう」
そう言うとフェルはしぶしぶ納得する。
フェルが買って来た果実水はオレンジと桃だった。なんとなくフェルは桃が好きそうだなと思って桃の果実水を渡すと表情が輝き出す。
よかった。正解だったみたいだ。
桃の果実水を一口もらったが、確かに女の子の好きそうな味だった。
果実水を飲みながら食事を楽しみ、僕はスープをもう1杯、フェルは2杯もおかわりをした。
空になった鍋は軽く濯いで水を捨て、マジックバッグに入れる。
どこで洗い物をしたらいいかわからないから後で宿で洗うことにした。
その後果実水屋さんにコップを返しに行き、市場の場所を教えてもらい、少しこの町の物価を調べてみることにした。
市場はとても賑わっていて、気をつけないと迷子になりそうだ。物価はあの嫌な街の半分以下、いや、物によってはかなり安い。
八百屋のおばちゃんがヒマそうに座ってたので、なんでこんなに物価が安いのか聞いてみたら、この辺りは王都に住む人たちの食事を支える農業地帯なのだそうだ。この町で食料品を仕入れて丸1日かけて王都に運び市場に並ぶんだそうだ。
高速馬車と呼ばれる特殊な馬車で、御者2人で交代しながら夜通し移動して運ぶらしい。
それから最近は、あの嫌な貴族が統治する領地から農民が自分の作った作物を持って売りに来るので、さらに流通量が増えて物価が下がっているんだそうだ。
それでその人たちに儲けが出るのかと聞くと、それでも税金で取られる分を考えれば、こっちで売る方がまだお金になるみたい。
魔物の出る道を集団で抜けて、作った作物を売りに来るらしい。
農民は税をその作物で払うけど、余った余剰分を売ってお金に変えようとすると6割の税金を取られるんだって。なので村を抜け出し盗賊になる者も後を立たないんだそうだ。
そんな領地に泊まりたくなんてないよね。夜通し走って正解だ。
あの街で無理して買い物しないほうがよかったかもな。情報不足だった。
話好きな八百屋のおばちゃんにお礼を言って宿に向かう。おばちゃんがオススメの宿を教えてくれたのだ。
ひと部屋食事付きで銅貨40枚。
2人部屋なら食事2人分で銅貨60枚だ。
2人部屋でお願いする。
2人部屋と聞いたけどベッドは一つだけだった。いわゆるダブルって部屋だな。ツインて言えばベッドが2つの部屋になったんだろうか。
ツインって言っても伝わらないだろうな。
なんて言えばよかったんだろう。
フェルは相変わらず気にしてないので、今日も我慢することにする。
男として見てくれてないのかな。
年下だし、弟みたいに思われてるのかもしれない。
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