上 下
10 / 236

村を出る

しおりを挟む
 10 村を出る

 家に帰る途中で馬に乗った騎士たちに追い越された。騎士たちはそのまま村から出ていった。
 あいつらお礼の一つもなかったな。まぁ別にいいけど。

 家に帰ってもすぐにフェルのところに行かず、報告したい気持ちを我慢して、じいちゃんの手伝いをする。
 村人が客としてまだいるので慎重に、いつも通りの行動する。
 
 案内しながらこっそり回収した山菜とキノコを使って、今日の夕食のスープを作った。
 料理を作りながら、じいちゃんに、2、3日したらフェルと一緒に村を出ようと思っていることを打ち明けた。
 じいちゃんは突然の話に驚いていたが、やがてニヤニヤしながら。

「そうじゃな、あんなにかわいい娘さんを1人追い出すわけにもいかんしな。2人で王都に行くのか?道中仲良くするんじゃぞ」
 
 じいちゃんは見透かしたような表情で僕を見てくる。
 何日か落ち着くのを待ってこっそり村を出るつもりだと言うと、村長だけには話して身分証をもらってこいと言われた。
 王都や、大きな街に入る時必要なんだって。
フェルの分は無くしたとか言ってお金を払えば大丈夫らしい。その後冒険者ギルドで身分証を作ればいいんだそうだ。
 そうすれば王国の人間として扱われるとじいちゃんが言っていた。

 じいちゃんとばあちゃんは東の国から駆け落ちしてきたので、入国するのにけっこう大変だったみたい。1人でも身分の確かな者が同行した方が手続きが楽なのだそうだ。

 最後のお客が帰った。しっかり戸締まりをして2階のフェルを呼んだ。
 心配そうな顔をして降りてきたフェルに全てうまくいったことを伝える。
 ほっとした表情でフェルがお礼を言ってくる。

 これからの話は夕食の後にすることにして先にみんなでご飯を食べた。

 食器を片付け、お茶を入れる。

 最初に僕が話を切り出した。

「えーと、作戦通りフェルは死んだと思って、鎧の残骸を回収して連中は帰ったよ。あいつらほんと最低だね。もしフェルが捕まったらみんなで犯したあと殺すつもりだったみたいだよ。話してるの聞いちゃった」

 フェルが顔を歪めて怒りをあらわにする。

「それでこの先のことなんだけど……この先フェルはこの村では暮らせないと思う。騎士たちが来ちゃったからね。村人にあれこれ聞かれて、脱走した騎士だと分かったらきっと村から追い出されるよ。かと言ってこのまま部屋に閉じこもってるのも限界があるし、そのうち村を出て別の街で暮らす必要があると思う」

フェルは真剣な顔で僕を見ている。

「それでさ、提案なんだけど、2、3日様子を見てほとぼりが覚めたら……フェル。僕と一緒に王都に行かない?僕も来年この村を出るつもりでいたんだ。王都に行けば人がたくさんいるから、よほど目立たない限りはバレないと思う。どうかな?」

「そんな、ゼン殿はそれで良いのか?確かに心強いが、こんな急に」

「そうじゃな。確かに急な話ではあるが、ケイがもともと来年村を出る話だったのは本当じゃ」

「村から出ていったらもう二度と会えなくなるかもしれないのだぞ?」

「こちらにも少し事情があってな。ケイの奴は村長の息子に目をつけられとって、いろいろ嫌がらせを受けてきたんじゃ。あの息子が次の村長になったら村にケイの居場所はないじゃろう。その時にはワシはもう生きてないかもしれん」

「いや、しかし……」
 
 フェルがオロオロとしながら僕とじいちゃんを交互に見る。

「王都に出て働いて暮らすことにはもともとワシも賛成してたのじゃよ」

 じいちゃんはフェルに優しい声で言う。

「とは言っても、ケイは弱い。弓の腕は良い方だが、剣など全く使えん。本格的に教えようとしたころに父親と母親の両方をいっぺんに亡くしたからな。ワシが教えてもよかったんだが、こいつに全く剣の才能を感じなくてな。つい得意な料理ばかり教えてしまった」

 じいちゃんはお茶を飲み一息ついて話を続けた。

「もしフェルさんが良ければ、ケイのことを旅の道中、守ってやって欲しいんじゃ。できる範囲で構わん。かなうなら王都に着いても時々様子をみて、気にかけてくれたらありがたい」

 じいちゃんがそう言うとフェルもようやく納得した表情になり。

「そういうことであれば私に任せてくれ。2人から受けた恩はこのようなことで返し切れるものではないが、少しでも返せるとするならばこちらとしてもありがたい。道中、さらに王都でのケイの護衛、引き受けよう」

そう言って了承してくれた。

「決して私は見捨てたりはせぬぞ。騎士とは受けた恩には必ず報いるものだ」

 目を輝かせながら、フェルは胸を張っている。

 その後さらに細かく3人で話し合って、出発は3日後の朝に決まった。

 次の日は店は休み。
 じいちゃんと物置部屋をあさる。
 母さんが薬を作るのに使っていた魔道コンロを持っていっていいというので、調合セットと一緒にマジックバッグに入れた。
 大きめの鍋ももらって道中に料理が作れるようにした。

 パンは6個。1週間の僕の配給分をマジックバッグに入れる。食器とお箸、フォークやスプーンなども2人分もらった。
 
 「これも持って行っていいぞ」

 じいちゃんが僕が使ってた包丁を渡してくる。
 じいちゃんは何年か前に新しい包丁を行商人から買って、今まで使っていた古い包丁を僕にくれた。以来、大切に手入れして使ってきた。いい包丁はそれなりの値段がするし、正直助かる。

 じいちゃんにお礼を言って包丁を受け取る。

 今日も雑貨屋屋さんに行き、旅に必要なものを買い揃える。
 胡椒やハーブは作りためていたものがマジックバッグに入ってるから、塩だけ多めに買った。

 家に戻って夕飯を食べてその日は早くに寝た。

 次の日は朝早く起きて、先に1人で朝食を済ませて山に向かった。
 キノコや山菜、胡椒の実など片っ端から採取する。じいちゃんが不自由しないようにある程度保存がきくのものは採取して残していこうと思っていた。

 家に戻ったのは昼過ぎだった。
 フェルと2階で昼食を食べてから、身分証を受け取りに村長の家に向かった。

 幸いなことにバカ息子は不在だった。
 ゼンから話は聞いていると、村長は言い、身分証になる書類を受け取った。

「戻ってきても村には仕事はないからな、帰ってくるんじゃないぞ」
 
 村長は冷たく僕に言った。

 家に帰るとじいちゃんがニワトリを1羽絞めていた。
 そんな贅沢をしていいのか気になったけど、これから1人になるからそんなにタマゴも必要ないので良いらしい。
 少しさみしい気持ちになったけどじいちゃんの心遣いに感謝する。

 畑の薬草を収穫して初級ポーションを作った。
 けっこうたくさん作ったけどほとんどは家に残しておくつもりだ。

 その日の夕食はじいちゃんがご馳走をつくってくれた。
 子供の頃にみんなで食べた懐かしい料理が食卓に並ぶ。
 お腹いっぱいになっても、無理矢理詰め込むようにして全部残さず食べた。

 動けなくなった僕の代わりに、フェルが麦茶を入れてくれて、洗い物もしてくれる。少し手つきは危なかったけど。
 洗濯以外の家事は苦手なんだそうだ。フェルは恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

 次の日、朝早く起きて米を炊き、おにぎりを作る。海苔はないので塩結びだ。具も入ってない。
 水筒に麦茶を詰めて、水が入ったタルをマジックバッグに入れる。
 水は昨日準備したものだ。フェルが浄化魔法を使えたので、わざわざ沸かさなくても良くなった。
 フェルは簡単な回復魔法や浄化魔法なら使えるんだそうだ。そういう便利な魔法がうらやましい。

 最後に自分の包丁を丁寧に布に包んでバッグに入れた。

 フェルが身支度を済ませて降りてくる。
 その姿を見て驚いてしまった。
 長かった髪を肩までに切り揃え、どこにでもいる村娘のような格好をしていた。

「旅の邪魔にもなるので昨夜寝る前に切ったのだ。変装にもなるしな。どこかで売れるかもしれないから持っていてくれ」

 そう言ってフェルが髪の毛を僕に渡してきた。

 ちょっと不揃いの部分は僕がハサミで整えてあげた。
 短い髪も似合うんだね、というと顔を赤くしながら顔を洗いに行くと言って洗い場の方に逃げて行った。

 その間にマジックバッグに手を突っ込んで中身の確認をする。こうやると頭にリストのように中身のイメージが浮かんでくるのだ。
 僕のマジックバッグは馬車2台分の容量がある。時間停止の機能はないが、マジックバッグとしては中くらいの価値があるものらしい。
 忘れ物がないか確認した。

 弓と矢は邪魔になるのでバッグに入れた。
 一応ナイフだけは身につけておこうと腰に差そうとしたら、ナイフを貸して欲しいとフェルが言う。丸腰は嫌なのだそうだ。

 しばらくしてじいちゃんが部屋から降りてきたので、別れの挨拶をする。

「じいちゃん元気で長生きしてね。王都に着いたら手紙を書くよ。いつ届くかわからないけど。王都で何かいい仕事につけたらそのうちじいちゃんのことも呼べるようになるかもしれない。とにかくがんばってみるね」

「ワシのことなど気にせんでも良い。しっかりやるんだぞ」

 じいちゃんの目には涙が浮かんでいた。
 フェルもつられてもらい泣きしてしまったようだ。

「フェルさんを悲しませるようなマネはするんじゃないぞ」

 そう言われて、わかったと答えた。

 もう出発しよう。長くなると別れづらくなる。

 まだ薄暗い朝の村を、フェルと2人で静かに出ていく。

 じいちゃんはずっと見えなくなるまで僕らを見送っていた。

 











>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 読んでいただきありがとうございます。
 面白いと思っていただけたらお気に入りに登録お願いします。
 作者の今後の励みになりますのでどうぞよろしくお願いいたします。


 今後ともフェルのこと、よろしくお願いします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

異世界で婚活したら、とんでもないのが釣れちゃった?!

家具付
恋愛
五年前に、異世界に落っこちてしまった少女スナゴ。受け入れてくれた村にすっかりなじんだ頃、近隣の村の若い人々が集まる婚活に誘われる。一度は行ってみるべきという勧めを受けて行ってみたそこで出会ったのは……? 多種多様な獣人が暮らす異世界でおくる、のんびりほのぼのな求婚ライフ!の、はずだったのに。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全
ファンタジー
 アリステラ王国の16番目の王子として誕生したアーサーは、性欲以外は賢王の父が、子供たちの生末に悩んでいることを知り、独自で生活基盤を作ろうと幼い頃から努力を重ねてきた。  王子と言う立場を利用し、王家に仕える優秀な魔導師・司教・騎士・忍者から文武両道を学び、遂に元服を迎えて、王国最大最難関のドラゴンダンジョンに挑むことにした。  だがすべての子供を愛する父王は、アーサーに1人でドラゴンダンジョンに挑みたいという願いを決して認めず、アーサーの傅役・近習等を供にすることを条件に、ようやくダンジョン挑戦を認めることになった。  しかも旅先でもアーサーが困らないように、王族や貴族にさえ検察権を行使できる、巡検使と言う役目を与えることにした。  更に王家に仕える手練れの忍者や騎士団の精鋭を、アーサーを護る影供として付けるにまで及んだ。  アーサー自身はそのことに忸怩たる思いはあったものの、先ずは王城から出してもらあうことが先決と考え、仕方なくその条件を受け入れ、ドラゴンダンジョンに挑むことにした。 そして旅の途中で隙を見つけたアーサーは、爺をはじめとする供の者達を巻いて、1人街道を旅するのだった。

追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
世間で高い評価を集め、未来を担っていく次世代のパーティーとして名高いAランクパーティーである【月光】に所属していたゲイルは、突如として理不尽な理由でパーティーを追放されてしまった。 これ以上何を言っても無駄だと察したゲイルはパーティーリーダーであるマクロスを見返そうと、死を覚悟してダンジョンに篭り続けることにした。 それから月日が経ち、数年後。 ゲイルは危険なダンジョン内で生と死の境界線を幾度となく彷徨うことで、この世の全てを掌握できるであろう力を手に入れることに成功した。 そしてゲイルは心に秘めた復讐心に従うがままに、数年前まで活動拠点として構えていた国へ帰還すると、そこで衝撃の事実を知ることになる。 なんとゲイルは既に死んだ扱いになっており、【月光】はガラッとメンバーを変えて世界最強のパーティーと呼ばれるまで上り詰めていたのだ。 そこでゲイルはあることを思いついた。 「あいつを後悔させてやろう」 ゲイルは冒険者として最低のランクから再び冒険を始め、マクロスへの復讐を目論むのだった。

転生したらドラゴンに拾われた

hiro
ファンタジー
トラックに轢かれ、気がついたら白い空間にいた優斗。そこで美しい声を聞いたと思ったら再び意識を失う。次に目が覚めると、目の前に恐ろしいほどに顔の整った男がいた。そして自分は赤ん坊になっているようだ! これは前世の記憶を持ったまま異世界に転生した男の子が、前世では得られなかった愛情を浴びるほど注がれながら成長していく物語。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...