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閑話

■孤高は恋焦がれる(後編)■

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■序章『二人の旅立ち』~『終焉の地』の間の閑話です。
今回は勇者パーティーの魔法使いガーネットが仲間になるまでのお話です。


ーーーーーーーーーー


真面目そうな生徒だなーと思いつつ後ろからこっそり内容を覗き込むと、確認できた単語は『さり気ないボディタッチ』やら『名前で呼んでみる』…。
どうやら恋愛指南書のようだ。

あまりにも真剣に読んでいて俺の気配に気づかないので、思わず吹き出してしまう。


「ぷふっ!」

「!?」

すんごい勢いで首をぐりん!とこちらに向ける。
フクロウか!と一瞬ツッコミそうになった。


「あ、ごめんごめん。黒魔法じゃなくて、すごく真剣に恋愛術について学んでるみたいだったから……」

「いえ……恥ずかしいところを見られてしまったわ」

恥ずかしそうに俯いてしまう彼女の横顔は、林檎のように赤く可愛らしい。
そりゃあ学生だから恋愛くらいするだろう。 
エリートだからと言って二十四時間魔法のことばかり考えるってこともないだろうし。
好きな男の子を振り向かせたいと頑張る女の子は素敵だ。

いいぞ、若者よ。青春を謳歌したまえ。


「君の恋、実るといいね」

「え……?」

「振り向かせたい子がいるんじゃないのかい?」

「ち、違うの……そういうのではなくて、」


首を横に振って、まじまじと俺の顔を見つめる彼女。
な、なんだ……俺が勇者だってバレた……?


「?あなた……魔力がほとんど無いわ。
この学園によく入れたわね、変なの」

「ハハハ……」

「それに、私のことも知らないみたいだし」

「?君って有名人か何かなの?」

「ガーネットって名前、聞いたことない?」


ガーネット、とはさっきすれ違った女の子達が探していた人物の名前だ。
はっ、とした顔を一瞬してしまったからか、彼女の表情が少し曇ったように見える。
何か、ワケアリか?


「私この学園で一番黒魔法使いの才能があるって言われてるの。今はこの特殊なブレスレットで魔力を封じ込めているから、転校生のあなたには普通の女の子にしか見えないでしょうけど。
そのせいで私、同級生どころか学園の生徒皆に近寄り難い存在だって思われてるみたい……」

「でも、君の友達とさっきすれ違った」

「……取り巻きのことかしら。彼女たちは友人ではないわ。
魔法研究の講義で私とグループを組んで点数を稼ぐハイエナのようなものよ」


ハァ、と吐いた深いため息は優等生にしかわからない悩みなんだろう。


「そんな君が恋愛指南書を読む理由は?」

「……恋をしてみたい」

「こい?」

「そう。学生が勉学に励むのは義務だわ。
私は当然の事をして優等生と言われてるけど、みんなは違う。
逆に他のみんなが当然のようにしてることを私はしていないの。
それが、恋愛」


まあ、漫画でもよくあるよな。
ガリ勉のキャラは決まって楽しいことには疎いものだ。
人生に必要なのはありったけの知識を頭に詰めるだけじゃない。
これからの風景を色鮮やかに見せるたくさんの経験が大事だ。
楽しいことだけじゃなく、辛いことも悲しいことも全て。
最期に良かったと思い出せることは多い方がいい。

一度死んだ身だから解る。
仕事人間に駆け抜ける走馬灯はつまらないものだ。


「ガーネット、君は綺麗だ。頭も良いようだし、振る舞いも女性らしい」

「な、何」

「今はまだその夢が花開かなくても、きっとこれから君の魅力に気付いて押し寄せる男はたくさんいるはず。
少なくとも俺は君が気に入ったし」


俺はにこりと笑いかける。
ガーネットは真っ赤な顔でぱくぱく金魚のように口を動かすも、出てくるのは空気だけで声にならない。
はは、可愛い。


「君が気を付けなければいけないのは、同級生とコミュニケーションをとることもそうだけど、人を見る目を養うことだ。
素敵な恋愛をした時に怪しい男に騙されないようにね」


…と、おじさんが出来るアドバイスはこれくらいかな?
学園一の魔法使いを仲間にしたかったけど、こんな甘酸っぱい悩みを聞いちゃあ誘えねえなあ、誘えねえよ。
学園二位くらいで手を打つとするか。

名残惜しい気もするが、彼女の横を立ち上がる。


「じゃあ」

「あ、」

「うん?」

「あなたは悪い男の人?」

「俺?……さあ、どうだろうね。
少なくとも他人に誇れるような事は何も無いかも」

「私、そんな風に男の人に褒められたの生まれて初めてだわ。
恋をするなら、あなたがいい……!」


あーらら、本当に可愛い顔しちゃって。
おじさんすぐ都合のいい方に鵜呑みにしちゃうよ?
 
せっかく上げた腰をまた下ろし、ガーネットの震える唇に噛み付いてやる。


「んッ、~~~!」


長い長いキスは、彼女の瞳を濡れさせる。
裏庭でこういうことするの、背徳感があっていいわ。
くせになりそう。

それじゃあちゃんと、返事をもらおうか。
俺のために残りの人生捧げるって。


「俺、勇者だけどそれでも一緒にいてくれる?」



「!……ええ、喜んで」


ーーーーーーーーーー

黒魔法使いのガーネット、陥落。

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