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本編
思い出の味は悲しみで出来ている
しおりを挟む緩やかに流れていく日々の中で、俺はフォンダンが魔王であることを記憶の片隅に追いやっていた。
過去に殺された事実は変わらない。
それはどれだけ時が過ぎようとも忘れることは出来ないし、あの時心臓を貫いた痛みは今も鮮明に思い出すことが出来る。
それでも今は疑心暗鬼にならず、『勇者だった俺』ではなく『フォンダンの孫(子供)』として彼の本質を知っていこうと決めた。
俺がじいちゃんについて知っていることをまとめる。
・ダークエルフ達の王様(かなり慕われている)
・普段、魔力は放出していない
・狩りと庭の手入れが趣味
・決まった時間に間食をする(大体甘いもの)
・孫バカ(重度)
……と、まあこんな感じだ。
なんだか普通にじいさんって感じではある。
「王子ー!デミグラス王子~!」
「う?」
「おやつのお時間ですよ!フォンダン様はすでにお待ちしておりますので、参りましょうね」
「あい」
間食の時間に迎えに来てくれるメイドが、騒がしく部屋に入ってきた。
じいちゃんが来ないと思ってたら、そんな時間か!
先に待っているということは、よっぽど美味しい甘味が手に入ったとみた。
メイドさん、はよはよ!
パタパタ足を動かして「急いでー!」と伝える。
「あらあら、王子ったら。おやつは逃げませんよ。フフ…」
廊下に出ると、紅茶の甘い香りが鼻腔をくすぐった。
・・・
「待ちくたびれたぞい、デミグラス」
むしゃむしゃ。
いやいや、先に食ってるじゃねーか!
「んむ……」
孫(子)と遊ばずにおやつ優先とは、とんだ食いしん坊野郎だぜ。
俺はお菓子に手を伸ばすじいちゃんに冷ややかな視線を送った。
ったく。
今日のおやつはどれどれ……?
モコロン!!!
じいちゃんの大好物だ。
この世界ではマカロンとは呼ばず、「モコロン」という。
見た目も語感も元いた世界とかなり似てるところがあって、俺もお気に入りのお菓子だ。
この城に生まれてから口にするのは初めてだが。
そう言えば、あの時もじいちゃんは同じものを食べてたなあ。
度々この城では、人間が食べる食べ物が出てきたりする。
本当に稀な出来事なので、疑問に思ったことは一度もなかったし、そういうもんか?ぐらいに考えていたけど。
やっぱり魔族が人間の食べ物を所有しているのは変だよな……。
「モコロン、美味いじゃろ?
王妃の……いや、わしの大好物なんじゃ。
たまにしか食べられないから、味わって食べるんじゃぞ」
そう言いながら大量のモコロンを貪り食ってるじいちゃんに、味わって食えと言われるのはお門違いってもんだ。
そのままその言葉を返したい。
「んまぃ」
「そうかそうか、もっと食べなさい」
「いけません、フォンダン様。
まだ赤ん坊の王子に過剰にお与えになっては、虫歯になってしまいます」
「それもそうじゃな」
「王子、三個までです」
「ぶー…」
三個まで、と制限されて少し残念だが幼いうちに虫歯になるのは避けたい。
ここは大人しくメイドの言うことを聞いておこう。
その事よりも、俺には『王妃の……』と言いかけたじいちゃんの寂しげな顔が気になって仕方がなかった。
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