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閑話
■鳥籠の中の鳥(前編)■
しおりを挟む■序章『二人の旅立ち』~『終焉の地』の間の閑話です。
今回は勇者パーティーの僧侶アリスが仲間になるまでのお話です。
ーーーーーーーーーー
水の都、『アクアネレイス』。
勇者は不毛の地の瘴気に耐えられるよう、この国で一番大きな寺院で大僧正様から加護を受ける必要がある。
加護を受けると、その身は清められ邪悪なものから傷付けられることはないという。
そして、勇者は自身の加護を旅を共にする仲間たちに付与することが出来るようになる。
俺はアーノン師匠と共に、旅の最初の目的地にアクアネレイスを目指した。
前衛タイプの俺たちに足りないのは回復役、つまりは僧侶をスカウトせねば……というわけで加護を授かった俺たちは、寺院で修行をしている僧侶を片っ端から声掛けて歩いている。
ただまあ、勇者の旅に同行する。
この意味がわかっていて「はい、着いていきます!」とは普通ならないだろう。
つまり早速難航していた。
声を掛けては断られ、なんなら目が合っただけで逃げる者までいる始末。
しばらくして見かねた大僧正様も顔を真っ赤にして叫び始めた。
「こら!あなた達、勇者様が直々に声をかけてくださっているのになんて失礼な態度をとっているのですか!!
名誉ある旅の支えに志願したい者は、この寺院には誰も居ないのですか!?」
「「……」」
途端に静まり返り、顔を俯かせる僧侶がほとんどだった。
それが答えだ。
あんなに温厚そうな顔の大僧正様が怒ってくれただけで俺は嬉しい。
勇者としてのこれからの俺を案じてくださっているんだろうなって思った。
いないのなら仕方が無い。
回復魔法に秀でた僧侶を仲間に出来ないのはとても惜しいが、回復をする術が全くない訳では無いからな。
ポーションを買えばいいし、魔力は劣るとはいえ小回復魔法くらいなら魔力があれば誰でも覚えることが出来る。
近くにいたアーノン師匠にも目配せで、この場を諦めることをそれとなく伝える。
「まあまあ、大僧正様。ありがとうございます。
俺たちなら大丈夫です、この街を発つ前に魔法雑貨屋に寄って色々と準備を整えますので!
ご心配には及びません!!御加護を授けてくださったこと、感謝致します。
……それでは、」
「そこの勇者!ちょっとお待ちなさいッ!!」
遮る声はよく通り、皆の視線を一斉に集めた。
どこからともなく現れたその少女は、ローブを見に纏い、口元しか見えない。
カツカツ足音を響かせながらこちらにやってくる。
すれ違った僧侶たちが口々に彼女の名を呼んだ。
ーーー「アリス様」と。
「アリス!?何故ここに……お前は出てきてはならないと言ったであろう!!
さあ、早く部屋に戻りなさい!!」
「イヤよ。私そこの勇者に用があるの。
お父様は口を挟まないでくださるかしら?」
「ならぬ、お前が関わるべきではない!」
「えっ、お父様?……俺に用?」
……ああ。
彼女が目の前で立ち止まり、やっと理解する。
この子の魔力、すごいな。きっとこの寺院の中で一番の回復魔法を使えるのだろう。
俺は師匠との修行をしていくうちに、そんな雰囲気を感じられるようになっていた。
大僧正様の慌てる様は、娘を守りたい親心から来ているものだと察する。存在を隠してしまうのは当然だ。
確かにこれはなかなか……仲間に出来ないのは惜しい。
「えー……アリス様?俺に一体何の御用が?」
「貴方もお人好しね。私の魔力に気付いているのでしょう?
仲間にしない手は無いわ。というか、しなさい!」
「コラ、アリス!」
「ええ……」
その申し出は正直嬉しいが、親子喧嘩に巻き込まれるのは面倒だしなあ……。
「勇者様、何卒ご慈悲を……!」
ほらほら、大僧正様の悲しそうな顔!
そんなチワワみたいな顔して見ないでくださいよお!
アリス様は無言で威圧してくるし!
「ご、後日改めてお返事させてください……」
その場できっぱり断れないのが、勇者レノってやつなんだよなあ……。
ーーーーーーーーーー
思ったよりも長くなりそうだったので、区切ります!
後編こそは仲間に……!
アリスちゃんをよろしくお願いします。
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