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本編
お伽噺ではいつも…(後編)
しおりを挟む突然の王妃の死に、悲しみと怒りでご乱心された王の瞳からは真っ赤な血の涙が流れました。
国家の大事件となれば仕方がありません。
やむを得ず、霧の国の誰もが待ち望んでいた外界の世界と和平協定を結ぶことは叶いませんでした。
王妃殺しの首謀者は私たちの身体に興味を持っていた外界の科学者。
残念なことに彼の犯した大罪は霧の国で裁かれることはなく、外界に持ち帰られる案件となります。
反発する霧の国の民を鎮める余力が、その時の王には残されていませんでした。
それからは鬱屈とした雰囲気を国全体が覆ってしまい、心なしか毒霧さえも日に日に濃さを増していたように思えます。
私たちの体に蓄積された毒は憎しみと共に、明らかな変化を遂げていきました。
文字通りの黒い肌へと全身が蝕まれていったのです。
それだけではありません。
かつて人間の耳だった尖った耳は、音をよく拾いこの国の民ではないものを遠ざけるのに役立ちます。
昇華したこの体は魔力を宿らせ、再生能力に長けていて、人間の数百倍も寿命を保つことができます。
霧の国の民は自分たちのことを『ダークエルフ』と呼びました。
後に、外界からは『魔族』と呼ばれるものに当たります。
城に籠ってしまった王も例外ではなく、皆と同じように変異した自分の体に戸惑いを隠せなかったと言います。
ただ、明らかに違う点がありました。
血の涙を流し続けた瞳は赤に。
体内を駆け巡る計り知れぬ膨大な魔力は、常軌を逸していました。
王は魔王になったのです。
~『霧の国の歴史』第一章~より。
「はぶぅ……」
国の現状を知る前に、歴史を遡れ!ってな。
人間の読み書きする文字とは違い、過去に留まったままのこの国の文字はかなり古いものだった。
第一章を読み終えるのに数ヶ月はかかってしまった。
毎日、じいちゃんやメイドに絵本を読んでもらっていたがどれも子供向けすぎて退屈してたんだよ。
だけどこの本は当たりだったな。
数ヶ月前、興味本位で忍び込んだ書斎の机の引き出しの奥、まるで隠すようにしまわれていた歴史書。
なかなかヘビーな内容だったし、もしこれが本当だったら……いや、考えるのはよそう。
俺は温室育ちで平和に生きられればそれでいい。
それにしてもじいちゃんの部屋に潜り込むのに、城の中の誰にも見つからずハイハイで辿り着くのは骨が折れた。広すぎるっつーの。
少しこの部屋でごろごろしてから、また探索に行くか……。
・・・
「デミグラスよ、またここに来ておったのか!
メイドたちが探しておったぞ、お前さんの昼寝の時間じゃ」
「……うー」
「この本がそんなに気に入ったのじゃな。
しかし……お前さんには難しくてわからんじゃろ。
そのままでいい。もう二度と過ちは繰り返さぬと誓ったのだから……」
「……」
自然と落ちてくる瞼に抗おうとするも、この体じゃ無理だ。今は眠くて仕方ない。
ふわ、と体を抱かれ部屋を後にする。
まどろむ意識の中で朧げに映るじいちゃんの表情は、愛しいものを見つめるような、どこか切なげなものだった。
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