上 下
13 / 32
1章

オッドアイ

しおりを挟む


「はい、お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
「あの実験は僅かの魔力を使ってるだけだけど、君は魔力を扱うのに慣れてないから魔力回復のお茶だよ」


抹茶のような懐かしい香り。
口にすれば、やはり懐かしい味が広がった。


「元いた世界で飲んでいたお茶と同じ味がします……」
「へえ、興味深いね」
「色も匂いも味もこんな感じで、名前は抹茶でした」
「よし、じゃあ今日からこれは抹茶ね!」
「……え?」
「実はこれ、最近僕が作った魔力回復のお茶なんだよね。まだ名前決まってなかったからちょうど良かった!あ、魔力回復は魔道士団で実験済みだから安心してね」


何かルカ様といると物事がすぐに決まる。
魔力回復のお茶の名前をこんな簡単に決めてしまうし、研究に絡んだ話題になると決断が早い気がする。


「ああ、ごめんね。研究の事になると周りに目がいかなくて……ポカーンとしてるね」
「いえ、こちらこそだらしない顔ですみません……」


思わず表情筋がダルンダルンに緩まっていたようで、慌てて表情筋を引き締める。
ルカ様はお茶を一口飲んで、息をひとつはいた。


「僕はね、本当は研究だけしていたいんだ。魔力も高いし、容姿もいいんだから表に出るべきだって言われるけど……魔道士団長なんて僕には向いてないし、僕の為に作られた魔道士団も荷が重い」
「ルカ様……」
「僕が持つオッドアイは数千年に一度しか現れない代わりに、桁違いの魔力と常人の域を超える魔法を使えるんだ。それにね、大きすぎる力は人に恐怖を与える。僕が研究だけをしていれば、何か良くない事を企んでいるのでは?と怪しむ人も出てくる。だから魔道士団で表に出る事でそういう声を弱めてるんだよ」
「……ルカ様を守る為に魔道士団が作られたんですね」


きっとオッドアイでなければ、ルカ様は好きな研究にだけ勤しめた。でもオッドアイでなければ、今みたいな数々の研究結果は得られなかったかもしれない。


「でもね、知らない異世界で現実を受け入れて頑張ろうとする君を見て、そんな事言ってられないなって思ったんだ。これからはこんな僕についてきてくれる魔道士団の事も頑張るし、研究も頑張りたい……そう思った。だから、お願い一つだけ聞いてくれる?」
「お願い、ですか?」
「うん。もし、僕が疲れたら傍で労って欲しい。頑張ったねって頭を撫でてくれるだけでいいから」
「お安い御用です。私でよければいつでも」
「ありがとう、たまき」


優しく微笑むルカ様の肩には、きっと私が思うよりも遥かに重い責任や役割がのしかかってるはず。
それを私が少しでも労う事で、ルカ様が歩き続けられる要素になるなら、私はいくらでも協力したい。


「そうだ。さっきの脱催淫薬がそろそろ完成するだろうから一本あげるよ」


指をパチンと鳴らすと、さっきの試験管が目の前に現れる。
……魔法なんでもアリだな。


「これを抽出する事で薬の完成。入れるのはこの小瓶。見ててごらん」


【抽出】


風に巻き上げられるように中の液体が空中に浮かぶ。そのまま零れず、小瓶に一滴も垂れずに収納された。


「はい、これで完成」
「ありがとうございます……綺麗……」
「何が起こるか分からないから一つ持っておくと何かあった時に安心だよ。お守りとして携帯しておいてね」
「わかりました」
「さて。他にも魔法を見せてあげる。研究じゃなくて純粋な魔法をね」


魔力が安定するからと杖を出したルカ様を見て、当たり前だし、目視済みなんだけど魔法を使えるんだなと改めて実感する。


【種子生成】


テーブルに色々な種が出てくる。
向日葵っぽいのから、見た事ない種まで。


【散水】


種に水がサァァァと雨のようにかかれば、テーブルの種は芽を出して背を伸ばす。


【日照り】


種の周りにだけ日が照る。
なんとも不思議、小さな太陽が種を照らしていた。


散水と日照りを繰り返し、色とりどりの花が一斉に咲き乱れる。その光景はあまりにも美しくて、思わず息を呑んだ。
……これが魔法。


「あのっ!!!」
「ん?なあに?」
「私も魔法使えますか?魔法珠じゃなくてルカ様みたいな魔法を!」
「どうしたの?突然」
「ステファン様もルカ様も危険な任務をされる事もあるって聞きました。なので閨係だけではなく、魔法で皆さんを治癒したりできないかなと思いまして」


私の発言に、うーんと考え込むルカ様。
……やっぱり、だめ?


「よし、いいよ!治癒魔法教えてあげる!」
「やったー!!!」


この時の私は、自分の提案した治癒魔法の習得が物凄く大変で、治癒魔法は魔法の中でもトップクラスに凄い魔法だということを知らなかったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)

夕立悠理
恋愛
 伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。 父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。  何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。  不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。  そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。  ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。 「あなたをずっと待っていました」 「……え?」 「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」  下僕。誰が、誰の。 「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」 「!?!?!?!?!?!?」  そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。  果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

悪役令嬢の許嫁は絶倫国王陛下だった!? ~婚約破棄から始まる溺愛生活~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢の許嫁は絶倫国王陛下だった!? 婚約者として毎晩求められているも、ある日 突然婚約破棄されてしまう。そんな時に現れたのが絶倫な国王陛下で……。 そんな中、ヒロインの私は国王陛下に溺愛されて求婚されてしまい。 ※この作品はフィクションであり実在の人物団体事件等とは無関係でして R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年はご遠慮下さい。

処理中です...