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1章
オッドアイ
しおりを挟む「はい、お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
「あの実験は僅かの魔力を使ってるだけだけど、君は魔力を扱うのに慣れてないから魔力回復のお茶だよ」
抹茶のような懐かしい香り。
口にすれば、やはり懐かしい味が広がった。
「元いた世界で飲んでいたお茶と同じ味がします……」
「へえ、興味深いね」
「色も匂いも味もこんな感じで、名前は抹茶でした」
「よし、じゃあ今日からこれは抹茶ね!」
「……え?」
「実はこれ、最近僕が作った魔力回復のお茶なんだよね。まだ名前決まってなかったからちょうど良かった!あ、魔力回復は魔道士団で実験済みだから安心してね」
何かルカ様といると物事がすぐに決まる。
魔力回復のお茶の名前をこんな簡単に決めてしまうし、研究に絡んだ話題になると決断が早い気がする。
「ああ、ごめんね。研究の事になると周りに目がいかなくて……ポカーンとしてるね」
「いえ、こちらこそだらしない顔ですみません……」
思わず表情筋がダルンダルンに緩まっていたようで、慌てて表情筋を引き締める。
ルカ様はお茶を一口飲んで、息をひとつはいた。
「僕はね、本当は研究だけしていたいんだ。魔力も高いし、容姿もいいんだから表に出るべきだって言われるけど……魔道士団長なんて僕には向いてないし、僕の為に作られた魔道士団も荷が重い」
「ルカ様……」
「僕が持つオッドアイは数千年に一度しか現れない代わりに、桁違いの魔力と常人の域を超える魔法を使えるんだ。それにね、大きすぎる力は人に恐怖を与える。僕が研究だけをしていれば、何か良くない事を企んでいるのでは?と怪しむ人も出てくる。だから魔道士団で表に出る事でそういう声を弱めてるんだよ」
「……ルカ様を守る為に魔道士団が作られたんですね」
きっとオッドアイでなければ、ルカ様は好きな研究にだけ勤しめた。でもオッドアイでなければ、今みたいな数々の研究結果は得られなかったかもしれない。
「でもね、知らない異世界で現実を受け入れて頑張ろうとする君を見て、そんな事言ってられないなって思ったんだ。これからはこんな僕についてきてくれる魔道士団の事も頑張るし、研究も頑張りたい……そう思った。だから、お願い一つだけ聞いてくれる?」
「お願い、ですか?」
「うん。もし、僕が疲れたら傍で労って欲しい。頑張ったねって頭を撫でてくれるだけでいいから」
「お安い御用です。私でよければいつでも」
「ありがとう、たまき」
優しく微笑むルカ様の肩には、きっと私が思うよりも遥かに重い責任や役割がのしかかってるはず。
それを私が少しでも労う事で、ルカ様が歩き続けられる要素になるなら、私はいくらでも協力したい。
「そうだ。さっきの脱催淫薬がそろそろ完成するだろうから一本あげるよ」
指をパチンと鳴らすと、さっきの試験管が目の前に現れる。
……魔法なんでもアリだな。
「これを抽出する事で薬の完成。入れるのはこの小瓶。見ててごらん」
【抽出】
風に巻き上げられるように中の液体が空中に浮かぶ。そのまま零れず、小瓶に一滴も垂れずに収納された。
「はい、これで完成」
「ありがとうございます……綺麗……」
「何が起こるか分からないから一つ持っておくと何かあった時に安心だよ。お守りとして携帯しておいてね」
「わかりました」
「さて。他にも魔法を見せてあげる。研究じゃなくて純粋な魔法をね」
魔力が安定するからと杖を出したルカ様を見て、当たり前だし、目視済みなんだけど魔法を使えるんだなと改めて実感する。
【種子生成】
テーブルに色々な種が出てくる。
向日葵っぽいのから、見た事ない種まで。
【散水】
種に水がサァァァと雨のようにかかれば、テーブルの種は芽を出して背を伸ばす。
【日照り】
種の周りにだけ日が照る。
なんとも不思議、小さな太陽が種を照らしていた。
散水と日照りを繰り返し、色とりどりの花が一斉に咲き乱れる。その光景はあまりにも美しくて、思わず息を呑んだ。
……これが魔法。
「あのっ!!!」
「ん?なあに?」
「私も魔法使えますか?魔法珠じゃなくてルカ様みたいな魔法を!」
「どうしたの?突然」
「ステファン様もルカ様も危険な任務をされる事もあるって聞きました。なので閨係だけではなく、魔法で皆さんを治癒したりできないかなと思いまして」
私の発言に、うーんと考え込むルカ様。
……やっぱり、だめ?
「よし、いいよ!治癒魔法教えてあげる!」
「やったー!!!」
この時の私は、自分の提案した治癒魔法の習得が物凄く大変で、治癒魔法は魔法の中でもトップクラスに凄い魔法だということを知らなかったのだった。
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