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1章
実験をしてみよう!
しおりを挟む翌朝、空中騎士団に赴くステファン様を転移門まで見送って、ルカ様が来てくれるまでの間、身支度を整えたり、魔法珠で昨夜の余韻が残るベッドを整えたりしていると、自室の扉に軽快なノック音が響く。
「たまき。ルカ=ブランシェスです」
「おはようございます、ルカ様」
扉を開けると今日一緒にいてくれるルカ様が立っていた。
昨日会ったルカ様はステファン様のような騎士服を着ていたけど、今日はいかにも魔法使いといった感じのローブを着ている。
魔法珠を作ったり、魔道士団団長なのだから当たり前なんだけど、騎士服じゃない姿を見ると本当に魔法使いなんだなって実感する。
あ、魔法使いじゃなくて魔道士かな?
「今日は一日よろしくお願いします」
「ステファン様からもたまき様を楽しませてやって欲しいと言われてるから、今日はたくさん楽しもうね!……それにしても」
「?」
「ステファン様の婚約者になったって聞いたよ。ステファン様からも絶対に傷付けさせるなとキツーーく言われてるし、あんな幸せそうなステファン様、初めて見た。ありがとう、たまき」
深々と頭を下げるルカ様に、ずっと心配だったある事を聞いてみる事にした。
「あの……一日でそういう関係になる事を引いたり、怒ったりしないのですか?」
「もしかして、ノヴァ様に何か言われた?」
「少し……」
「あー、それは申し訳ない。ノヴァ様、我に返ると自分の言動を反省するのできっとたまき様に言った事を今どうやって謝罪しようか考えてるよ。で、本題だけど僕はむしろ感謝してる」
立ち話もなんだし、椅子に座らない?と促されて、自室で向かい合うソファにそれぞれ腰掛ける。
「ステファン様は白竜と契約した力で苦しまれていた。笑顔は見せるけど、どこか作ってるような。だから僕もノヴァ様も心配していたんだ。それがたまきに出会って、一日であんなに僕に嬉しそうにたまきの話をするステファン様を見て、心底ほっとした。ようやく出会えたんだなって」
「そうだったんですね……」
「だから、感謝こそすれ引くことは絶対にない!今日もしっかり「お前と思いも体を重ねても、俺が一番だ」って初めて明確な釘を刺されたし」
優しい微笑みを浮かべて、本当にステファン様の事を心配していて大好きなんだなと伝わってくる。
さて、と立ち上がったルカ様は私に手を差し出す。
「たまき。魔法に興味はある?」
「っ!……あります!!」
「では今日は魔法の実験を僕としない?」
「私にもできるんですか?」
「大抵の人には多少なりとも魔力はあるし可能だよ。僕達は戦闘のない日は研究をしているんだ。渡した魔法珠もその産物だし、研究成果でステファン様を怪我から守る事もできるようになるかもしれない夢の塊なんだ」
どう?ともう一度差し出された手を取らない選択肢はない。この目で魔法を見てみたいという気持ちもあったし、人々の生活を豊かにしたり、ステファン様を守ってくれるかもしれない研究に興味があった。
「よろしくお願いします!」
「じゃあ、そのまま僕の手を離さずに近くにいてね」
「え?」
「研究所まで転移するよ!」
「転移門じゃないんですか?」
「転移門は執務室に繋がってるから、今日はダイレクトで研究室に転移しちゃう!僕から離れると魔力酔いするかもしれないから、なるべく近くにいてね」
空いた手で腰をグイッと引き寄せられ、ルカ様と密着する。ステファン様だけかと思ってたけど、この国の人全員こんな距離感なのかな……割と心臓に悪い……。
【転移】
視界が真っ白になって、その眩しさに目を開けていられなくなる。いいですよ、の声が聞こえてうっすら目を開けると、そこは見た事もない植物や実験器具が置かれた実験室だった。
見た事もない大きな実をつけた大木、七色の蝶だったり、なにこれ凄い!!!夢の世界!!!
「うわぁぁぁ!!!凄いですね!!!」
「へえ……普通の女性だと汚いとか言うんだけど、やっぱりたまきは変わってるね」
「えっと……褒められてます?」
「最上級の褒め言葉だよ。危ない植物もあったりするから勝手に触らないでくれれば好きに見ていいからね」
「実験室って感じですね!……って、本物の実験室はこれが初めてなんですけど」
辺りに視線を巡らせると、可愛い花が入ってる試験管が目に付いた。試験官の中には他に水が入っていて、機械の中でゆらゆらと揺られている。
「それは脱催淫薬の作成中だよ」
「脱催淫薬?」
「戦いをしていると、催淫効果を撒き散らす魔物に出会ったり、催淫魔法で強制的に戦闘不能にさせる奴がいたりするんだよ。もしそうなった場合にすぐ催淫から脱せられるように、騎士は必ず携帯する事が義務付けられてるものだよ」
催淫といえば、家でも作られていた媚薬もその一種だけど、あれを使うと性交する事しか考えられなくなるって侍女が言ってたっけ。確かあの後、その侍女は媚薬の使いすぎで日常生活が送れなくなったって聞いた。……怖すぎる。
「それよりも、これを見て」
「これは……?」
差し出されたのは粘土のような柔らかそうな物体。
そっと私の手を取って、その物体の上に乗せると突如光る。
「うん、やっぱり。これはね、僕が開発した創造する土クリエイトブロック。魔力を持った人が触れるとこうやって光るんだ。強く思う相手の助けになるものを作る事ができる」
「凄いですね!!!」
「その相手を思う力が強ければ強い程、強力なものができるんだよ。で、僕はたまきにこれを使ってみてほしい」
「私が、ですか?」
「実はね、これはまだ試作段階なんだ。危ない事は起きないけど、たまきが強く思う相手に何を生み出すか見せてくれない?」
強く思う相手って事はステファン様の事だよね?
私が強く思えば思う程、ステファン様の助けになるものができるかもしれない……こんなのやるしかない!!!
「やります!やらせてください!」
「うんうん、そう言うと思った。具体的に何を生み出すかは考えなくていいよ。とにかく自分の大切な人を思い浮かべて強く思ってくれればいい」
目を閉じて、ステファン様を思い描く。
私の大好きな人。
私の初めてを全てを捧げた人。
嫉妬してしまう可愛い一面もある人。
起きた時に寝癖が出来て恥ずかしそうにする人。
隙あらばキスをしてくるキス魔な人。
どうか、そんなステファン様を助けてあげられるものができますように。どこに行ってもステファン様が無事に帰ってきてくれるように。
「たまき、目を開けてごらん」
「……えっ!」
ルカ様の手のひらにあるのは、4つのアクセサリー。
イヤリング、指輪、腕輪、髪飾り。どれも私の瞳の色である紺桔梗色で輝いている。
「すごいね、ステファン様への思いが強い証拠だよ。鑑定にかけなくても強い思いが伝わってくる」
ルカ様がパチンと指を鳴らすと、お皿のような器が出てきた。ルカ様曰く、鑑定機なんだとか。
【深愛のアクセサリーシリーズ】
・強大な攻撃を1日に5回まで防げる
・1度だけあらゆる怪我も完治できる
・使用者が作成者への思いが強ければ生存率が高まる
うーーーん!!!チート!!!!
とんでもないものが出来てしまった気がする……。
でも、これがステファン様を守ってくれるなら、これぐらいのチート受け入れるべきか。
「これは……」
その結果に絶句するルカ様。
でもそれも一瞬で、これは面白いとか色々ブツブツ言い始めた。その姿は研究者で、実はルカ様は研究を一番にやりたいのかな?って思ったけど、そこまで踏み込む勇気はない。
「あ、ごめんね!すっかり夢中になっちゃって……」
「いえいえ!ステファン様を助けられそうなもので良かったです!」
「ステファン様に渡したら大喜びするだろうから、早速贈ってあげよう!」
【包装。届け先はステファン様】
また魔法を唱えたルカ様。
先程まであったアクセサリーが消えてる。すっっご。
「安心してね。ちゃんと今頃、ステファン様に届いてるから」
◇◇◇◇◇
「あー!!!!今すぐ帰りてえ!!!!」
秘書官達が身体を震わせる。
あ、思わず叫んじまった。
でも、それも許して欲しい。
突然、ルカから包装魔法で何か届いたと思ったら、中にはたまきの瞳の色をしたアクセサリー。
更にルカからのトドメの一撃。
【たまきがステファン様を思って作ったものです。愛する気持ちが強すぎてとんでもない代物ができましたよ。効果は下部に書いてあります。こんな愛されてるなんて幸せ者ですね♡】
早速、アクセサリーを身に付ける。
付けるだけで、たまきが近くで守ってくれてる感覚になる。きっと気のせいなんかじゃない。
昨日からこんなに幸せでいいのか?俺。
一刻も早く部下からの報告をまとめる為に、更に早くペンを動かす手を早めたのだった。
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