1 / 32
1章
転移の理由
しおりを挟む普段通りに大学から家までの道を歩いていたら、突然眩い光に包まれて、次に目を開けた時には見知らぬ人達に囲まれていた。
なんて、よくある王道の異世界転移の冒頭。
まさか自分が体験するとは思ってなかったよ、うん。
「ほう、これはまた可愛らしい」
「これなら騎士様や魔道士様達も気に入るでしょう」
「早速、何人かここに呼んでくるのだ」
「御意に」
いや、まず私に状況を説明してくれないかな?
私は家に帰ろうとしてたら突然こんなところに呼び出されて、混乱もいいところなんですけど??ねぇ、聞いてます?
でも何か口にしたら不敬だって首が飛んでしまうかもしれない可能性もあるし、ここは黙っておくのが吉。
「陛下、お呼びでしょうか」
「来たか、お前達」
凛とした良く響く声に視線を移せば、そこに揃った3人のイケメン。直球に言えば、どタイプ。
「彼女が例の転移成功者だ。これからお前達の世話をするのでな、呼び出した次第だ」
「お言葉ですが、陛下。どうやら彼女は状況理解ができていないように見受けられます。ご説明はお済みなんですよね?」
「あっ……」
良く響く声の短髪ブロンドの男性が指摘してくれたおかげで、ようやく陛下と呼ばれる男性はその事に気付いた。やっと。
「申し訳ない。あまりにも望んでいた転移者だった故、説明を忘れてしまっていた。口を開いても不敬にはしない。楽にして欲しい。異界の方よ」
「はぁ……えっと……」
「そなたは我がサイガ帝国に召喚された。私はこの国を統べるサイガ3世。そなたの名を教えてくれるか?」
「私は椎名たまきです。転移させられたのは分かりましたが、私は帰れるんでしょうか?」
「たまき殿。申し訳ない。帰らす事は不可能だ」
「はい?」
「転移魔法はこちらに喚ぶ事は出来ても帰す事ができぬ。帰還が叶わぬ代わりに、そなたの願いは転移の目的を叶えてくれるのであればできる事は叶えると約束しよう」
正直な感想は、ですよね~!って感じ。
これも割と王道展開。
まぁ、家族はいなかったし、別に未練はないから大して驚きもしないし、嘆きもしない。
「転移の目的はなんでしょうか?私に何を望みますか?」
「私が言うのもあれだが、割とあっさり受け入れてくれたな」
「どうにもならない事を嘆くのは生産性がありませんから」
「……そうか。たまき殿には今呼び出した我が帝国を多方面から守護する騎士達の閨係を頼みたい」
聖女やれって言われたり、世界を救う勇者になれって言われなくて良かったとは思ったけど、まさかのそっち方面。
これも何かの運命なのかな~。
「その理由を伺っても?」
「もちろんだ。この大陸には多くの国があるが、サイガ帝国は最も繁栄をし、軍事力も群を抜いている。それ故、他国から攻撃を受けたり、魔物からの襲撃を受けたりしていてな。それらを薙ぎ払い、民の生活を守っているのが現状だ。そこで活躍するのが先程の騎士達。常に死と隣り合わせで戦地に赴く。特に団長や副団長となると、その危険性は更に高まる。……ここまでは理解出来たかな?」
「はい、大丈夫です」
「そういう戦地から帰ってきた騎士達は生存本能から、自らが生きている内にと性欲が強まる。団長や副団長クラスはその衝動がより強く出る。それを鎮めるのが、閨係の役割」
「花街に行けば解決するのでは?」
「時間が無くてな……戦況報告に事後処理。こやつらの仕事は戦地だけではないのだ。故に花街に行く事も叶わぬ。名乗り出る女性はいるが、それを受け入れる事もなくてな」
じゃあ、私なんかダメじゃない?
きっと名乗り出た女性は美人揃いで家柄も良さそう。
私はどこにでもいる大学生だし。胸も人よりは大きいけど、これといって大きくて良かった思い出はない。
「お話は分かりました。ですが、そのような女性を受け入れないのに私なんか受け入れるわけないのでは?」
「それは……」
目が泳いでる。
ここから先の展開、考えなかったな。
まぁ、きっと1人で処理しているであろう彼等を労ってあげようと、この世界とは関係ない異世界から閨係を転移させようとしたところかな。
話を聞いてる限り、この王様は悪い人ではない。
「騎士様方。私が仮に皆様の閨係になったとしましょう。受け入れますか?」
私の質問に顔を見合わせる3人。
やはり口を開いたのは短髪ブロンドの騎士様。
「難しいでしょう」
「ですよね、私もそうです。皆様も同じですか?」
問えば、他の2人も頷いてくれる。
良かった、考えは同じなようだ。
「陛下。お話は理解しました。ですが、条件がございます。私と騎士様に互いを知る時間をください。私も騎士様も閨に入り、夜伽の同意をするまで口出しはしないとお約束を。そして騎士様を知る為に、どうか私に1人で出歩く自由の許可を」
私の提案に一瞬戸惑った王様。
でも先程の騎士様の反応を見てたら、Noとは言えないよね。
「分かった」
「ありがとうございます。では早速、騎士様とお話させてください。私と騎士様の4人だけで」
お願いを快諾された私は、後ろに続く騎士様方の視線を感じつつ、防音魔法が施されてるという一室に案内された。
10
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)
夕立悠理
恋愛
伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。
父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。
何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。
不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。
そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。
ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。
「あなたをずっと待っていました」
「……え?」
「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」
下僕。誰が、誰の。
「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」
「!?!?!?!?!?!?」
そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。
果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。
白霧雪。
恋愛
王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
悪役令嬢の許嫁は絶倫国王陛下だった!? ~婚約破棄から始まる溺愛生活~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢の許嫁は絶倫国王陛下だった!? 婚約者として毎晩求められているも、ある日
突然婚約破棄されてしまう。そんな時に現れたのが絶倫な国王陛下で……。
そんな中、ヒロインの私は国王陛下に溺愛されて求婚されてしまい。
※この作品はフィクションであり実在の人物団体事件等とは無関係でして
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる