7 / 9
【第一章】聖女
4. 官邸
しおりを挟む
(馬車に乗るなんて初めて……)
私は、馬車に揺られながら窓の外を眺めた。
通り過ぎていく景色は、白っぽい石で造られた建物が所狭しと立ち並び、まるで西洋の街並みに似ている。
道行く人たちの洋装も見慣れないものばかりで、ここが日本だとはとても思えなかった。
(でも、言葉は通じるみたいだし……一体ここは、どこなんだろう……)
先程会った男の人に聞こうと思っても、車の前にある御者台に座っているので、声を掛けられない。
私一人が車の中に座らされていて、不安ばかりが募っていく。
そもそも、この馬車がどこへ向かっているのかも分からない。
(とにかく、話が通じそうなら、事情を説明して、家へ帰してもらおう)
しばらくして、馬車は、ある大きな建物の前で止まった。
先程見た騎士と同じ格好をした男たちが物々しい出て立ちで入口を固めている。
「さあ、聖女様。こちらへどうぞ」
慣れない呼び名に戸惑いながらも、促されるままに建物の中へ入り、ある部屋に通された。
洋館風でシンプルだけれど高価そうな調度品が飾られている。
そこでしばらく待つように言われ、大人しく布張りの長椅子に座って待っていると、しばらくして、三人の男たちが部屋に入ってきた。
一人は、私をここへ案内してくれた男の人で、あとの二人は、知らない顔だ。
「お待たせして申し訳ありません。
私は、聖女協会の協会長を務めておりますオタリ=アルシェベックと申します」
一番先頭を歩いていた中年の男性が頭を下げると、頭頂部に乗せた丸いベレー帽のような紺青色の帽子が見えた。
私も慌てて長椅子から立ち上がると、お辞儀を返した。
顔を上げると、私に自己紹介をした男が帽子と同じ紺青色の服に身を包み、でっぷりと飛び出たお腹を抱えながら、私に優しそうな笑顔を向ける。
「失礼ですが、聖女様のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか」
「……あ、はい。
私は、天野 聖羅と言います。
あの、何か誤解があるようなのですが……
私…………”聖女”なんかじゃありませんっ!」
思い切って事実を告げると、オタリと名乗った男の黒い眼がぎらり、と光ったような気がした。
「ほう……何故そう思われるのか、教えて頂けますかな」
私は、ほっと息を吐いた。
どうやら話を聞いてもらえそうだ。
立ち入り禁止の場所に入ってしまったことは怒られるかもしれないが、これ以上、話を大きくしたくはない。
正直に全部説明しよう、と腹をくくる。
「……はい。私は、日本の大学に通う、普通の大学生なんです。
学校の敷地を一人で歩いていたら、見知らぬ男の人が現れて、
私、気を失ってしまって……
気が付いたら、あの洞窟の中に寝されていたんです。
たぶん……浚われたんじゃないかと……。
だから、私は、”聖女”なんかじゃありません。
期待させてしまって本当に申し訳ないのですが……家へ帰らせて頂けないでしょうか」
私は、馬車に揺られながら窓の外を眺めた。
通り過ぎていく景色は、白っぽい石で造られた建物が所狭しと立ち並び、まるで西洋の街並みに似ている。
道行く人たちの洋装も見慣れないものばかりで、ここが日本だとはとても思えなかった。
(でも、言葉は通じるみたいだし……一体ここは、どこなんだろう……)
先程会った男の人に聞こうと思っても、車の前にある御者台に座っているので、声を掛けられない。
私一人が車の中に座らされていて、不安ばかりが募っていく。
そもそも、この馬車がどこへ向かっているのかも分からない。
(とにかく、話が通じそうなら、事情を説明して、家へ帰してもらおう)
しばらくして、馬車は、ある大きな建物の前で止まった。
先程見た騎士と同じ格好をした男たちが物々しい出て立ちで入口を固めている。
「さあ、聖女様。こちらへどうぞ」
慣れない呼び名に戸惑いながらも、促されるままに建物の中へ入り、ある部屋に通された。
洋館風でシンプルだけれど高価そうな調度品が飾られている。
そこでしばらく待つように言われ、大人しく布張りの長椅子に座って待っていると、しばらくして、三人の男たちが部屋に入ってきた。
一人は、私をここへ案内してくれた男の人で、あとの二人は、知らない顔だ。
「お待たせして申し訳ありません。
私は、聖女協会の協会長を務めておりますオタリ=アルシェベックと申します」
一番先頭を歩いていた中年の男性が頭を下げると、頭頂部に乗せた丸いベレー帽のような紺青色の帽子が見えた。
私も慌てて長椅子から立ち上がると、お辞儀を返した。
顔を上げると、私に自己紹介をした男が帽子と同じ紺青色の服に身を包み、でっぷりと飛び出たお腹を抱えながら、私に優しそうな笑顔を向ける。
「失礼ですが、聖女様のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか」
「……あ、はい。
私は、天野 聖羅と言います。
あの、何か誤解があるようなのですが……
私…………”聖女”なんかじゃありませんっ!」
思い切って事実を告げると、オタリと名乗った男の黒い眼がぎらり、と光ったような気がした。
「ほう……何故そう思われるのか、教えて頂けますかな」
私は、ほっと息を吐いた。
どうやら話を聞いてもらえそうだ。
立ち入り禁止の場所に入ってしまったことは怒られるかもしれないが、これ以上、話を大きくしたくはない。
正直に全部説明しよう、と腹をくくる。
「……はい。私は、日本の大学に通う、普通の大学生なんです。
学校の敷地を一人で歩いていたら、見知らぬ男の人が現れて、
私、気を失ってしまって……
気が付いたら、あの洞窟の中に寝されていたんです。
たぶん……浚われたんじゃないかと……。
だから、私は、”聖女”なんかじゃありません。
期待させてしまって本当に申し訳ないのですが……家へ帰らせて頂けないでしょうか」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】魅了が解けたあと。
乙
恋愛
国を魔物から救った英雄。
元平民だった彼は、聖女の王女とその仲間と共に国を、民を守った。
その後、苦楽を共にした英雄と聖女は共に惹かれあい真実の愛を紡ぐ。
あれから何十年___。
仲睦まじくおしどり夫婦と言われていたが、
とうとう聖女が病で倒れてしまう。
そんな彼女をいつまも隣で支え最後まで手を握り続けた英雄。
彼女が永遠の眠りへとついた時、彼は叫声と共に表情を無くした。
それは彼女を亡くした虚しさからだったのか、それとも・・・・・
※すべての物語が都合よく魅了が暴かれるとは限らない。そんなお話。
______________________
少し回りくどいかも。
でも私には必要な回りくどさなので最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる