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【第一章】聖女

4. 官邸

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(馬車に乗るなんて初めて……)

私は、馬車に揺られながら窓の外を眺めた。
通り過ぎていく景色は、白っぽい石で造られた建物が所狭しと立ち並び、まるで西洋の街並みに似ている。
道行く人たちの洋装も見慣れないものばかりで、ここが日本だとはとても思えなかった。

(でも、言葉は通じるみたいだし……一体ここは、どこなんだろう……)

先程会った男の人に聞こうと思っても、車の前にある御者台に座っているので、声を掛けられない。
私一人が車の中に座らされていて、不安ばかりが募っていく。
そもそも、この馬車がどこへ向かっているのかも分からない。

(とにかく、話が通じそうなら、事情を説明して、家へ帰してもらおう)

しばらくして、馬車は、ある大きな建物の前で止まった。
先程見た騎士と同じ格好をした男たちが物々しい出て立ちで入口を固めている。

「さあ、聖女様。こちらへどうぞ」

慣れない呼び名に戸惑いながらも、促されるままに建物の中へ入り、ある部屋に通された。
洋館風でシンプルだけれど高価そうな調度品が飾られている。
そこでしばらく待つように言われ、大人しく布張りの長椅子に座って待っていると、しばらくして、三人の男たちが部屋に入ってきた。
一人は、私をここへ案内してくれた男の人で、あとの二人は、知らない顔だ。

「お待たせして申し訳ありません。
 私は、聖女協会の協会長を務めておりますオタリ=アルシェベックと申します」

一番先頭を歩いていた中年の男性が頭を下げると、頭頂部に乗せた丸いベレー帽のような紺青色の帽子が見えた。
私も慌てて長椅子から立ち上がると、お辞儀を返した。
顔を上げると、私に自己紹介をした男が帽子と同じ紺青色の服に身を包み、でっぷりと飛び出たお腹を抱えながら、私に優しそうな笑顔を向ける。

「失礼ですが、聖女様のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか」

「……あ、はい。
 私は、天野 聖羅と言います。
 あの、何か誤解があるようなのですが……
 私…………”聖女”なんかじゃありませんっ!」

思い切って事実を告げると、オタリと名乗った男の黒い眼がぎらり、と光ったような気がした。

「ほう……何故そう思われるのか、教えて頂けますかな」

私は、ほっと息を吐いた。
どうやら話を聞いてもらえそうだ。
立ち入り禁止の場所に入ってしまったことは怒られるかもしれないが、これ以上、話を大きくしたくはない。
正直に全部説明しよう、と腹をくくる。

「……はい。私は、日本の大学に通う、普通の大学生なんです。
 学校の敷地を一人で歩いていたら、見知らぬ男の人が現れて、
 私、気を失ってしまって……
 気が付いたら、あの洞窟の中に寝されていたんです。
 たぶん……浚われたんじゃないかと……。
 だから、私は、”聖女”なんかじゃありません。
 期待させてしまって本当に申し訳ないのですが……家へ帰らせて頂けないでしょうか」

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