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2.花と緑と弾丸と
5.
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その頃、ラムファと青葉は、麗良が走って行った方向へと追い掛けて行き、道が二又に分かれている所でどちらへ行くか決めあぐねていた。
一方の道の先には、見頃を迎えた綺麗な藤棚があり、人通りも多い。
もう一方の道には、しばらくなだらかな道が続いた後、暗い針葉樹林の園へと繋がっており、目立つ花も咲いていないためか人通りは少ない。
麗良の心情を考えると、人通りのある方へは進まない気もするが、探されたくないという思いから敢えて人の覆い道を選ぶという可能性もある。
青葉は、自分の目の前であたふたと情けなくも慌てふためいている背の高い肌黒の男を観察するように見た。
子供を持たない青葉でも、娘を心配する気持ちは分からなくはない。
だが、幼い頃から何度も通いなれたこの植物園は麗良にとって勝手知ったる庭のようなもので、そんなに心配しなくても大丈夫だと先程から言っているのだが、ラムファは、一向に聞こうとしない。
それどころか、何故かひどく焦った様子で麗良を捜している。
まるで娘から少しでも目を離したら、誰かに連れ去られてしまうとでも思っているかのようだ。
しばらく一緒に暮らしているが、この男には未だに謎が多く、聞きたいことはたくさんあるが、青葉は今日、これだけは確認しなくては、と心に決めているものがあった。
麗良が傍にいては聞きづらいその質問を青葉は今こそ聞くタイミングだと唾を飲み込んだ。
「あなたに聞きたいことがあったんです」
それまでの柔和な物言いから一転して固い口調に、真剣な空気を読み取ったラムファが青葉を振り返った。
今はそれどころではない、という顔をしているが、青葉は構うことなく続けた。
「あなたは、胡蝶さんのことをどう想っているんですか」
青葉の口から意外な人物の名前が飛び出したことに、ラムファは虚を突かれた顔で目を見開いた。
「……そうか。君は、胡蝶のことを……」
ラムファが最後まで言う前に、青葉が言葉を被せる。
「今度、大きな花展があります。
そこで賞を取ることができたら……僕は、胡蝶さんにプロポーズするつもりです」
青葉の目は真剣だった。歳は、胡蝶よりも十は離れているだろう。それでも、若さ故の突発的な考えや妄信でないことは、その表情と言葉の端々から伺える真剣な熱意からラムファにも伝わった。
二人の傍を通りがかりの人たちが何事かという目で見ているのを二人は構うことなく互いを見つめ合った。
そこに互いの胸に抱えた真意を読み取ろうとするかのように。
ラムファの脳裏に、胡蝶の儚げで美しい笑顔が浮かんだ。
あの笑顔を永遠に守りたいと思った時から今の今まで気持ちが変わったことなど一度もない。
ラムファが何も答えないでいると、青葉は、念を押すように言った。
「僕が胡蝶さんにプロポーズをしても、あなたは構わないんですね」
青葉は、胡蝶の娘である麗良の父親へ、宣戦布告をしているのだ。
その真摯な目にラムファが何か答えようと口を開いた時、何かがラムファの耳にささやいた。
風鳴りのようなその小さな声が青葉の耳に届くことはなかったが、それを聞いたラムファの表情が瞬時に青くなる。
そして、次の瞬間には、さっと青葉に背を向けて風のように消えてしまった。
取り残された青葉は、全く何が起きたのか分からないまま、目をぱちくりとさせて、しばらくそこに立ち尽くしていた。
一方の道の先には、見頃を迎えた綺麗な藤棚があり、人通りも多い。
もう一方の道には、しばらくなだらかな道が続いた後、暗い針葉樹林の園へと繋がっており、目立つ花も咲いていないためか人通りは少ない。
麗良の心情を考えると、人通りのある方へは進まない気もするが、探されたくないという思いから敢えて人の覆い道を選ぶという可能性もある。
青葉は、自分の目の前であたふたと情けなくも慌てふためいている背の高い肌黒の男を観察するように見た。
子供を持たない青葉でも、娘を心配する気持ちは分からなくはない。
だが、幼い頃から何度も通いなれたこの植物園は麗良にとって勝手知ったる庭のようなもので、そんなに心配しなくても大丈夫だと先程から言っているのだが、ラムファは、一向に聞こうとしない。
それどころか、何故かひどく焦った様子で麗良を捜している。
まるで娘から少しでも目を離したら、誰かに連れ去られてしまうとでも思っているかのようだ。
しばらく一緒に暮らしているが、この男には未だに謎が多く、聞きたいことはたくさんあるが、青葉は今日、これだけは確認しなくては、と心に決めているものがあった。
麗良が傍にいては聞きづらいその質問を青葉は今こそ聞くタイミングだと唾を飲み込んだ。
「あなたに聞きたいことがあったんです」
それまでの柔和な物言いから一転して固い口調に、真剣な空気を読み取ったラムファが青葉を振り返った。
今はそれどころではない、という顔をしているが、青葉は構うことなく続けた。
「あなたは、胡蝶さんのことをどう想っているんですか」
青葉の口から意外な人物の名前が飛び出したことに、ラムファは虚を突かれた顔で目を見開いた。
「……そうか。君は、胡蝶のことを……」
ラムファが最後まで言う前に、青葉が言葉を被せる。
「今度、大きな花展があります。
そこで賞を取ることができたら……僕は、胡蝶さんにプロポーズするつもりです」
青葉の目は真剣だった。歳は、胡蝶よりも十は離れているだろう。それでも、若さ故の突発的な考えや妄信でないことは、その表情と言葉の端々から伺える真剣な熱意からラムファにも伝わった。
二人の傍を通りがかりの人たちが何事かという目で見ているのを二人は構うことなく互いを見つめ合った。
そこに互いの胸に抱えた真意を読み取ろうとするかのように。
ラムファの脳裏に、胡蝶の儚げで美しい笑顔が浮かんだ。
あの笑顔を永遠に守りたいと思った時から今の今まで気持ちが変わったことなど一度もない。
ラムファが何も答えないでいると、青葉は、念を押すように言った。
「僕が胡蝶さんにプロポーズをしても、あなたは構わないんですね」
青葉は、胡蝶の娘である麗良の父親へ、宣戦布告をしているのだ。
その真摯な目にラムファが何か答えようと口を開いた時、何かがラムファの耳にささやいた。
風鳴りのようなその小さな声が青葉の耳に届くことはなかったが、それを聞いたラムファの表情が瞬時に青くなる。
そして、次の瞬間には、さっと青葉に背を向けて風のように消えてしまった。
取り残された青葉は、全く何が起きたのか分からないまま、目をぱちくりとさせて、しばらくそこに立ち尽くしていた。
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