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『アオの誘拐』
第二十八話 『陸はあなたに見捨てないと約束したのよ! 陸を嘘つきになんて、あたしがさせないわ!』
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「ここね。この建物の中にアオはいるわ」
そう言った莉子が示す先には、大きな古びた倉庫があった。
「莉子ちゃん、凄い~!」
感心しきりの澪。
「えっと、……いつの間にアオに発信機を?」
僕の予想した通り、莉子はアオにプレゼントしたチョーカーへと発信機を仕込んでいたのだった。
飼い主である僕は全く知らなかったわけだが……。
「チョーカーをプレゼントして、すぐだったかしら。アオとの共同訓練で作戦を練っているときよ」
言うまでもないが、莉子とアオの訓練は一度だけでは終わらなかった。
何日も何度も行われていた。
そして、それは実技だけでなく、座学も存在した。
「本当は陸に何かあったときのために、アオが居場所を知らせるということになっていたのだけどね」
それが今回活きたというわけである。
莉子とアオの訓練も役立つ。
そういう理解と納得をして、良い…………のだろうか?
うーん……。
「お兄ちゃん、早くアオを助けに行こうよ」
思案し始めた僕を急かす澪。
「ええ、陸。アオを助けるまでは余計なことを考えるべきではないわ。ここは敵陣なのだから集中しましょう」
少し考えるべきことではあるとは思うが……。
まあ確かに、今すべきことではないな。
「そうだな。では、まずは犯人に見つからないようにしながら、アオの救出を最優先に考えよう」
莉子のおかげで犯人の裏をかくことはできたが、まだ油断はできない。
僕の言葉に二人がこくりと頷く。
そして、辺りに人影がないことを確認し、僕らは建物内へと入っていった。
建物内は物がほとんど無く、がらんとした空間が広がっていた。
薄暗く見通しが悪いが、人の気配は感じられない。
「陸、あっちの奥よ」
莉子の案内で奥へと進み、ついに僕らはアオを対面を果たした。
野生動物を捕獲するかのような頑丈そうな檻の中にアオはいた。
伏せた状態で眠っているように見えるが、爪はボロボロで出血もしているようだ。
よく見ると、檻のところどころに血痕が付いている。
檻の中から何とか外に出ようとしたのだろう……。
「……アオ」
僕は檻の中のアオへと小声で話し掛ける。
目を閉じ、伏せたままのアオは動かなかった。
「アオ!」
少し大きな声にしてみたが、それでも動かないアオに心臓の鼓動が早くなる。
(もしかして……)
最悪の想定が頭をよぎったとき、アオがゆっくりと目を開いた。
そして、目が合った。
「アオ、良かった……」
「――にゃ、にゃう!」
アオはこちらに気付くと、一瞬驚いた様子を見せた。
が、よろよろと立ち上がって、すぐにこちらを睨み始めた。
「やっぱり、怒ってるわね」
「莉子ちゃんの言う通りだったね~」
予想通りの反応に苦笑をもらす二人。
しかし、安心した様子でもあった。
「アオ、後でいっぱい怒ってくれて良いから……。すぐにここから出すよ。もう少し待ってて」
アオを安心させるように、僕は優しく言った。
「にゃう……」
諦めたかのように大人しくなるアオ。
「お兄ちゃん、扉には鍵がかかってるよ……」
澪は檻の扉を確認し、かかっている南京錠をガチャガチャと左右に揺らした。
当たり前と言えば当たり前だが、扉は鍵が無いと開きそうにない。
「この檻を壊すのも、ちょっと難しそうね……」
莉子は檻の周りを回って、強度をチェックしているようだ。
檻の柵は太い金属でできていて、格子状になっている。
特殊な工具でもない限り、破壊するのは難しそうである。
「…………」
鍵を探すにも、檻を破壊するにも、時間がかかりそうだ。
しかし、時間をかければ誘拐犯が戻ってくる可能性がある。
莉子にも澪にも危険が及ぶかもしれない……。
「……アオ、何をしてるの?」
どうするか悩んでいる僕を前に、アオが後肢で首をかき始めた。
そして、首に着けていたチョーカーを器用に外してしまった。
更に、そのチョーカーを口でくわえ、僕の足元に投げて寄こしたのだった。
こちらを真剣な眼差しで見つめるアオは、何も言わなかった。
何も言わずに、ただ僕らに態度で示したのだ。
『私を残して帰れ』と……。
「そんなこと――」
「勘違いするんじゃないわよーー!!」
僕の声を遮り、大きな怒りの声を上げたのは莉子だった。
両手には包丁を構えている。
莉子は、包丁を大きく振りかぶり、目の前の檻を力いっぱい斬りつけた。
ガキィィィン!という大きな音が鳴り響く。
「あたしはあなたを助けたいわけじゃないの! あなたが陸に必要だから助けるのよ!」
両手に持った包丁で、交互に檻を斬りつける莉子。
ガキィィィン、カキィィィンという音が切れ間なく響く。
「あたしの愛する陸の傍には――――! アオ! あなたが絶対に必要なのよ!」
包丁を振り回し続ける莉子を、アオはじっと見つめていた。
「あなたがいない陸は、あたしが好きになった陸じゃないのよ!」
手は止めずに莉子は叫び続けた。
「陸はあなたに『見捨てない』と約束したのよ! 陸を嘘つきになんて、あたしがさせないわ!」
斬りつけるのを止め、肩で息をする莉子。
そのまま、流れ出る涙を拭う。
……違う。
莉子は全てを吐露していない。
僕のためにアオを助けたいというのは嘘ではないかもしれない。
だが、それだけじゃない。
莉子本人もアオを見捨てられないのだ。
僕を危険な目には合わせたくはない。
でも、アオを助けたいと葛藤していたのだ。
(絶対に、絶対に、アオは助けなければならない。僕の約束のためだけではない。莉子のためにもだ)
僕は考えを巡らせた。
そう言った莉子が示す先には、大きな古びた倉庫があった。
「莉子ちゃん、凄い~!」
感心しきりの澪。
「えっと、……いつの間にアオに発信機を?」
僕の予想した通り、莉子はアオにプレゼントしたチョーカーへと発信機を仕込んでいたのだった。
飼い主である僕は全く知らなかったわけだが……。
「チョーカーをプレゼントして、すぐだったかしら。アオとの共同訓練で作戦を練っているときよ」
言うまでもないが、莉子とアオの訓練は一度だけでは終わらなかった。
何日も何度も行われていた。
そして、それは実技だけでなく、座学も存在した。
「本当は陸に何かあったときのために、アオが居場所を知らせるということになっていたのだけどね」
それが今回活きたというわけである。
莉子とアオの訓練も役立つ。
そういう理解と納得をして、良い…………のだろうか?
うーん……。
「お兄ちゃん、早くアオを助けに行こうよ」
思案し始めた僕を急かす澪。
「ええ、陸。アオを助けるまでは余計なことを考えるべきではないわ。ここは敵陣なのだから集中しましょう」
少し考えるべきことではあるとは思うが……。
まあ確かに、今すべきことではないな。
「そうだな。では、まずは犯人に見つからないようにしながら、アオの救出を最優先に考えよう」
莉子のおかげで犯人の裏をかくことはできたが、まだ油断はできない。
僕の言葉に二人がこくりと頷く。
そして、辺りに人影がないことを確認し、僕らは建物内へと入っていった。
建物内は物がほとんど無く、がらんとした空間が広がっていた。
薄暗く見通しが悪いが、人の気配は感じられない。
「陸、あっちの奥よ」
莉子の案内で奥へと進み、ついに僕らはアオを対面を果たした。
野生動物を捕獲するかのような頑丈そうな檻の中にアオはいた。
伏せた状態で眠っているように見えるが、爪はボロボロで出血もしているようだ。
よく見ると、檻のところどころに血痕が付いている。
檻の中から何とか外に出ようとしたのだろう……。
「……アオ」
僕は檻の中のアオへと小声で話し掛ける。
目を閉じ、伏せたままのアオは動かなかった。
「アオ!」
少し大きな声にしてみたが、それでも動かないアオに心臓の鼓動が早くなる。
(もしかして……)
最悪の想定が頭をよぎったとき、アオがゆっくりと目を開いた。
そして、目が合った。
「アオ、良かった……」
「――にゃ、にゃう!」
アオはこちらに気付くと、一瞬驚いた様子を見せた。
が、よろよろと立ち上がって、すぐにこちらを睨み始めた。
「やっぱり、怒ってるわね」
「莉子ちゃんの言う通りだったね~」
予想通りの反応に苦笑をもらす二人。
しかし、安心した様子でもあった。
「アオ、後でいっぱい怒ってくれて良いから……。すぐにここから出すよ。もう少し待ってて」
アオを安心させるように、僕は優しく言った。
「にゃう……」
諦めたかのように大人しくなるアオ。
「お兄ちゃん、扉には鍵がかかってるよ……」
澪は檻の扉を確認し、かかっている南京錠をガチャガチャと左右に揺らした。
当たり前と言えば当たり前だが、扉は鍵が無いと開きそうにない。
「この檻を壊すのも、ちょっと難しそうね……」
莉子は檻の周りを回って、強度をチェックしているようだ。
檻の柵は太い金属でできていて、格子状になっている。
特殊な工具でもない限り、破壊するのは難しそうである。
「…………」
鍵を探すにも、檻を破壊するにも、時間がかかりそうだ。
しかし、時間をかければ誘拐犯が戻ってくる可能性がある。
莉子にも澪にも危険が及ぶかもしれない……。
「……アオ、何をしてるの?」
どうするか悩んでいる僕を前に、アオが後肢で首をかき始めた。
そして、首に着けていたチョーカーを器用に外してしまった。
更に、そのチョーカーを口でくわえ、僕の足元に投げて寄こしたのだった。
こちらを真剣な眼差しで見つめるアオは、何も言わなかった。
何も言わずに、ただ僕らに態度で示したのだ。
『私を残して帰れ』と……。
「そんなこと――」
「勘違いするんじゃないわよーー!!」
僕の声を遮り、大きな怒りの声を上げたのは莉子だった。
両手には包丁を構えている。
莉子は、包丁を大きく振りかぶり、目の前の檻を力いっぱい斬りつけた。
ガキィィィン!という大きな音が鳴り響く。
「あたしはあなたを助けたいわけじゃないの! あなたが陸に必要だから助けるのよ!」
両手に持った包丁で、交互に檻を斬りつける莉子。
ガキィィィン、カキィィィンという音が切れ間なく響く。
「あたしの愛する陸の傍には――――! アオ! あなたが絶対に必要なのよ!」
包丁を振り回し続ける莉子を、アオはじっと見つめていた。
「あなたがいない陸は、あたしが好きになった陸じゃないのよ!」
手は止めずに莉子は叫び続けた。
「陸はあなたに『見捨てない』と約束したのよ! 陸を嘘つきになんて、あたしがさせないわ!」
斬りつけるのを止め、肩で息をする莉子。
そのまま、流れ出る涙を拭う。
……違う。
莉子は全てを吐露していない。
僕のためにアオを助けたいというのは嘘ではないかもしれない。
だが、それだけじゃない。
莉子本人もアオを見捨てられないのだ。
僕を危険な目には合わせたくはない。
でも、アオを助けたいと葛藤していたのだ。
(絶対に、絶対に、アオは助けなければならない。僕の約束のためだけではない。莉子のためにもだ)
僕は考えを巡らせた。
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