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英雄の産声
ゴブリン
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飛び出してすぐにゴブリンに気づかれた。水浴びしていても油断していなかったのだ。
素早く近くの地面に置いてある棍棒を取ろうとゴブリンがしゃがみこむ—————
―――グサッ!
ケリーは間に合ったのだ。足の筋肉をはち切ればかりに使い、木の槍を可能な限り伸ばして。
咄嗟に左手で体を庇ったゴブリンは『グァアアアッ!』と痛々しい叫び声を上げたが、右手に力強く握られている棍棒を見れば、決して闘志が収まっていないのがわかる。むしろ怒りで目が血走っていた。
だが、あと一度なら追撃できそうだ。
そう思ったケリーが今一度、木の槍を突き刺そうとすると、木の槍の持ち手から先が折れて地面に落ちた。
「なっ……!?」
ゴブリンが右手に持っている棍棒で木の槍を側面から打ち付けたのだ。
同じ木の武器と言えど棍棒のほうが遥かに分厚い。さらに、ゴブリンは【棍棒術】を持っているのだ。うまく打ち付けられ衝撃に負けて砕けてしまった。
(落ち着け! 考えろ! 何か方法があるはずだッ!)
ケリーが必死に考えを巡らそうとするが、木の槍が壊れた隙にゴブリンが反撃にうつる。
「————ッ!」
脳天目掛けて勢いよく振り下ろされた棍棒をケリーは何とか回避する。息つく暇もなく、ゴブリンが追撃を掛けてくる。
「くっ……」
避けるのも必死のケリーが真横に飛ぶ。
地面を転がると、湿った土が口に入り不快感に襲われ、乱暴に唾を吐き捨て立ち上がり、呼吸を整えながら態勢を整える。
(このまま避け続けるか……)
先ほどのケリーの攻撃でゴブリンの左手からはどす黒い血がとめどなく流れている。
最初より明らかにゴブリンの動きが悪かった。こいつにとって無視できないほど血が流れているのなら、出血死させることができる、そう思った。
が、
(無理だな。俺が先にやられる)
初めての戦闘、ましてや訓練も何もしていないケリーにとって避け続けるのは至難の業であり、無駄な動きで体力を消耗しすぎる。
そう考えているうちにもゴブリンの棍棒が迫ってきて、やはり無理だと結論付けた。
『グラァッ!』
「チッ……!」
『グラァアアアッ!』
当たらない攻撃に鬱憤が溜まったゴブリンが幾度となく攻め立て、良い打開案が見つからず避け続けるケリー。
もう何分経っただろう?
霞がかかったように思考が鈍くなり、目に靄がかかったように視界がぼやけて見える。消耗した体は限界を迎えふらっ、とよろけてしまう。
『グオォォオオオオッ!』
一瞬の隙を見逃さなかったゴブリンが、無防備になったケリーの横っ腹に棍棒を振り下ろす。
「うっ!」
ケリーの軽い体はゴブリンの横薙ぎによって簡単に吹き飛んだ。
受け身も取れずに仰向けに転がったケリーに背中から鋭利な刃物で切り裂かれたかのような鋭い痛みが襲った。
「――ッ!?」
痛い。あまりの痛みに呻き声が自然と出る。
だがこれは幸運だったのかもしれない。
何事かと思い振り向き確認すると、そこには黒く煌びやかで鋭利な石があった。
(この切れ味。 これだ! これでやってやる!)
近い。ゴブリンの荒い鼻息が聞こえてくる。
無我夢中で左手で土を握りしめ、振り向きざまにゴブリンの目に目掛けて投げるかけると――――。
「うぉおおおおらっ!」
それはゴブリンの目にかかる直前に右手で防御され、地面に落ちていった。
しかし、ゴブリンは一瞬ケリーから目を逸らしてしまった。
その隙にケリーは―――――。
「これで―――――ッ」
猛々しくゴブリンの左手側に突っ込んだ。
『グゥァアアアアアアアアアアアアアッ!』
ゴブリンは突っ込んでくるケリーに合わせ棍棒を振り下ろそうとするも
「終わりだぁああああっ!」
臆することなく、鋭い石を頭に向けて突き上げた。
それはゴブリンの頭蓋に深々と突き刺さり、暗紅色の血を滴らせる。
『グ……ァ……ッ……』
弱弱しく横たわる妖鬼。
血走った双眸から生気が消え、静かに瞼を閉じる。
同時にケリーの頭の中に声が響いた。
『対象を選択してください』
【繁殖】 【棍棒術】
迷わず【棍棒術】を選ぶと
『【魂奪】を発動します……スキル【棍棒術LV1】を獲得しました。』
すると、自分の中に何か温かいものが流れ込んでくるのを感じた。
「やった……」
慌てて【魂魄眼】を自分に使い確認する。
ー-----ー-----
名前:ケリー(10)
種族:人間
加護:なし
称号:なし
技能:《エクストラスキル》
【魂奪】 LV 1
《ユニークスキル》
【魂魄眼】 LV 1
《スキル》
【棍棒術】 LV 1
ー-----ー-----ー
確認して安心したのかドッと疲労と痛みが襲ってきた。幸いに背中の傷はそれほど深くはなく自然治癒で治るだろう。
微かに残っていた冷静な頭で血によって魔物が寄ってくるかも?と考え横になり休みたい衝動を必死に抑えて行動する。
棍棒とゴブリンに突き刺さっている黒い煌びやかな石を取り、どこか休める場所を求めて移動を開始した。
その足取りは遅くゆっくりとしたものだったが、キラキラと差し込む木漏れ日はケリーの未来を表しているかのようだった。
ーーあとがきーー
お読みくださりありがとうございます。
応援大変励みなっております。
素早く近くの地面に置いてある棍棒を取ろうとゴブリンがしゃがみこむ—————
―――グサッ!
ケリーは間に合ったのだ。足の筋肉をはち切ればかりに使い、木の槍を可能な限り伸ばして。
咄嗟に左手で体を庇ったゴブリンは『グァアアアッ!』と痛々しい叫び声を上げたが、右手に力強く握られている棍棒を見れば、決して闘志が収まっていないのがわかる。むしろ怒りで目が血走っていた。
だが、あと一度なら追撃できそうだ。
そう思ったケリーが今一度、木の槍を突き刺そうとすると、木の槍の持ち手から先が折れて地面に落ちた。
「なっ……!?」
ゴブリンが右手に持っている棍棒で木の槍を側面から打ち付けたのだ。
同じ木の武器と言えど棍棒のほうが遥かに分厚い。さらに、ゴブリンは【棍棒術】を持っているのだ。うまく打ち付けられ衝撃に負けて砕けてしまった。
(落ち着け! 考えろ! 何か方法があるはずだッ!)
ケリーが必死に考えを巡らそうとするが、木の槍が壊れた隙にゴブリンが反撃にうつる。
「————ッ!」
脳天目掛けて勢いよく振り下ろされた棍棒をケリーは何とか回避する。息つく暇もなく、ゴブリンが追撃を掛けてくる。
「くっ……」
避けるのも必死のケリーが真横に飛ぶ。
地面を転がると、湿った土が口に入り不快感に襲われ、乱暴に唾を吐き捨て立ち上がり、呼吸を整えながら態勢を整える。
(このまま避け続けるか……)
先ほどのケリーの攻撃でゴブリンの左手からはどす黒い血がとめどなく流れている。
最初より明らかにゴブリンの動きが悪かった。こいつにとって無視できないほど血が流れているのなら、出血死させることができる、そう思った。
が、
(無理だな。俺が先にやられる)
初めての戦闘、ましてや訓練も何もしていないケリーにとって避け続けるのは至難の業であり、無駄な動きで体力を消耗しすぎる。
そう考えているうちにもゴブリンの棍棒が迫ってきて、やはり無理だと結論付けた。
『グラァッ!』
「チッ……!」
『グラァアアアッ!』
当たらない攻撃に鬱憤が溜まったゴブリンが幾度となく攻め立て、良い打開案が見つからず避け続けるケリー。
もう何分経っただろう?
霞がかかったように思考が鈍くなり、目に靄がかかったように視界がぼやけて見える。消耗した体は限界を迎えふらっ、とよろけてしまう。
『グオォォオオオオッ!』
一瞬の隙を見逃さなかったゴブリンが、無防備になったケリーの横っ腹に棍棒を振り下ろす。
「うっ!」
ケリーの軽い体はゴブリンの横薙ぎによって簡単に吹き飛んだ。
受け身も取れずに仰向けに転がったケリーに背中から鋭利な刃物で切り裂かれたかのような鋭い痛みが襲った。
「――ッ!?」
痛い。あまりの痛みに呻き声が自然と出る。
だがこれは幸運だったのかもしれない。
何事かと思い振り向き確認すると、そこには黒く煌びやかで鋭利な石があった。
(この切れ味。 これだ! これでやってやる!)
近い。ゴブリンの荒い鼻息が聞こえてくる。
無我夢中で左手で土を握りしめ、振り向きざまにゴブリンの目に目掛けて投げるかけると――――。
「うぉおおおおらっ!」
それはゴブリンの目にかかる直前に右手で防御され、地面に落ちていった。
しかし、ゴブリンは一瞬ケリーから目を逸らしてしまった。
その隙にケリーは―――――。
「これで―――――ッ」
猛々しくゴブリンの左手側に突っ込んだ。
『グゥァアアアアアアアアアアアアアッ!』
ゴブリンは突っ込んでくるケリーに合わせ棍棒を振り下ろそうとするも
「終わりだぁああああっ!」
臆することなく、鋭い石を頭に向けて突き上げた。
それはゴブリンの頭蓋に深々と突き刺さり、暗紅色の血を滴らせる。
『グ……ァ……ッ……』
弱弱しく横たわる妖鬼。
血走った双眸から生気が消え、静かに瞼を閉じる。
同時にケリーの頭の中に声が響いた。
『対象を選択してください』
【繁殖】 【棍棒術】
迷わず【棍棒術】を選ぶと
『【魂奪】を発動します……スキル【棍棒術LV1】を獲得しました。』
すると、自分の中に何か温かいものが流れ込んでくるのを感じた。
「やった……」
慌てて【魂魄眼】を自分に使い確認する。
ー-----ー-----
名前:ケリー(10)
種族:人間
加護:なし
称号:なし
技能:《エクストラスキル》
【魂奪】 LV 1
《ユニークスキル》
【魂魄眼】 LV 1
《スキル》
【棍棒術】 LV 1
ー-----ー-----ー
確認して安心したのかドッと疲労と痛みが襲ってきた。幸いに背中の傷はそれほど深くはなく自然治癒で治るだろう。
微かに残っていた冷静な頭で血によって魔物が寄ってくるかも?と考え横になり休みたい衝動を必死に抑えて行動する。
棍棒とゴブリンに突き刺さっている黒い煌びやかな石を取り、どこか休める場所を求めて移動を開始した。
その足取りは遅くゆっくりとしたものだったが、キラキラと差し込む木漏れ日はケリーの未来を表しているかのようだった。
ーーあとがきーー
お読みくださりありがとうございます。
応援大変励みなっております。
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