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54話 

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 視点変更:メジェンヌ国の神殿前

「陛下、短い間でしたがお世話になりました。メジェンヌでの務めは終わりましたので、ヴァルプールへと戻り、本来の職務を遂行しようと思います。それでは」

 そう言ってアトリアは馬車に乗り込み、振り返る事無く去っていく。
 それを呆然と見送るしかないメジェンヌ国王とセルジャック王太子、アルバート神官長、ロナウド副団長。
 聖女はどの国にも所属しない。
 アトリアは聖女として開花したのはメジェンヌだが、どの国に滞在することも可能で、その制限はない。

 本来のアトリアは、メジェンヌが好きだから滞在していただけだ。
 それが薬を使われたとはいえ、自分で去って行ったのだ、止める事は出来ない。

「騒がしいな、何があった」

「おおレオン化学技術庁長官か。それが、アトリアがヴァルプールへ帰ってしまったのだ」

「なに? まだ聖女の力を解明していないのに、いま帰られたら困るな」

 セルジャック王太子の答えに不穏な受け答えをするレオン。
 相変わらず研究の虫で、今日も研究室に籠っていたのだが、あまりにもうるさいため様子を見に来たのだ。

「今の聖女様は正気とは思えん。全員謁見の間に集まってくれ」

 メジェンヌ国王の命令で、貴族も含めたメンバーが招集された。




「まずは状況を再確認する」

 急遽集められたにも拘わらず、ほとんどの者が揃っている。
 今居ないのは国にいない者だけ、それほどの緊急事態なのだ。

 セルジャック王太子から説明があり、アルバート神官長とロナウド副団長が補足説明をする。
 その結果得られたものは、ハロルドがアトリア聖女にツバルアンナの薬を使用した、という事だ。
 全て燃やし尽くしたはずだったが、まさか被害者が所持しているとは思わなかったようだ。

「しかし、そうか、ハロルド王太子がなぁ。ワシが感じておったアトリア聖女様への愛情は、どうやら執着心だったようだ」

「執着心? 愛しているからこその感情でしょうか」

「セルジュも気を付けねばなぁ。お前もアトリア聖女様にご執心だからな」

「な! 私はアトリアの感情を操ろうなどとは考えません!」

「それが普通じゃ。それが行き過ぎたから執着しておる、と言ったのじゃ」

 普通ならば諦めなくてはいけない事を、ハロルドは諦めきれなかったのだ。
 その感情がツバルアンナの薬を使う、といった最悪の行動に出てしまった。

「あのバカ聖女が操られているという事は、自分では操られている自覚がないようだな。であれば聖女の力で浄化をする事は不可能。それに気づかせられる方法となると……私の出番だな」

「レオン化学技術庁長官、何か手があるのか?」

「ええ陛下。以前もらった手土産があります。それを改良しましてね……フフフフ」

 とても楽しそうな顔の、いや不敵と言った方が良いか、そんな表情で謁見の間を1人で出て行った。

「相変わらずレオン化学技術庁長官は我が道を行っていますね」

「それだけの能力がある方です。我が国民、いや他国民も、あの方には頭が上がりません」

 アルバート神官長とロナウド副団長が後姿を眺めながら呟く。
 自国ならず他国でも頭が上がらない……レオンの作った薬は優秀で、副作用のない特効薬を数多く作り出し、研究の成果は世界に轟いている、と言ってもいい。

 そんなレオンから2日待て、と連絡が入り、本日2日目、セルジャック王太子、アルバート神官長、ロナウド副団長に小瓶を渡した。

「それを愚か者の聖女に飲ませろ。最低でもこちらの意見に耳を傾けるはずだ」

「これは以前渡した解毒剤か? しかし色が違うような……?」

 そう言って瓶のフタを開け、匂いを嗅いでしまったセルジャック王太子。
 白目をむいて、意識を失いかけてしまった。

「こ、こここ、この匂いは何だ!?!?」

「クックックック、聖女の調査が終わる前に立ち去った罰だ。あいつの顔面にでも叩きつけてやれ。一滴でも口に入ればそれでいい」

 セルジャック王太子が気を失いかけた薬を顔面に……しかも3瓶も……効果はバツグンなのだろう。
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