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21話

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「ハロルド王太子……お父様……」

 ハロルド王太子が来るのは分かる、でもどうしてお父様が?
 いくら公爵とはいえ、この場に居るのは不自然に感じる。
 国王陛下が来るとばかり思ってた。

「おお我が娘よ! 久しぶりではないか、どうだ、他国は落ち着かないだろう? そろそろ家に戻って来てはどうだ? ん?」

 お父様が笑顔を作って走り寄ってくる。
 どうして……どうして今頃になって娘扱いをするの?
 お父様は私を『役立たず』といって追い出したのよ?

「プルッセル公爵、今回はそのような話をするために集まったのではない。中央へお戻りください」

「し、しかしセルジャック王太子」

「お戻りを」

 セルジュに言われてシブシブ戻っていく。
 よかった、どうしたらいいのか分からなかったから。

 セルジュが玉座の右に立ち、私が左に立つと、メジェンヌ国王陛下がお出でになる。

 私とセルジュ以外がこうべを垂れ、玉座に座ると顔を上げた。

「ヴァルプール国ハロルド王太子、並びにプルッセル公爵。本日はどういった御用件かな?」

 用件は決まっているけど、格下の者が陳情に来た、という形を取るみたい。

「はっ! 本日は陛下の貴重な時間を割いていただき、誠にありがとうございます。ついては先の戦いでの取り決めを行いと存じます」

 ハロルド王太子が胸に手を当てて、今までに見た事がない程の自信を持って発言している。
 どうしてそんなに自信を持っていられるの? 不条理ともいえる条件を出されて、飼い殺しにされるのが落ちなのに。

 その理由はどうやら私に有ったみたい。
 ハロルド王太子とお父様は、聖女たる私の生まれ故郷であり、婚約解消をした事を高らかとに告げ、聖女の存在はヴァルプールの功績であると主張した。

 マーテリー王太子妃にいわれのない罪をかぶせられて、言われるままに追放したのに、一体どこに功績が有るって言うんだろう。
 お父様は、娘は難産で育てるのに苦労したとか、娘には父親が必要だとか。娘を政治の道具としか見ていなかった人の発言とは思えなかった。
 難産なんて初めて聞いたけど。

「ふむ。それで、貴国はどのような処遇をお望みか」

「はっ! 我がヴァルプールとメジェンヌは、対等な友人でありたいと存じます」

 なに言ってるんだろう。戦争で手助けをされた段階で、もう対等にはなりえないのに。
 ハロルド王太子は絶対の自信をもった顔をしてるのに対し、お父様は目が泳いでる。
 勢いで無理を通そうって腹かしら。

 ハロルド王太子も、もう少し周りが見れたら良かったのに。
 この謁見の間の冷え切った空気を。

「それでは他の者の意見を聞こう。誰か、意見のある者はおるか」

 その場の全員が発言の許可を求めた。
 ですよね~。
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