上 下
24 / 139

第二十四話

しおりを挟む
「いやよ! こんな女を王宮に仕えさせるなんてごめんだわ!!」

 呼ばれたので訪れたら、部屋にいた女性にこんな事を言われました。
 こんな女って私ですよね? 初めてお会いする方にそんな事を言われると少し落ち込んでしまいます。
 
 この部屋(アベニール様のお屋敷のリビング程の広さ)には私とアベニール様、そして若く高貴そうな男性が四名と同じく若く高貴そうな女性が六名います。
 見た感じだと女性二名は私よりも年下でしょうか。
 中央正面に年長らしい男性と女性、そして左右に弧を描いて立っています。

「落ち着けリーフ。お前が反対した所で使う使わないの決定権はないんだぞ」

 一番落ち着いている年長らしい男性が発言しました。
 金髪のショートヘアーで少し角ばった顔つき、眼光は鋭く服の上からでも筋肉質なのがわかります。
 黒い詰襟を着ていますが軍人でしょうか。

「だってグーお兄様、僕は絶対に嫌です! セーお兄様がどうしてこんな女を!」

 一番右側にいる少女は私の事が嫌いなのでしょうか。
 初めて会ったはずですが……

「こらリーフ、その呼び方はやめなさいと何度も言っただろう? あと女の子なんだから僕と言わず私と言いなさい」

「うぅ~、ごめんなさいシルお兄様」

 シルお兄様と呼ばれたメガネをかけた知的な男性は、やめろといったのに恐らくはあだ名呼びされたのでしょう、目を細めてため息をつきます。
 グーお兄様、セーお兄様、シルお兄様、リーフ……何でしょう、少しだけ聞き覚えがあるようなお名前ですね。
 高貴な御方でグー、セー、シル、リーフ……あ、ああっ、あああああああ!!

「ぐ、グロリア王子……シルフィー王子……リーフ王女……?」

「気が付いたかシルビア。そうだ、この方々はこの国の王子王女だ」

「は、は、は、初めまして! 私はシルビアと申します! お、お会いできて光栄です!」

 慌てて頭を下げました。
 えっと、えっと、王族? なんで私は王族と会っているのでしょうか!?
 それに仕えるって?

「ようやく気が付いたか。いきなり王族が目の前にいるなんて思いもしないだろうからな、あまり緊張する必要はないぞ」

 無理! それは無理無理です!!
 私はずっと頭を下げたままでいましたが、見るに見かねたアベニール様が私の頭を持ち上げました。

「皆さんがお前に会いたいとおっしゃったのだ。お前は呼ばれた立場なのだからあまり下手に出過ぎると失礼になる」

「は、はい」

 ドキドキしながら顔を上げましたが、う、うわぁ、美男美女ばっかりだぁ。

「それで、あなたは王宮に仕えたいのかしら?」

 中央の女性が扇子を口に当てながら発言しました。
 女性は茶色い髪で床まで届きそうなロングヘアー、目は慈愛に満ちているように見えますが、その奥では私を値踏みしているように見えます。
 ドレス、というよりも体のラインが良く見える青いアオザイベトナムの民族衣装のようです。

「王宮に仕えるという意味が、その、わかりません。私はアベニール様の下でプリメラ、プリメーラ様の付き人をしています。その任を解かれない限りは他へ行くつもりはありません」

 私の言葉に目の前にいる美男美女は面食らったような顔になります。
 あ、あら? 変な事を言ったかしら。

「ぐあっはっはっは! お前ならそう言うと思っていたぞシルビア。皆様方、お聞きの通りシルビアにその気はないようです」

「なによ! 僕達やセーお兄様よりもプリメーラが良いっていうの⁉」

 一番右の少女、確かリーフ王女だったわね、水色のショートヘアーで活発そうに見えるし、服装も男の子みたいだ。
 あれ? さっきは私が王宮に仕えるのを反対していませんでしたか?

「リーフお姉たま、落ち着いてくだしゃい。わたち達は面接をしているだけでしゅから、ここで文句をいってもしょーがないでしゅよ」

 今度は一番左の少女が発言しました。
 背は低いですが恐らく十歳前後、金色のふわふわカールのロングヘアー、髪には赤いリボンを二個付けています。
 おっとり、というよりも少し眠そうな顔で、ピンクのドレスを着ています。

「だ、だってローちゃん、こいつセーお兄様よりもプリメーラがいいって!」

 あーまた始まった。
 どうやら私が王宮で働く資格があるかどうかの面接らしいけど、一体どこからそんな話になったのかしら。
 アベニール様が私を連れて来たんだから、アベニール様は御存じなのよ……ね!?

 はわ、はわわわ、アベニール様の顔が真っ赤に、これは凄く怒っているわ。

「リーフ様、どれだけ人を侮辱すれば気が済むのだ。プリメーラは良い子だしシルビアは命がけで使命を果たす子だ。どちらも私の可愛い娘なんだぞ」

 地響きが起きそうな低い声に王族たちも思わず姿勢を正します。
 ああ、まだまだ役者が違うという事ね。
 わ、私も思わず姿勢を正してしまったわ。

「コホン、あ~えらいすんませんなぁアベニール卿。うちの子たちは少々兄弟愛が強すぎて、気持ちが暴走してしまいましたわ」

 左側にいる女性、愛嬌のある顔立ちで茶色く長めの髪を右上で纏めています。
 落ち着きのある質素な薄緑の膝上ドレスを着ています。

「わかりましたステージア様。しかし忘れないでいただきたい、グロリア様とシーマ様以外は、まだ私の方が役職上でも上であるという事を」

 ああそうだったわ。
 中央のお二人、グロリア様は第一王子として国王になる事が確定しているし、第一王女のシーマ様は他国の第一王子と婚約している。
 それ以外は国王クラスには程遠いし、国への貢献度も違いすぎるわね。

「すまなかったなアベニール卿。では話を戻そう、シルビア、君を王宮のメイドにと推薦が来ているんだ。それを受けるつもりはあるかい?」

「グロリア様、先ほども申しましたが私はプリメーラ様の付き人です。任を解かれない限りは勤め上げるつもりなので、お受けすることは出来ません」

「ふふふ、すでに答えは出ていたわね。ごめんなさいねシルビア、変な事に付き合わせてしまって」

「いえシーマ様、皆様にお会いできたことが何よりも名誉です」

「じゃあもうセーお兄様には近づかないでよね!」

 そして私とアベニール様は部屋を出ました。
 そういえばセーって誰かしら? 王子王女は十一人もいるから、上の方は覚えているけど下の方は名前をしっかり聞かないと思い出せないわね。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
 前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...