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18話 私が来たから

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 ハンスが……ハンスがモンスターに襲われた!?
 連絡に来た騎士は傷だらけで、恐らくは襲われている中を駆け抜けてきたのでしょう。
 
「早く……早く救出を頼む!」

 は! ボーっとしている場合ではありません、急いで人を呼ばないと!
 慌てて屋敷に入ると、すでに屋敷内は騒然としており、援軍を向かわせる準備が進んでいます。
 騎士は治療のために屋敷内に案内されましたが、シュミット辺境伯が鉄製の鎧をまとって現れました。

「準備はどうか!」

「そろそろ馬の準備が終わります! 騎士達もそろう頃です!」

 背中に大きな剣をかついだシュミット辺境伯に、副官らしき人物が報告します。
 いつでも出撃出来る準備が整っていたのでしょうか、それとも私が長時間オロオロしていただけ?

「シオン様!」

 寝巻にガウンを羽織っただけの姿で、ナタリー様が階段を降りてきます。
 騒ぎを聞きつけた来たのでしょう。

「ナタリー様、ハンスが、ハンスがモンスターに襲われています! 私も早くいかないと!」

 ナタリー様の腕にしがみ付くと、私は急いで出かける準備をしようと部屋に戻り……腕を引っ張られました。
 
「シオン様いけません! あなたが戦場に行っても何もできないどころか、足手まといになってしまいます!」

「し、しかし」

「今はお父様を信じてください。きっと無事に助けてくださいますから」

 そう、ですよね。戦場に私が行った所で、何もできる事はありません。
 今の私にできる事は、ただ信じて待つだけ。
 なんて事でしょう、ここまで来たというのに、まさかハンスがモンスターに襲われるなんて。

「……わかりました。静かに待つことにしましょう」

 ナタリー様に手を引かれ、自室へと戻ります。
 どうしてこうなったんでしょうか。
 今回の事は結果的に、私が来たことで起きた事です。
 私がハンスを呼び戻さなければ、モンスターに襲われる事は無かったでしょう。

 国境沿いの監視塔には十分な戦力があります。
 隣国に攻められたならいざ知らず、モンスターに襲われてどうこうなる事はありません。
 交代という少人数での移動だからこそ、モンスターに狙われたのです。

 私が……私がハンスを殺してしてしまう……。

 ドアがノックされた。

「シオン様? 朝食の準備が出来ましたので、一緒に行きませんか?」

 わざわざナタリー様が呼びに来てくれました。
 いけませんね、随分と心配をかけているようです。
 
 シュミット辺境伯夫人もナタリー様も、私に気を使いながら食事をしています。
 私は……ここにいて良いのでしょうか。
 いくら客という立場とはいえ、甘え過ぎではないですか?
 
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