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3 隣国からの招待状

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 お姉様に色々と教えてもらい、私は自分磨きを始めた。
 
「あなたは基本的な事は出来ているけど、自分の見せ方を分かっていないわ」

「見せ方……」

 その言葉、さっきも言われた気がするわ。
 みんなに好かれるお姉様がいう事だもん、まずは言う通りにする事が先決ね!





 残念ながらその日の夜も、旦那様は帰ってこなかった。
 2人分の食事は、無駄になってしまった。
 私はいつになったら3人分の食事を作れるようになるんだろう。

 翌日からもひたすらお姉様に教えてもらい、自分磨きをしていった。
 きっとお姉様の様にキレイになれば、旦那様も私に振り向いてくれて、一緒に居てくれるはず。
 そうなる事を夢見て、私はひたすらにお姉様の教えを実践していく。

 そんなある日、お姉様に言われてパーティーに参加する事になった。
 
「あなたは元がいいのだから、きっと沢山の男性が言い寄って来るわよ」

「そうかしら……でもそうだとしたら、お姉様の教え方が良かったって事ね」

 旦那様には今晩は仕事で遅くなると伝えた。
 きちんと食事とお金は置いておいたから、私の事で不安に思う事は無いと思う。

 それにしても、お姉様はキレイだ。
 薄いピンクのドレスも似合っているし、髪もキレイ、背もスラリとしていてスタイルもいい。
 それにたたずまいがすごい。
 そこに居るだけで存在感があるし、それでいて誰も拒否しない、誰でも声をかけやすい雰囲気だ。

 はぁ~……、それに比べて私は……。

「イングリッド、こちらリチャードさんよ。隣の国からお仕事でこっちに来られているの」

「初めましてイングリッドと申します。いつも姉がお世話になっております」

 そう言ってドレスのスカートをつまみ、軽く腰を落として会釈する。
 ううっ! この人もイケメンだ! この会場に居る人はみんな美男美女ばっかり!
 旦那様以上の美男子はいないけど。

 きっとこの人は、珍獣を見るような感じで私に挨拶をしに来たんだわ。

 だってほら、この方リチャードさんは、私を見たまま一言も声を出さない。
 きっと汚らしいモノには声をかけるのも嫌なんだわ。

「リチャードさん、ご挨拶を」

「は! ししし、失礼しました! 私はリチャードと申します。クリスティーヌさんにはよくお世話になっております!」

 そう言って腰を90度に曲げて頭を下げた。
 随分と緊張をしていらっしゃるようだけど……ああ、きっとお姉様の側に居るからね。
 お姉様の様なキレイな人の隣にいると、やっぱり男性は緊張してしまうのかしら。
 
 その後も数人の男性と挨拶をしたけど、やっぱりみんな緊張しっぱなしだった。
 そんな男性と平気な顔で会話が出来るなんて、やっぱりお姉様はすごいわ!

 パーティーが終わり、お姉様と馬車で帰っている。
 針のむしろの様な気分だったわ。
 でもお姉様は凄いな。あんな中に居てもひときわ存在感があった。

「イングリッド、どうだったかしら」

「お姉様は流石ね! あんな美男美女の中に居ても、一番輝いていたわ!」

「そう? ありがとう。でもあなたもとても輝いていたわよ?」

「私なんてダメよ。みんな物珍しいから挨拶に来ただけ。お姉様の金魚の糞よ」

「……今度はそこを直さなきゃね」

「ソコ? 物珍しさを無くすの?」

「そうじゃないわ。明日からの楽しみが出来たわね」




 数日が過ぎて、お姉様の教えを忠実にクリアしていったけど……正直、今は何をしているのか分かってない。
 たまに色んな人が来て私をほめちぎって行ったりするけど、何の意味があるんだろう。

 そんなある日の事、旦那様が珍しくはやくに家に帰ってきた。

「お帰りなさいアナタ。今日の夕食で食べたい物はありますか?」

 そんな事を聞いてみたけど、今日もまた外出するかもしれない。

「……そうだな、今日は久しぶりに鶏肉が食いたいな」

「!! 分かりました。腕によりをかけて作りますね!」

 旦那様、今日は家に居てくれるみたい!
 うれしい……久しぶりに2人で食事ができるのね。
 お姉様、お姉様の言う通りに自分磨きをした成果がでました!



「お前、何かいい事でもあったのか」

「いい事ですか? いい事でしたら今、アナタと一緒に食事を出来る事がとても嬉しいわ」

「そうか。ならたまには家で食事をしよう」

「!? ええ、ええ! 食べたい物があれば、何でもおっしゃって下さいね!」

 涙が出そうなほどに嬉しい。
 でも泣いたらダメ。嬉しいんだから、笑わなきゃ。
 旦那様に泣き顔なんて見せられないもの。
 
 


 嬉しすぎて、次の日にはお姉様に報告をしに行ってしまった。
 お姉様も喜んでくれた。
 お姉様には頭が上がらないわね。
 昔から上がらないけど。

 最近は2~3日に1回は家で食事をしてくれるようになり、家事も仕事も断然やる気が出てきた。
 きっともう少ししたら、新婚時代みたいに毎日一緒に居てくれる様になるわ。

 そして今日は旦那様と一緒に食事をしている。
 旦那様はチラチラと私を見てくれてる。自分磨きが成功しているのかしら。
 もしそうだとしたら、もっともっと磨いたら、ずっと家に居てくれるようになるかも。

 少しぎこちないけど会話も出来てるし、時々私を気遣う事も言ってくれる。
 こんなに幸せなのは新婚以来だわ。

 ドアがノックされた。
 誰かしら、こんな夜に。

「私が出るわ。はい、どなたでしょうか?」

 ドアを開けると、そこには白髪で白いひげを生やした細身の男性が立っていた。

「夜分遅くに申し訳ございません。こちらはアントン様のお屋敷で間違いないでしょうか」

 お屋敷? 部屋が2つしかない小さな家だからお屋敷じゃないけど、アントンは旦那様の事だ。
 だからお屋敷というのは社交辞令の様なものかしら。

「はい、アントンは私の夫です。アナタ、お客様がお見えになっています」

「ああ、いえいえ、私が用事があるのはその奥様です。イングリッド様で間違いございませんか?」

「え? はい、イングリッドは私ですが……?」

 旦那様も何事かと玄関に出てきた。
 この男性が私に何の用か知らないけど、旦那様が近くに居ると思うと安心する。

「初めまして、私は隣の国イースターで、ウィリアムズ王家の執事しております。イングリッド様に城への招待状をお渡しにお伺いしました」

 丁寧の頭を下げて両手を差し出した。
 手には手紙が持たれている。
 手紙にはイングリッド様へ、と書かれているから、私で間違いないと思う。

「我が国のリチャード王太子より、イングリッド様をきさきとして迎えたいと、そう申しつかっております」

「「……え?」」
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