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1 働く女と不倫する男

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「アナタ、今日は何時くらいに戻られますか?」

「さあな、気が向いたら帰ってくる」

 そう言って旦那様は木の扉を閉めて出かけてしまった。
 きっと今日も他の女性と遊ぶんだわ……数年前はこんな事は無かったのに、やっぱりお金という物は人の心を歪めてしまうのね。
 とは言っても、今となっては私も引くに引けない所まで来てしまった。

 旦那様が木をりに出ている間、暇つぶしにと始めた内職がいけなかった。
 まさかあんなにヒットするなんて思わなかったし、調子に乗って事業展開なんてしたもんだから、従業員が増えて止められなくなってしまった。

 旦那様は家を新しくしたいと言っていたけど、この街のはずれにあるログハウスは、私と旦那様が初めて結ばれた場所……無理を言ってこの家に住み続けているけど、それがいけなかったのかしら。
 でもこの場所は、私と旦那様が楽しく過ごした思い出も詰まっている。

 そう、内職が成功するまでは。

 何気なく作った木製アクセサリーが大ヒットし、注文が押し寄せたモノだから知人に協力を申し出た。
 知人は手先が器用だから、いっそのことアクセサリーを大量生産できる道具でも作れないか、と冗談半分で言ったら作ってしまった。
 それ以降は新しいアクセサリーを考えるたびに大量生産の道具を作り、また考えては道具を作りを繰り返し、今では100種類以上のアクセサリーを揃える商店を経営し、それを他の店にもおろしている。

 もう私は何もしなくてもお金が入ってくるようになってしまった。
 そう、なって……しまったのだ。
 それからは旦那様は木を伐らなくなり、引き締まった筋肉質な腕はたるみ、お腹が出っ張り、端整だった顔が丸くなっていった。
 愛用の斧と荷車はすっかり錆びている。

 それでも愛嬌のある姿がいとおしかった。

 だから働かなくなっても、夫婦の時間が増えていくだろうと、楽観的な私はそう思っていたけれど、実際には旦那様は外出が多くなり、他の女性と遊ぶようになった。



「ねぇ姉様、私って魅力が無いのかしら」

「あらそんな事は無いわよイングリッド。あなたは相変わらず魅力的よ?」

 ある日の昼下がり、私は姉様とお茶をしていた。
 バルコニーから見える風景、昔からここが大好きだった。
 姉様は良い所への嫁入りが決まっており、キレイなドレスを身にまとって身なりがも良く、私とは雲泥の差になっている。
 
「でもでも、旦那様は私以外の女性にお熱なのよ?」

「うーん、私としてはあなた以上に魅力的な女性なんて居ないんだけど……そうだわ」

 姉様はイスの横に置いてあったバッグから何かを取り出して、私に手渡した。

「これを使ってみて。きっと旦那様はあなたに夢中になるはずよ」

 渡されたのはコンパクト。
 開けてみると、鮮やかな色のファンデーションだった。

「これは新色? 今までのどれよりも鮮やかだわ!」

「そうでしょ? それを付けて旦那様にあってみなさいな。きっとあなたにメロメロになるわ」

「ありがとう姉様! 私頑張ってみる!」

 その日の晩は、旦那様は帰ってこなかった。
 旦那様……どこにいらっしゃるの? 会いたいです。

 ドアが乱暴に開けられて、私はビックリして目が覚めた。
 あ、あら? 私ったら居間でテーブルに突っ伏して寝てしまったのね。テーブルによだれ、垂れてないわよね?
 外が明るい。もう夜が明けていたのね。
 
「帰ったぞ~」

「お帰りなさいアナタ。ごめんなさい、今すぐ朝食の準備をするわね」

 旦那様の元に小走りで駆け寄り、手に持っている荷物を受け取る。
 すると旦那様は私の顔をジッと見ている。
 ま、まさか、さっそくファンデーションの効果が……?

「……ふん、化粧の仕方も忘れたのか? これだから仕事ばかりの女は」

「え? お化粧は……あ!」

 慌てて鏡を見ると、私……泣いてたみたい。
 涙でお化粧がグシャグチャになって腕の跡も付いてる。

「す、すみません、すぐに直しますから」

「いい、直ぐに出かけるから、金を出せ」

「は、はい。あのアナタ、今月は出費が激しいようですが、もう少し節約なさったら……」

「五月蠅い! お前は黙って金を出せばいいんだ!」

「……すみません」

 私の手から乱暴にお金を奪うと、ドアを乱暴に閉めて家を出て行った。
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