2 / 7
二話
しおりを挟む
「僕は本当の恋をしたことがないんだ。でも、葉花さんを最初に見たとき、この子が僕の運命の人だったら良いのになって思ったんだ」
「運、命……」
「葉花さんに一目惚れしたんだ。実際こうして会話してても葉花さんは天使みたいに可愛いし」
「天使って……」
あまりにも大げさな表現。私なんて顔は普通だし、女友達と話してるときは口を大きく開けて笑うから清楚とは程遠い。橘くんのいう天使とは真逆だ。
「今日は僕たちが出会って付き合った大切な日。だから記念日に星を見に行こう? 屋上なら綺麗に見えるんだ」
「橘くん、走ったら危ないよっ!」
自然に手を繋いで、私は橘くんと走り出す。いくら夜に体調が良くなるとはいえ、走るのは身体に良くない気がする。
「どうせ死ぬなら、それまで自由に生きた方が人生は楽しい。葉花さんが教えてくれた。だから好きな人とはしゃいでるんだ」
「橘くん……」
さっきとは違って明るい表情。良かった。私の思いが伝わって。けど、だからって夜の学校を走るのは危険すぎる。
「琴里は好き? 僕は大好き」
「えっ!?」
「星を見てると元気になる。だから好きなんだ」
「そっち、ね」
「ん?」
「なんでもない」
ビックリした。てっきり私のことを好きって言ってるのかと。って、そんなわけないのに。私に一目惚れ、か。橘くんほどカッコいい人なら私なんかじゃなくても良いのに……。
橘くんがこんな状態じゃなかったら、私ではなくても他の子と付き合うチャンスはいくらでもあったはず。
私が橘くんの最初で最後の恋人でいいのかな? その不安はこの先もずっとつきまとうのかな。自分で橘くんにあんなことを言っておきながら自分では自信がない。
私なんかを本気で好きになってくれる男の子なんて本当はいないんじゃないか。そう思ってしまうのは過去の辛い記憶のせいだ。
私だって普通の女の子。今まで人を好きになったことがないって言ったらウソになる。中学時代、気になる男の子はいた。クラスメートでそれなりに仲のいい男の子だった。
趣味も似ているし、教室で挨拶を交わせば、そのままずっと話していた。話題がつきることはなく毎日が楽しかった。気がつけばクラスメートの男の子から気になる異性として見るようになった。彼もそうだと思っていた。けれど現実は非情で……。
『俺、彼女が出来たんだ。だから葉花とは話せない。彼女に悲しい思いをさせたくないから』
『……』
言葉が出なかった。それはあまりにも唐突で、私にとっては鈍器で殴られるくらいの衝撃だったから。
『わかった』
『ごめんな』
そういうと彼は彼女の元に行った。彼女に悲しい思いをさせたくない、か。優しいんだね。そう、彼は優しい。だから私も気になっていた。でも気になるくらいじゃ、ここまで感情が揺れ動くことはない。
本当は彼のことが好きだったんだ。誰よりも。でも、自身の気持ちに気付く前に他の子にとられちゃった。ううん、彼は私のことを異性として見ていなかった。だからきっと私が彼に告白しても想いは届かなかっただろう。
それからか、私が恋に憶病になったのは。『運命』という言葉は存在しないって。だから橘くんが私のことを『運命の相手だったらいいのに』と言ったとき、私は正直、言葉に詰まった。
私だってそうでありたい。次こそは私を本当に必要としてくれる相手と恋がしたい。それは橘くんと同じだ。
『誰にも必要とされてる人なんかいない』
それは自分に向けてのメッセージでもある。
今度こそ信じてもいいのかな? 神様、私に勇気をください。橘くんを心から好きになれるように……。
「やっぱり綺麗だね。普段は一人で見てるんだけど、琴里と見るとより一層きれいに見える」
「今日は晴れてるから、きれいに見えるんだと思う」
「好きな人と同じ景色を共有できる。だから星が綺麗なんだよ。ね、琴里もそう思わない?」
「……うん」
私が落ち込んでいるのを察してか、橘くんは優しい言葉をかけてくれる。
「これからも琴里と色んなことを共有したい。それで将来、昔はこんなことがあったねって思い出話がしたいな」
「それ、すごくいいね。楽しそう!」
「琴里もそう思う!? 約束だよ。これからも一緒にいようね」
「うん、やくそく」
いつまで一緒にいられるだろうか。橘くんはいつまで生きられる?
……橘くんは死ぬことが怖くないのだろうか。
思い出作りをしたほうがいいと提案したのは私だけど、いざ私が橘くんの立場になったら、きっと今の橘くんのようには笑えない。
誰にも心なんて開けないし、学校も行かない。それどころか生きることを諦めて自ら命を絶つかもしれない。死というのはそれほど私にとって恐怖そのもの。いや、それは誰にとっても同じ。
「橘くんは死ぬのが怖くないの?」
ついに聞いてしまった。心の中でとどめておけば、どれだけ良かったか。
「最初はね? 誰にも知られずに死んだほうがいいって思ってたよ」
「それは会ってすぐ私に言ってたよね」
「そう。だけど葉花さんが元気をくれた。だからこうして生きることにしようって思えたんだ。死ぬ一秒前まで僕は後悔なく生きたい。けど、僕が死んだら葉花さんは一人になってしまう。好きな人を残して、先に死ぬのは心残りなんだけどね」
「大丈夫だよ」
「葉花さん、無理してない?」
「してないよ。私は橘くんが一人になるほうが嫌だもん」
「葉花さんは優しいんだね」
「……」
優しくなんてない。私が先に死んで橘くんに悲しい思いをしてほしくないだけ。過去の私がそうだったから。過去のトラウマをずっと引きずりながら生き続けるのは苦しい。
そんなおもいをするのは私だけでいい。橘くんには楽しい思い出だけを残してほしいの。
「運、命……」
「葉花さんに一目惚れしたんだ。実際こうして会話してても葉花さんは天使みたいに可愛いし」
「天使って……」
あまりにも大げさな表現。私なんて顔は普通だし、女友達と話してるときは口を大きく開けて笑うから清楚とは程遠い。橘くんのいう天使とは真逆だ。
「今日は僕たちが出会って付き合った大切な日。だから記念日に星を見に行こう? 屋上なら綺麗に見えるんだ」
「橘くん、走ったら危ないよっ!」
自然に手を繋いで、私は橘くんと走り出す。いくら夜に体調が良くなるとはいえ、走るのは身体に良くない気がする。
「どうせ死ぬなら、それまで自由に生きた方が人生は楽しい。葉花さんが教えてくれた。だから好きな人とはしゃいでるんだ」
「橘くん……」
さっきとは違って明るい表情。良かった。私の思いが伝わって。けど、だからって夜の学校を走るのは危険すぎる。
「琴里は好き? 僕は大好き」
「えっ!?」
「星を見てると元気になる。だから好きなんだ」
「そっち、ね」
「ん?」
「なんでもない」
ビックリした。てっきり私のことを好きって言ってるのかと。って、そんなわけないのに。私に一目惚れ、か。橘くんほどカッコいい人なら私なんかじゃなくても良いのに……。
橘くんがこんな状態じゃなかったら、私ではなくても他の子と付き合うチャンスはいくらでもあったはず。
私が橘くんの最初で最後の恋人でいいのかな? その不安はこの先もずっとつきまとうのかな。自分で橘くんにあんなことを言っておきながら自分では自信がない。
私なんかを本気で好きになってくれる男の子なんて本当はいないんじゃないか。そう思ってしまうのは過去の辛い記憶のせいだ。
私だって普通の女の子。今まで人を好きになったことがないって言ったらウソになる。中学時代、気になる男の子はいた。クラスメートでそれなりに仲のいい男の子だった。
趣味も似ているし、教室で挨拶を交わせば、そのままずっと話していた。話題がつきることはなく毎日が楽しかった。気がつけばクラスメートの男の子から気になる異性として見るようになった。彼もそうだと思っていた。けれど現実は非情で……。
『俺、彼女が出来たんだ。だから葉花とは話せない。彼女に悲しい思いをさせたくないから』
『……』
言葉が出なかった。それはあまりにも唐突で、私にとっては鈍器で殴られるくらいの衝撃だったから。
『わかった』
『ごめんな』
そういうと彼は彼女の元に行った。彼女に悲しい思いをさせたくない、か。優しいんだね。そう、彼は優しい。だから私も気になっていた。でも気になるくらいじゃ、ここまで感情が揺れ動くことはない。
本当は彼のことが好きだったんだ。誰よりも。でも、自身の気持ちに気付く前に他の子にとられちゃった。ううん、彼は私のことを異性として見ていなかった。だからきっと私が彼に告白しても想いは届かなかっただろう。
それからか、私が恋に憶病になったのは。『運命』という言葉は存在しないって。だから橘くんが私のことを『運命の相手だったらいいのに』と言ったとき、私は正直、言葉に詰まった。
私だってそうでありたい。次こそは私を本当に必要としてくれる相手と恋がしたい。それは橘くんと同じだ。
『誰にも必要とされてる人なんかいない』
それは自分に向けてのメッセージでもある。
今度こそ信じてもいいのかな? 神様、私に勇気をください。橘くんを心から好きになれるように……。
「やっぱり綺麗だね。普段は一人で見てるんだけど、琴里と見るとより一層きれいに見える」
「今日は晴れてるから、きれいに見えるんだと思う」
「好きな人と同じ景色を共有できる。だから星が綺麗なんだよ。ね、琴里もそう思わない?」
「……うん」
私が落ち込んでいるのを察してか、橘くんは優しい言葉をかけてくれる。
「これからも琴里と色んなことを共有したい。それで将来、昔はこんなことがあったねって思い出話がしたいな」
「それ、すごくいいね。楽しそう!」
「琴里もそう思う!? 約束だよ。これからも一緒にいようね」
「うん、やくそく」
いつまで一緒にいられるだろうか。橘くんはいつまで生きられる?
……橘くんは死ぬことが怖くないのだろうか。
思い出作りをしたほうがいいと提案したのは私だけど、いざ私が橘くんの立場になったら、きっと今の橘くんのようには笑えない。
誰にも心なんて開けないし、学校も行かない。それどころか生きることを諦めて自ら命を絶つかもしれない。死というのはそれほど私にとって恐怖そのもの。いや、それは誰にとっても同じ。
「橘くんは死ぬのが怖くないの?」
ついに聞いてしまった。心の中でとどめておけば、どれだけ良かったか。
「最初はね? 誰にも知られずに死んだほうがいいって思ってたよ」
「それは会ってすぐ私に言ってたよね」
「そう。だけど葉花さんが元気をくれた。だからこうして生きることにしようって思えたんだ。死ぬ一秒前まで僕は後悔なく生きたい。けど、僕が死んだら葉花さんは一人になってしまう。好きな人を残して、先に死ぬのは心残りなんだけどね」
「大丈夫だよ」
「葉花さん、無理してない?」
「してないよ。私は橘くんが一人になるほうが嫌だもん」
「葉花さんは優しいんだね」
「……」
優しくなんてない。私が先に死んで橘くんに悲しい思いをしてほしくないだけ。過去の私がそうだったから。過去のトラウマをずっと引きずりながら生き続けるのは苦しい。
そんなおもいをするのは私だけでいい。橘くんには楽しい思い出だけを残してほしいの。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
神様のボートの上で
shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください”
(紹介文)
男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!
(あらすじ)
ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう
ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく
進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”
クラス委員長の”山口未明”
クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”
自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。
そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた
”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?”
”だとすればその目的とは一体何なのか?”
多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
月曜日の方違さんは、たどりつけない
猫村まぬる
ライト文芸
「わたし、月曜日にはぜったいにまっすぐにたどりつけないの」
寝坊、迷子、自然災害、ありえない街、多元世界、時空移動、シロクマ……。
クラスメイトの方違くるりさんはちょっと内気で小柄な、ごく普通の女子高校生。だけどなぜか、月曜日には目的地にたどりつけない。そしてそんな方違さんと出会ってしまった、クラスメイトの「僕」、苗村まもる。二人は月曜日のトラブルをいっしょに乗り越えるうちに、だんだん互いに特別な存在になってゆく。日本のどこかの山間の田舎町を舞台にした、一年十二か月の物語。
第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます、
華京院 爽 16歳 夏〜『有意義』なお金の使い方! 番外編〜
平塚冴子
ライト文芸
『有意義』の番外編
華京院 奈落が華京院 爽の下で働く様になったきっかけ。
仕事も出来て、頭もいい爽。
けれど性格の問題があり、その部下に指名される人間は現れない。
自分に原因があると知りつつ、坦々と日々仕事をこなしていた。
8月…年に1度の華京院親族の低年齢層とのコミュニケーションプログラムで、爽の元に現れた2人の少年。
彼等と1日、楽しくコミュニケーションを取ったり、仕事への適性判断をしなければならない。
果たして、上手く行くのだろうか…。
君はプロトタイプ
真鳥カノ
ライト文芸
西暦21XX年。
大地も海も空も、命すらも作り物の世界。
天宮ヒトミは、『天宮 愛』のクローンとして生まれ育った。
生涯を愛に尽くすために存在すると思っていたけれど、それはかなわなくなってしまった。
自分が『ヒトミ』なのか『愛』なのか、迷う曖昧な心を持て余す中、一人の少年と出会う。
以前、『愛』が想いを寄せていた少年『深海尚也』だ。
そう思っていたけれど、少し様子が違う。
彼もまた、尚也のクローンだったのだ。
オリジナルを失ったクローンの二人が目指すものは、オリジナルの完全複製か、それとも……?
目指すものすら曖昧な未完成のクローンたちの生きる道とは……。
※こちらの作品はエブリスタ様、Solispia様にも掲載しております。
水曜日のパン屋さん
水瀬さら
ライト文芸
些細なことから不登校になってしまった中学三年生の芽衣。偶然立ち寄った店は水曜日だけ営業しているパン屋さんだった。一人でパンを焼くさくらという女性。その息子で高校生の音羽。それぞれの事情を抱えパンを買いにくるお客さんたち。あたたかな人たちと触れ合い、悩み、励まされ、芽衣は少しずつ前を向いていく。
第2回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
三度目の庄司
西原衣都
ライト文芸
庄司有希の家族は複雑だ。
小学校に入学する前、両親が離婚した。
中学校に入学する前、両親が再婚した。
両親は別れたりくっついたりしている。同じ相手と再婚したのだ。
名字が大西から庄司に変わるのは二回目だ。
有希が高校三年生時、両親の関係が再びあやしくなってきた。もしかしたら、また大西になって、また庄司になるかもしれない。うんざりした有希はそんな両親に抗議すべく家出を決行した。
健全な家出だ。そこでよく知ってるのに、知らない男の子と一夏を過ごすことになった。有希はその子と話すうち、この境遇をどうでもよくなってしまった。彼も同じ境遇を引き受けた子供だったから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる