最強総長は闇姫の首筋に牙を立てる~紅い月の真実~

星空永遠

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Ⅳ 兄妹の絆、そして和解

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「闇華。狗遠のとこに行け」
「壱流、なんでこっちに来て…」

「俺は人間に負けるほど弱くねーよ。それに、あっちは俺の舎弟や幻夢もいるし任せて大丈夫だ。まあ無傷で敵を気絶させるってのは少しばかり難しい命令だったけどな」
「ごめんなさい、私のわがままに付き合わせてしまって」

「気にするな。それに闇華の頼みだからな…っと、今は闇姫だったな。ほら行けよ。ここは俺だけでなんとかする」
「壱流…ありがとう」

卑怯だって貶されるだろうか。条件を守れない奴だと鼻で笑われるだろうか。でもね、それ以上に私は…狗遠、あなたを助けたいの。夢愛ちゃんだってそう。せっかく友達になれたのにこのままなんて…いや。

友人だと思ったことが一度もないって言われたけど、私はそれでも嬉しかったんだ。ほんの数週間でも仲良くしてくれたこと。私はあれが全部演技だったって、うそだって思ってない。

「狗遠、夢愛ちゃん。もう一度、話を聞いて」
「ほぅ。俺様の舎弟をもう倒したのか?」

「壱流や幻夢、仲間に任せてるわ」
「俺様が出した条件を破るつもりか?」

「1人で倒せとは言ってない、そうでしょう?私は私のやり方で倒すっていったはずよ」
「これが貴様なりのやり方ってことか」

「そうよ」

不服そうな顔を浮かべる狗遠。でも予想外って顔はしていない。きっと狗遠なら私みたいな真似はしない。そうやっていつも1人で戦ってきたのよね…今までずっと。

「夢愛ちゃんも私の話を聞いてくれる?」
「聞くわけないでしょ?私、言ったよねぇ?闇華ちゃんのこと、友達だと思ってないって」

「ええ、言ったわ」
「だったらなんで?私は闇華ちゃんなんて必要ない。だから近付かないでくれる?」

「夢愛ちゃんにとって私はいらないかもしれない」
「だからそう言ってるよね?聞こえてないわけ?」

「ちゃんと聞いてる」

心を折ろうとしてるんだよね…。また立ち上がれないようにしてるんでしょ?ごめん夢愛ちゃん。多分それはもう…いまの私にはきかない。

「私は夢愛ちゃんが必要なの」
「は?」

「だから私と友達になってほしい」

「馬鹿じゃないの!?狗遠君、早くこの女をどっかやって!!」
「夢愛の願いなら…。元闇姫、俺様と戦え」

「戦わない」
「「!?」」

「最初にいったわ。私は貴方達と話をしたいって」

私は銀の銃をその場に落とした。…これは降伏じゃない。

「夢愛。今なら元闇姫を好きにできるぞ、どうする?」
「私がやる。…狗遠君はそこで見てて」

「わかった」
「ねぇ闇華ちゃん、今さ…どんな気持ち?」

夢愛ちゃんはナイフで私の顔を切った。

「痛い」
「そうだよねぇ。じゃあさ、身体中をこのナイフで切り刻んだらどうなるのかな?」

切られた頬から血が流れる。だけど、ものの数秒で私の傷は塞がった。

「なに、それ」
「夢愛、元闇姫は一時的だがおそらく…」

「信じらんない。ありえない。あれが成功したっていうの?」
「夢愛…ちゃん?」

「だから嫌いなのよ。元闇姫は私が出来ないことがなんでもできる。私が持ってないものをすべてもってる。私が人の何倍努力しても手に入れられなかったものを元闇姫は一瞬で……」

頭を抱えだす夢愛ちゃん。

「まて、夢愛!」
「元闇姫なんか…闇華ちゃんのことなんて……大嫌いっ!!!!」

「!?」

―――バンッ!

銃声がなった。

何が起きたの?なんだかお腹のあたりに痛みを感じる。

もしかして、私…夢愛ちゃんに撃た、れた?

「それ吸血鬼なら効くでしょ?効果は抜群だと思うよ。なんせ天才研究者さんが作った代物なんだから」
「それって」

以前、資料が盗まれたって話していた白銀先生の…。これは眠り薬なんかじゃない。本物の銃弾。夢愛ちゃんは私を本気で殺そうとしている。

「夢愛、やめろと止めたはずだ。それを使えば…夢愛は……!」
「なにも起こらないじゃない。私ってば特別。私は選ばれた存在。勝った!元闇姫に。私が本物の闇姫。ね、そうでしょ?闇華ちゃん」

「狗遠、説明して。夢愛ちゃんがそれを使うとどうなる、の?」

さすがに痛い。心臓を撃たれたんだから当たり前だけど。
それに…傷の治りが遅い。意識を手放しそうになる。だけど駄目。こんなところで気絶するわけにはいかない。

「それは……」
「ああああああ!!!!」

「夢愛ちゃん!?」
「夢愛!!!!」

夢愛ちゃんはその場で叫びながら、苦しそうに胸をおさえた。

「元闇姫、いや…闇華、頼みがある」
「な、に?」

「俺様がした今までお前にした行為は許されるものじゃない。だけど、貴様が夢愛のことをまだ友人だと思ってるなら…」
「思ってる」

「!」
「言った、でしょ?私は貴方たちを助けに…救いにきたの」

「こうなることをわかってたのか?」
「私はどこかの天才研究者とは違うから先の先まで考えることはできない」

「だったらどういう…」
「考えてないわ。私は自分が正しいと思ったことをするの。狗遠、あなたが困ってるなら私は助ける。それがたとえ敵だったとしても」

「貴様はやはり…どこまでも甘い奴だな」

狗遠にとって夢愛ちゃんは大切な人だってことはわかる。だって、あの狗遠が私に助けを求めているんだから。

「夢愛ちゃん、私のことがわかる?」
「いやっ!知らない!あんたなんかしらない!!」

「私は知ってる。まだ出会って日が浅いけど…夢愛ちゃんは優しい子だって」

私は力強く彼女を抱きしめた。

「いや、はなして!!」
「離さない。はなしたりしない」

「私は狗遠様の…兄さんだけのものなの!」

兄さん…って。

「狗遠、夢愛ちゃんは貴方の…」
「ああ、妹だ。だが血の繋がりはない」

「それってどういう」
「夢愛は捨てられたんだ、本当の両親に。1人で暮らしてたんだ、たまり場でずっと。だから俺様が助け、この街で育ててきた」

「……」

知らなかった。夢愛ちゃんにそんな過去があったなんて…。だから夢愛ちゃんは言っていたんだ。自分に無いものを持ってるって。

「ただの人間だったんだよ、夢愛は。だけど…吸血鬼に出会ってから操られてる」
「吸血鬼って、貴方のことじゃないのよね?」

「ちがう。別の…もっと強い吸血鬼だ。心を壊されかけようとしている。だから…頼む。夢愛を助けてやってくれ。俺様は側にいることしかできなかった。夢愛がほんの少しでも人の心を保たせるには条件があった。俺様が…人を殺すこと。そうすれば夢愛を救えると言われた。だが、それはほんの一瞬だ」

「その吸血鬼に会ったことは?」
「あるわけないだろう?その吸血鬼は他の人間を操り俺様と接触してきたんだ。殺せるならとっくに俺様がこの手で…だが、そしたら夢愛が……」

「ごめんなさい。私、貴方のこと誤解してた」
「いや、その認識で合ってるさ。敵に情けなんかかけない最強の吸血鬼」

違う、ちがうわ…狗遠。貴方はずっと1人で戦ってたのね。大切な人のために、夢愛ちゃんを守るために。

感じてた違和感はこれだったのかもしれない。狗遠は私を殺そうと思えばいつでも殺せた。それこそ、壱流に紅い月を摂取したあの日だって。
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