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Ⅰ 入学式

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「だけど、僕が恋人と誤解されるようなら今度からは校門で待ってることにします。それなら一緒に帰ってくれますか?」
「教室に迎えに来るよりはそっちのほうがいいわ」

でもね幻夢。教室に迎えに来て勘違いされたからといってあなたと一緒に帰らないってことはないから。

ただ、私はあなたのほうを心配しているの。
こんな私といたら、あなたまで……。

「だったらそうしますね!あ、そういえばさっきのは友達ですか?」
「えぇ。可愛い女友達が2人できたの」

「良かったですね!念願の女の子の友人。って、そしたら僕と帰る頻度が減ったりしませんか?」
「その目はやめて」

「どの目ですか?」

自覚がないのね。捨てられた仔犬のような目で見つめられるとこっちも強く言えなくなる。

「そういう幻夢はどうだったの?」
「ボチボチですね。あ、でもやっぱり姉貴がいないクラスは寂し……」

「……そう」

幻夢のことだからクラスの女子の何人かを落としたんでしょうね…。無自覚の爽やかスマイルで。

「姉貴、話を最後まで聞く前に返事で遮るのはやめてくださいよ~!あ、そういえば入学式で姉貴のクラスで椅子一つ空いてましたよね?」
「クラスが違うのに見えたの?」

「視力だけは人並み以上にいいですから。ちなみに姉貴もバッチリ見えましたよ!座ってる姿も絵になってました」
「……」

「入学式に参加しない新入生とかいるんですね」
「そうね……」

言われてみたら珍しいかもしれない。他人だからそこまで気にしてなかったけれど、そういえば1つ空席だった気がする。

「もしかして吸血鬼の生徒だったりして。日に当たると灰になるって話ほんとだったとか」
「それは大昔の話。今は体制もついてるでしょ」

「そうでしたね」
「それに本当に灰になるなら、そもそも学校に通ったりしないわ」

「たしかに!やっぱり姉貴は天才ですね!!」
「……」

貴方が吸血鬼に関して知らなすぎるだけ。

現在生きている吸血鬼たちは十字架や銀は弱点ではないし、日に当たっても灰にはならない。代を重ねるごとに吸血鬼たちも進化していき、いつの間にか体制がついたらしい。

とはいっても全く効果がないわけじゃない。
銃で撃たれたら、それなりのダメージにはなる。ただ以前のように致命傷にはならないというだけ。

だけど、血が足りないと吸血衝動が起きたり、人から血を摂取しないと最終的には死んでしまうのは変わらない。それは吸血鬼に生まれた宿命でもあるのだろう。

「幻夢。今日は送ってくれてありがとう」
「どういたしまして。でも騎士ナイトがお姫様を送り迎えするのは当然のことですから!」

「幻夢は騎士というより忠犬って感じがするわ」
「姉貴、今なんて?」

「ただの独り言。じゃあ、また明日」
「はい!」

「帰り道には気をつけて」
「わかってます!」

「それと……」
「どうしました?」

「やっぱり、なんでもないわ」

聞こうと思ってやめたのは舎弟たちのこと。

なにを今更聞く必要があるの?
私から離れていったくせに。

幻夢は私が聞けば簡単に答えてくれるだろう。だけど、どんな答えが返ってきても私が闇姫に戻ることはない。それにあの場所は今の私にとっての居場所じゃないから。

私が闇姫をやめた、卒業した理由だって幻夢は聞かない。闇姫として復活しろと無理強いもしない。

これは踏み込んではいけない境界線。だから私も安易に触れてはいけない。入ってはいけないんだ。私はもう闇姫ではないのだから。ただの高校生。幻夢は元舎弟であり、今はただのトモダチなんだから。

「なんで教室に行かなかったんだ?オレは教室前まで送り届けたはずだが?」
「っ、痛てぇ!頭グリグリすんのやめろ。いい加減はなせ!!」

「今日は珍しく荒れてるなぁ、龍幻さん」
「そりゃあ…総長が教室に行かなかったからじゃない?」

「それだけじゃない……」
「「っ!?」」

「なぁ、俺らはアッチでお茶でも飲んでようぜ」
「そうだな。これ以上近くにいると火に油を注ぐことになるし」

「アイツら、総長の俺を助けもしないで…」
「むしろ、当然なんじゃないのか?」

「なんでだよ」
「この組ではオレが最年長だから」

「年齢よりも強さの順だろが、普通は」
「その強さもオレがいるから維持できることを忘れたのかい?壱流」

「覚えてる」
「そのわりに入学式に不参加とはどういうことだ?職員会議の時間がお前のせいで伸びたんだからな」

「入学式に出なくても明日からの授業に参加すれば問題ないだろ」
「そういう問題じゃないってことを察しろ、壱流。学校にいたのにも関わらず、入学式に出なかったというのが問題なんだ。…入学早々、目立つような行動は控えてくれ」

「猫が……」
「え?」

「教室に入ろうとした瞬間に外を見たら子猫がいたんだ。木の上から降りられなくなってて。だから助けてた。そのあとは子猫と木陰で昼寝してた。……それで目が覚めたら学校が終わってたんだよ」
「子猫を助けたことに関しては咎めたりしないがそのあとが問題だな」

「まだ初日のくせに教師としてやたら……。お前だって裏社会の人間なんだぞ、忘れたのか?」
「忘れるわけないだろ。お前に……壱流に助けてもらってなかったら今頃オレはここにはいない」

「それなら感謝しないとな」
「それとこれとは話が別だ!」

「痛てぇ!なにも殴ることないだろ!?」
「軽く小突いたくらいで大袈裟だ。ほら、例の小瓶。これでしばらくは大丈夫だろ?」

「俺は直接吸うほうがいいんだけどなぁ」
「オレが嫌だから小瓶に入れてるんだ」

「傷なら俺が治せるのにか?」
「それでも毎日のように吸血鬼に吸われる身にもなってみろ。オレはただの人間だし、お前は最初から吸血鬼だったわけじゃないから未だに吸血するときも手加減はできないし。……それから、」

「説教は他でやってろ」
「壱流、わかってるのか?小瓶は節約して飲むんだぞ」

「そんなこと言われなくてもわかってる。……小瓶がなくなっても直接吸うし」
「またそうやってお前は」

「明日からはちゃんと授業に出るから安心していいと教師に伝えておけ。俺は会合に行ってくる。あとのことは任せた。飯は……オムライスで」

「わかったよ。気をつけてな壱流(出会った頃から子供味覚なのは変わらないな)」
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