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ダンジョン攻略11

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「おっさん達、ちゃんと応援してたぁ?」
 やんややんやと持ち上げられていた舞は、間を縫いながら人混みを抜け、大人2人の前に立つ。顔は腫れ、目は半開き、どこもかしこも汗やら血やら泥やらで汚れ、これが成人した女性の姿なのか、山から降りてきた野生児ですらもう少し上品だろうという印象を与えていた。ただ2本の足でしっかりと地面を掴む姿は思いのほか元気そうで、
「頑張ったな」
「当然よ。まだ準備段階だもん、こんなところで蹴躓けつまずいている時間はないわ」
 ふんと鼻を鳴らし小さな胸を張るが、一応上裸であることを忘れてしまっているのだろう、泥まみれでほとんど見えないとはいえ、男性陣はいたたまれず目線を外していた。
 ただ舞の言葉は紛れもなく真実であり現実で、主目的に対して彼女らはまだ何の成果も挙げられておらず、時間だけを浪費していたに過ぎない。今この瞬間にも手遅れになってしまう可能性を考えれば、足踏みしている余裕などどこにもなかった。
 瞼に垂れてきた血を拭いながら舞は振り返る。耳が割れるほどの喧騒も自然とさざ波のように引き始め、そこに立っていたのは先程までノックアウトしていたセンシと族長で、
『見事だ』
『感謝』
『新たな勇気あるものに喝采と、要望を聞こう。我らを導きたまえ』
 族長が足を2度踏み鳴らすと、周囲から拍手の代わりに短い雄叫びが鳴り響く。清廉なる泉に波が立つほどの波動にも舞は眉ひとつ動かさず、腕を上げ、
『勇気あるもの、共に、来い』
 負けないくらいの大声量を響かせると、呼応するように数人の山ゴブリンが、その中には顔中傷だらけのセンシの姿もあり、舞の前に並ぶ。
 総勢10人。彼らに向かって3言告げると舞は陽気な顔で振り返る。 
「――というわけで増援貰ったから探していきましょ」
「だいぶ時間食ったけどな」
 ダンジョンに入り既に2時間、辛達がはぐれて既に5時間近くが経過している。心配が言葉になって新堂の口から飛び出すのも無理がない事だった。
 捜索範囲の拡大に人手不足。まさしく猫の手も借りたい状況で現地民の協力を得る。突飛であり王道でもある行動に、
「……破天荒というか、人智外というか……」
 感心しているのだろうか呆れているのだろうか、六波羅が小さくこぼすのも無理はない、長くダンジョンに関わっている彼からしたらモンスターの殺気ない姿という物自体が珍妙な光景だった。
 しかし間違いなく好機でもあり、先の見えない救出に一筋の光が差したことをとやかく言うほど無粋ではない。ただ問題は、
「ゴブリン用の通路は使えないから2人はこの子とこの子連れて探索してて」
「話わかんねえぞ?」
 舞は別として人間にモンスターの言葉が分からないことだ。人員が増えて3手に別れても、連絡係リエゾンがいなければ効率が悪いし危険も増す。
 そのことに舞は手を2回叩く。それだけで山ゴブリンも揃えて手を叩いていた。
「手を2回叩いたらこっちの合図を受け取った証拠だから。後は着いて行けば大丈夫。そっちが見つけた時も同じね」
 なるほど。1つ懸念が払拭されたことに新堂は軽く頷く。ガタガタ言う時間はないのですぐにでも移動を始めたいが、それよりも、
「……襲ってこないんだよな?」
「族長の次に偉いのが私だからね。下は素直に従うよ」
 背中からグサッとやられてしまえばいかな六波羅でも致命傷になりうる。新堂なら言わずもがな。今は根拠なく自信を持って言う舞の言葉を信じるしかなかった。


 ゴブリンと山ゴブリンの大きな差に、穴を掘るか掘らないかという点がある。
 ゴブリンは掘らず、山ゴブリンは掘る。ただそれだけの違いなのだが、そのせいで生活環境に大きな違いが生まれていた。自身の背丈程の大きさの横穴はアリの巣のように張り巡らされ、ダンジョン内を縦横無尽に駆け回れる、そのため自分より大きなモンスターに襲われることも少なく、また茸栽培によりある程度安定した食料供給が出来ることも繁栄のために生み出された知恵であった。
 そのせいだろうか、狭い所で寝食するためゴブリンに比べ小柄な個体が多く、最下級のモンスターの中でも更に弱いモンスターとして不名誉を独占している。傍から見れば同族の共食いのようだが実は壮絶な弱肉強食だったりもするのだ。
 その小径こみちを通り、舞と他8人の山ゴブリンが駆け抜けていく。時に腹這い、時に垂直に切り立つ壁を登るが全員手馴れたものと障害を苦とも思わぬ足腰で進んでいた。
 そんな道も無限に続く訳ではなく、下に行けば行くほど枝分かれが少なくなっていく。強力なモンスター蔓延る下層に山ゴブリンは用がなく、せっかく作った道も定期的に点検しないと崩されてしまうこともあって、本数に限りがあった。
 時折蓋となる岩を外し大きな通路に顔を出してみるも、殺風景な岩肌が広がるばかりでそれらしき物音も聞こえない。1つ、また1つと候補が潰れていく度に、背中を伝う汗粒の数が増えていた。
 ……大丈夫、そんな簡単に死ぬタマじゃないから。
 小学生の、それも同年の子より小柄だった舞ですら、特殊な事情があったにせよ、2年も生き延びていたのだ。ダンジョンの危険をよく知る彼女がまだ生きている可能性は十分に考えられる。
 と、その時。
 山ゴブリン達が一斉に耳をそばだてる様子に、これは何かあったなと、舞も集中する。今はちょうど次の蓋の手前であり、すぐしたには大きな横穴が空いているはずだった。生き残るため、目より耳が発達した山ゴブリン達に、
『……どうした?』
 判断を下すに十分な時間を置いて尋ねる。
『敵、大きい』
『詳しく』
『分からない。聞いたこと、ない』
 センシが代弁する言葉に周りの山ゴブリンもチッチッと舌を鳴らして賛同する。
 ……うーん。
 山ゴブリンはそれほど頭が良くなく、ダンジョンが出来てまだ10年、経験も知識も足りていないのだから語彙が少ないのも仕方ないことだった。ここで戦っているのが辛の可能性もあり、ただモンスター同士が死闘していることもある、どちらかと言えばモンスター同士の方が確率は高いため、舞は二の足を踏まざるを得なかった。
 しかしいつまでもリスクを怖がっていては先に進めず、どこかで勝負が必要だった。
 舞は山ゴブリンほど耳が良くないので、地面に耳を当てる。確かに何かざわめきのようなものが聞こえるが、真下で行われている訳ではないらしく、
『自分、行く。皆、待つ』
『1人、良くない』
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