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自宅
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煌びやかなガラス細工の装飾が蝋燭の明かりを反射させる。薄暗い部屋の中を空調の音だけが走り回っていた。
ワンルーム、12畳。それが舞の部屋だった。風呂トイレ別で、南にある入口とは反対側の壁の先にある。こじんまりとしたベランダへ出る大きな窓はカーテンに締め切られていて、東側にあるクローゼットとキッチンは天井から伸びる大きな布で隠されていた。
西の出窓も今は見えず、薄暗い夕暮れの日差しは完全に遮られている。おぼつかない光源がゆらゆらと揺れると合わせるように影も踊っていた。
その中で家の主は2台あるソファーの片方に身体を預けていた。膝を抱えて丸くなり、目を閉じて浅い呼吸を繰り返す。その姿は猫か犬かといった様子だ。
オルゴールもジュークボックスもない空間に、少女の寝息だけが響き渡る。すうすうと、時折んごっと鼻を鳴らしては生地にこすりつけ、また何事もなかったように惰眠をむさぼっていた。
ゆらゆら、火が揺れる。長かった蝋燭が3センチ短くなった頃、舞の身に変化が起きていた。
「……ん」
喉が鳴る。寝言のようだが、薄く開いた瞼の中には光が宿っていた。
そのまま動きはなく数分が経つ。その後何度か揺すられるように身体を動かした後、気だるげに身体を起こして、
……ねむ……。
半ば夢心地のまま、舞は大きく口を開けて欠伸をしていた。右腕を支えにして胡座をかくと、背もたれに身体を預けて、
……遠い。
テーブルの上にあるパイプへ手を伸ばすが全く届かない。
不便を楽しむことも趣味のうちであるが、寝起き一発目の気付けには必要ない。濃厚なニコチンで吐き気がするほどハイになって好みの香りを身に纏う。今は一刻も早く火をつけることが最優先だった。
嫌がる身体を動かし、喫煙具と葉っぱの入った麻袋を掴む。
そのタイミングで来客を告げるベルが鳴り響いていた。
一瞬電流が流れたように動きを止めた舞は、何食わぬ顔で麻袋を開いていた。赤茶けた葉っぱを一掴みし、パイプの中に詰めていく。半分より少し多めに詰まったところでパイプを咥え、マッチを近づけ表面を炙るように火を回していく。
パッパッと息を吸い、もう一度深く吸い込むと甘燻が立ち上る。口内で十分に煙を味わってから、
「開いてるよー」
扉の向こうへと声を投げつけていた。
ガチャリと音を立てて扉が開く。まだ明るい夕陽を背負って現れたのは2メートル近い大柄な男性だった。
髪は短く揃えられ、ところどころに白い筋が目立つ。彫りが深く色黒で、草緑色のタンクトップと時間の経ったお茶のような色のパンツを履いている。
彼は身体を前に倒し、扉を煩わしそうにくぐり抜けると、
「俺じゃなかったらどうすんだよ」
家主の警戒心のなさに嘆息していた。
「どうとでもなるんじゃない?」
舞は他人事のようにのたまう。それよりも甘美な香りに酔いしれることの方を優先していた。
またひとつ、ため息が漏れる。男性は作業用の大きなブーツを脱ぎ散らかすと、部屋に入るなり持っていたバッグを舞の隣に投げていた。
身体の大きさとそう変わらないバッグがソファーのバネをたわませる。一緒になって弾む舞は思わずパイプから口を離し、
「ちょっとぉ、火事になったらどうすんのさ」
半分目を閉じて恨みがましく非難していた。
男性は取り合わず、空いているソファーに腰掛ける。そして懐から取り出したケースから茶色い紙が巻かれた筒を1本取り出して先端に火をつける。
ゆっくりと吸い込み、溜め、またゆっくりと吐き出す。一息で1センチほど灰にすると、テーブルの上に4つ置かれた煤けた銀の灰皿を見て、
「……1つ多くねえか?」
そう呟いていた。
「今日から1人増えるからね」
「聞いてねえぞ」
「言ってないし」
舞は悪びれなく言う。暴れられたらトマトよりも簡単に潰されそうな巨漢を相手に引く様子はなかった。
神経を逆撫でする言葉にも男性は、お前な、と呟き、
「そう自分勝手に甘える癖、どうにかした方がいいぞ」
「甘えるってなによ。どこにそんな証拠があるっていうの?」
「そういう態度だよ」
「わけわかんないんですけど。これだから文系は嫌なのよ」
どう見ても体育会系にしか見えない男性に、身勝手な文句を垂れ流す。
唇を尖らせ、眉を寄せる舞は、しかしすぐに笑みを作る。それだけにとどまらずこらえきれなくなったのか声を出して笑っていた。
同じく男性も鼻を鳴らして笑う。何がおかしいのか誰にもわからぬまま部屋に明るさが木霊していた。そこへ、
ピーンポーン……。
突然鳴った2度目のインターホンへ、2人が同時に、
「開いてるよ」
声を投げる。
急に静寂へ戻った空間に光の線が差し込んでいた。キィと蝶番がかわいらしく音を立てて扉が開く。
そこに立っていたのはまた男性だった。
ワンルーム、12畳。それが舞の部屋だった。風呂トイレ別で、南にある入口とは反対側の壁の先にある。こじんまりとしたベランダへ出る大きな窓はカーテンに締め切られていて、東側にあるクローゼットとキッチンは天井から伸びる大きな布で隠されていた。
西の出窓も今は見えず、薄暗い夕暮れの日差しは完全に遮られている。おぼつかない光源がゆらゆらと揺れると合わせるように影も踊っていた。
その中で家の主は2台あるソファーの片方に身体を預けていた。膝を抱えて丸くなり、目を閉じて浅い呼吸を繰り返す。その姿は猫か犬かといった様子だ。
オルゴールもジュークボックスもない空間に、少女の寝息だけが響き渡る。すうすうと、時折んごっと鼻を鳴らしては生地にこすりつけ、また何事もなかったように惰眠をむさぼっていた。
ゆらゆら、火が揺れる。長かった蝋燭が3センチ短くなった頃、舞の身に変化が起きていた。
「……ん」
喉が鳴る。寝言のようだが、薄く開いた瞼の中には光が宿っていた。
そのまま動きはなく数分が経つ。その後何度か揺すられるように身体を動かした後、気だるげに身体を起こして、
……ねむ……。
半ば夢心地のまま、舞は大きく口を開けて欠伸をしていた。右腕を支えにして胡座をかくと、背もたれに身体を預けて、
……遠い。
テーブルの上にあるパイプへ手を伸ばすが全く届かない。
不便を楽しむことも趣味のうちであるが、寝起き一発目の気付けには必要ない。濃厚なニコチンで吐き気がするほどハイになって好みの香りを身に纏う。今は一刻も早く火をつけることが最優先だった。
嫌がる身体を動かし、喫煙具と葉っぱの入った麻袋を掴む。
そのタイミングで来客を告げるベルが鳴り響いていた。
一瞬電流が流れたように動きを止めた舞は、何食わぬ顔で麻袋を開いていた。赤茶けた葉っぱを一掴みし、パイプの中に詰めていく。半分より少し多めに詰まったところでパイプを咥え、マッチを近づけ表面を炙るように火を回していく。
パッパッと息を吸い、もう一度深く吸い込むと甘燻が立ち上る。口内で十分に煙を味わってから、
「開いてるよー」
扉の向こうへと声を投げつけていた。
ガチャリと音を立てて扉が開く。まだ明るい夕陽を背負って現れたのは2メートル近い大柄な男性だった。
髪は短く揃えられ、ところどころに白い筋が目立つ。彫りが深く色黒で、草緑色のタンクトップと時間の経ったお茶のような色のパンツを履いている。
彼は身体を前に倒し、扉を煩わしそうにくぐり抜けると、
「俺じゃなかったらどうすんだよ」
家主の警戒心のなさに嘆息していた。
「どうとでもなるんじゃない?」
舞は他人事のようにのたまう。それよりも甘美な香りに酔いしれることの方を優先していた。
またひとつ、ため息が漏れる。男性は作業用の大きなブーツを脱ぎ散らかすと、部屋に入るなり持っていたバッグを舞の隣に投げていた。
身体の大きさとそう変わらないバッグがソファーのバネをたわませる。一緒になって弾む舞は思わずパイプから口を離し、
「ちょっとぉ、火事になったらどうすんのさ」
半分目を閉じて恨みがましく非難していた。
男性は取り合わず、空いているソファーに腰掛ける。そして懐から取り出したケースから茶色い紙が巻かれた筒を1本取り出して先端に火をつける。
ゆっくりと吸い込み、溜め、またゆっくりと吐き出す。一息で1センチほど灰にすると、テーブルの上に4つ置かれた煤けた銀の灰皿を見て、
「……1つ多くねえか?」
そう呟いていた。
「今日から1人増えるからね」
「聞いてねえぞ」
「言ってないし」
舞は悪びれなく言う。暴れられたらトマトよりも簡単に潰されそうな巨漢を相手に引く様子はなかった。
神経を逆撫でする言葉にも男性は、お前な、と呟き、
「そう自分勝手に甘える癖、どうにかした方がいいぞ」
「甘えるってなによ。どこにそんな証拠があるっていうの?」
「そういう態度だよ」
「わけわかんないんですけど。これだから文系は嫌なのよ」
どう見ても体育会系にしか見えない男性に、身勝手な文句を垂れ流す。
唇を尖らせ、眉を寄せる舞は、しかしすぐに笑みを作る。それだけにとどまらずこらえきれなくなったのか声を出して笑っていた。
同じく男性も鼻を鳴らして笑う。何がおかしいのか誰にもわからぬまま部屋に明るさが木霊していた。そこへ、
ピーンポーン……。
突然鳴った2度目のインターホンへ、2人が同時に、
「開いてるよ」
声を投げる。
急に静寂へ戻った空間に光の線が差し込んでいた。キィと蝶番がかわいらしく音を立てて扉が開く。
そこに立っていたのはまた男性だった。
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