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第3章 続・メイドな隊長
第47話 エントランス
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「お」
階段を駆け上がってくる足音が、エントランスホールにいるクレアの頭の上にある耳に届いた。
今しがた倒したばかりの男に片足をかけたまま、猫人の獣人族であるクレアは長い尻尾をピンと立て、先っぽをピクピクさせる。
足音は、自分が脇に立つこの扉の向こう、通路を隔てて正面にある部屋からだ。
その部屋には、地下室へとつながる階段がある。
「おー、さすが隊長。もう片付けたんだ」
地下室の方は無事解決したらしい――よく知る足音二人分に乱れがないことを頭上でピクピクしている三角の猫耳で聞き取り、クレアはエントランスホール中央にある階段上で警戒している仲間に合図を送った。
【救出完了】
ショート丈のシャツにミニスカートのリルダは、暗褐色の肌と先の尖った耳を持つダークエルフと呼ばれる種族だ。
ダークエルフは視力が良い。
クレアの小さなハンドサインを受け、すぐに同じ形で応答を返してくる。
【移動経路上、異常ナシ】
向こうから返された合図を確認し、クレアは続いて扉の中へ向かって親指を立てる。
そして、奥から響く足音でその走る速度に変化がない――つまりはこちらの「計画通り=敵影なし」の合図に気づいたということだ。
親指を立てた手を引っ込めるのと入れ違いに、二人分の人影が飛び出してきた。
走る速度を落とすことなく、クレアの横を駆け抜けていく。
前を走るのは、メイド服の少女。
頭にはホワイトブリムも装備されている。
クレアはそれを微笑ましそうに小さく手を振って見送った。
「慌てて転ばないよーにねー」
メイド服の少女が軽く腕を上げ、クレアの言葉に親指を立てて応える。
メイド服の女の子は隊長その人、レオナ。
一応、成人の儀は終えているので大人扱いだが、まだ成人していない者も普通にいる年齢なので、女の子という方がクレアにはしっくりくる。
「あ、こけた」
階段を上ろうと上を見上げた瞬間に、なぜかズベッと勢いよく転んだレオナを見て、クレアはあーあといった表情を浮かべる。
「絶対、スカートで走り回っちゃいけないタイプだよね、隊長って」
レオナは顔を手で押さえながら立ち上がった。
階段の上から、しゃがみ込んで心配そうな表情を見せているリルダに、「大丈夫」と片手を上げる。
顔を背けるようにして目の辺りを手で覆っているのがちょっと気になるが、あの様子なら大きな怪我はなさそうだ。
「なんで、あんなところで転ぶかなー。階段の上にいるリルダを見上げて驚いてたような気もするけど……」
あの場所を保持しておくよう事前に指示していたのはレオナ自身だ。
見て驚くようなことなんて、なにもないはずなのだが。
「さぁて次は、と……」
再度、奥の部屋へ(物理的に)耳を向ける。
少し間があいて、奥の部屋から、今度はさらに軽い、しかし大勢が階段を上ってくる足音が聞こえてきた。
階段を駆け上がってくる足音が、エントランスホールにいるクレアの頭の上にある耳に届いた。
今しがた倒したばかりの男に片足をかけたまま、猫人の獣人族であるクレアは長い尻尾をピンと立て、先っぽをピクピクさせる。
足音は、自分が脇に立つこの扉の向こう、通路を隔てて正面にある部屋からだ。
その部屋には、地下室へとつながる階段がある。
「おー、さすが隊長。もう片付けたんだ」
地下室の方は無事解決したらしい――よく知る足音二人分に乱れがないことを頭上でピクピクしている三角の猫耳で聞き取り、クレアはエントランスホール中央にある階段上で警戒している仲間に合図を送った。
【救出完了】
ショート丈のシャツにミニスカートのリルダは、暗褐色の肌と先の尖った耳を持つダークエルフと呼ばれる種族だ。
ダークエルフは視力が良い。
クレアの小さなハンドサインを受け、すぐに同じ形で応答を返してくる。
【移動経路上、異常ナシ】
向こうから返された合図を確認し、クレアは続いて扉の中へ向かって親指を立てる。
そして、奥から響く足音でその走る速度に変化がない――つまりはこちらの「計画通り=敵影なし」の合図に気づいたということだ。
親指を立てた手を引っ込めるのと入れ違いに、二人分の人影が飛び出してきた。
走る速度を落とすことなく、クレアの横を駆け抜けていく。
前を走るのは、メイド服の少女。
頭にはホワイトブリムも装備されている。
クレアはそれを微笑ましそうに小さく手を振って見送った。
「慌てて転ばないよーにねー」
メイド服の少女が軽く腕を上げ、クレアの言葉に親指を立てて応える。
メイド服の女の子は隊長その人、レオナ。
一応、成人の儀は終えているので大人扱いだが、まだ成人していない者も普通にいる年齢なので、女の子という方がクレアにはしっくりくる。
「あ、こけた」
階段を上ろうと上を見上げた瞬間に、なぜかズベッと勢いよく転んだレオナを見て、クレアはあーあといった表情を浮かべる。
「絶対、スカートで走り回っちゃいけないタイプだよね、隊長って」
レオナは顔を手で押さえながら立ち上がった。
階段の上から、しゃがみ込んで心配そうな表情を見せているリルダに、「大丈夫」と片手を上げる。
顔を背けるようにして目の辺りを手で覆っているのがちょっと気になるが、あの様子なら大きな怪我はなさそうだ。
「なんで、あんなところで転ぶかなー。階段の上にいるリルダを見上げて驚いてたような気もするけど……」
あの場所を保持しておくよう事前に指示していたのはレオナ自身だ。
見て驚くようなことなんて、なにもないはずなのだが。
「さぁて次は、と……」
再度、奥の部屋へ(物理的に)耳を向ける。
少し間があいて、奥の部屋から、今度はさらに軽い、しかし大勢が階段を上ってくる足音が聞こえてきた。
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