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第1章 メイドな日常の終わり

第15話 部屋に帰るまでが、お仕事です

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 ティアの執務室。
 レオナたち三人はなんとか閉まる前に州都レージュの城門を通り抜け、就寝前のティアの下へと無事辿り着き、メイド長の恐怖から脱することができていた。

「なるほど。ご苦労だった」

 執務机を挟んで三人からの報告を受け、ねぎらうティアの声は満足そうだった。

「…………」

 ジトー、っと。
 レオナが、そんなティアに視線を向けている。

 馬車の中で、サイカとマリアにマッサージを受けたレオナは、なんとか自分で歩けるほどに回復していた。

「ん? どうした、レオナ?」

 ティアは表情一つ変えず、レオナに声をかける。
 レオナの方は、ジト目をやめない。

「……騙しましたね」

 使用人メイドとして、マリアとサイカ使者の二人の世話をするために付いていけ――そう言われて行ってみれば。

 馬車の中では、マリアとサイカに猫かぬいぐるみの如く(いやそれ以上に)可愛がりに可愛がられてスキンシップ塗れにされた。
 しかも、それがマリアとサイカが今回の任務を引き受ける条件として、レオナの与り知らぬところで密約が結ばれていたという事実。

 おかげで、大人(の男である前世)のプライドが微妙に傷つくやらマリアとサイカはレオナの好みタイプで嬉し恥ずかしいやら仕事中にそう感じて受け入れてしまっている自分に気づいて若干哀しいやらでも今の年齢若さで本能に抗えるわけがないだろうと居直るものの自分はもう大人でさらに前世の大人の男としての記憶だってあるからプライドが微妙に傷つくやらマリアとサイカは美人で嬉し恥ずかしい……(以下略)。

「ははっ、まあ許せ」

 それを事前の想像通り、ティアは明るく笑って済ませようとする。
 レオナのジト目が消えるはずもなかった。

「ダメです。ここで許したら、また……」
「そう言うな。この二人が、道中レオナを可愛がれないなら、今回の任務を引き受けないと言い張ったんだ。立場の弱い私にはどうしようもなかったんだよ」
「あなた、ここで一番偉い人でしょうがっ」

 こんなことで許すものかとレオナが決意して机越しに詰め寄ると、ティアが仕方ないといった表情で不意に立ち上がった。
 執務机を回り込み、つかつかとレオナに近づいてくる。
 そして。

「全てを明かせずにいたことは詫びよう。だから許せ」

 レオナの頭を引き寄せ、自分の胸に抱え込むと、そう囁いた。

「~~~~~~~~~っ!!!」

 胸の谷間に埋もれて真っ赤な顔でジタバタするレオナだったが、ティアは離そうとはしない。
 マリアとサイカも、楽しそうに見ているだけで、助ける気はないらしかった。

 当然だろう。
 ティアは、レオナが逃げようとするのを無理矢理抑え込むほどには、力を入れていないのだから。

「さて」

 レオナがジト目に戻らない(戻る気力を奪われた)ことを確認してから、ようやくティアはレオナを離した。

「三人とも、大儀だった。今日はもう休むがいい」



   ■■■



(つ、疲れた……)

 ティアの私室へ戻って着替えさせた後、レオナはフラフラと疲労困憊のまま、自分の部屋へと戻る。

「おかえり、レオナ」

 部屋に入ると、いつもなら寝ているはずのアイシャ同僚がまだ起きていた。

「ただいま……待っててくれたんだ」
「そりゃ、レオナが強いのは知ってるけど、女の子がゴブリン討伐に行くなんて言って出ていったら、心配で寝てられないでしょ」
「ありがと。別に自分でゴブリンを退治してたわけじゃないから、大丈夫。使者の人に付いていってお世話しろって言われただけだから」

 ギリギリ嘘は言ってない。
 言ってない部分が言えない部分というだけだ。

「怪我とかなさそうで安心したけど――なんだかすっごく疲れてない? 大丈夫?」
「うん。ほんっとーっ、に疲れた……もう、寝る」
「ダメだよ!」

 メイド服のままベッドへ倒れこもうとするレオナを、アイシャは後ろから抱き着いて止める。

「え~……」

 小柄なレオナをギュッと抱え込み、レオナが倒れこむのを諦めて自分の足で立つことを確認してから、やっと離した。

「ちゃんと着替えてからでしょ。もうちょっと我慢しなさい!」

 アイシャは、勝手知ったるレオナの収納箱からあらかじめ取り出しておいた、きちんと畳まれた寝間着パジャマをベッドの端から拾い上げる。

「う~~……面倒メンドくさい」
「ダメ」

 ホワイトブリムを外され、メイド服を半ば強制的に脱がされ、寝間着に着替えさせられる。

「も……だめ……」

 半ば意識を飛ばした状態で、自分のベッドに倒れこむレオナ。
 そのベッドがちゃんと整えられていることに、気づいてもいない。

「明日は自分で起きられる? 起こそうか?」
「うん。お願い……明日はさすがに自信ない…………」
「はいはい。じゃあ明かり消すよ」
「うん……おやすみアイシャ…………」
「おやすみ、レオナ」

 髪をそっと撫でられ、額に優しく口づけされたことに気づくことなく、レオナは深い眠りに落ちていった――。
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