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第九章 ゴーレム、体を張る

第八十四話 ゴーレム、龍を呼ぶ②

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 先行して進んだものの、散発的に組織されてない蟻と立ち合う程度ですんなりと次の町に到着。
 ここには生存者が30人しかいなかった。大人が4人と子供が26人だ。
 町の中の蟻を掃討して、前の街と同じ戦法で司令蟻を追い出して結界を張っている小さな建物の前に出た。
 ここで結界を壊してもしょうがないから後続に任せる事にする。
 結界を壊さない様に干渉して前の街で焼いてもらった蛇肉と確保しておいた樽の中に水を入れて、結界の中にそれらを大量に置いてこの町からは離れる。

 次の町、規模的には村か。ここは残念ながら全滅していた。
 アイ達もここに来るまでに合流していた、蟻達はオレの事を覚えたのか即座に逃亡していった。
 前の街の人達を逃がすのに何人か冒険者を置いてきたらしい。人手不足なのか、ギルマスも混ざっていた。

 そして、その村からあまり離れていない山の近くに蟻達の巣があった。

「すごい数だな……」
「この世の終わりだにゃあ……」

 蟻達は山の中腹に巨大な蟻塚を1つ形成していた。
 その蟻塚の穴から蟻達が忙しそうに出ては入ってを繰り返している。
 蟻達が入りきらないのか、山の周りとその下の森……正確には木々はほとんど倒されていたので、森だった場所であろうところに所狭しと蠢いている。
 数なんて数えきれない。目に見える範囲で蟻のいない場所は川くらいだ。
 その川も濁流で茶色く濁っている。川上には蟻達が列を組んで何かを運んでいるようだ。

「蟻は巣を作るのに泥を利用する、あそこから持ってきているんだろうな。山肌がはげちまってる」

 山まで食う、そんな印象を受ける。
 蟻達はこの位置にいるオレ達に気づいてはいるが、襲ってこない。
 オレの事を警戒しているのだろう。
 散々倒したからなあ。

「それで、どうするんだ? まさかあの数を1匹づつ倒していくなんて言わないよな」

 オレは魔法の袋から海槍クラーケンを取り出すと、無言で(元々口はないが)掲げた。

「海槍クラーケン……シオ様まさか!」

 オレの真意に気づいたのは清蓮だけだった。

 聞こえるか?リヴァイアサン。

『クラーケンとなったヒトか。何用だ?』

 あんた龍なんだよな? 頼みがある。戦いの場だ。

『ほう? 我を呼びつけるとは相当な猛者が相手なのだろうな? つまらぬ敵なら我は動かぬぞ』

 蟻だ。

『蟻だと! 蟻とはあの蟻か!?』

 3メートルくらいのサイズの蟻の大群だ。数は数えられないくらいいる。

『クハ、クハハハハハハハハハ!! 蟻か! そうか蟻か! 他にドラゴンはいるか!?』

 今のところ見当たらないね。

『クフフフ、呼べ! 今すぐだ!』

 ああ、来い! リヴァイアサン!

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

 会話を終えて槍に魔力を込めると、依然と変わらぬサイズの深い蒼い鱗を持った巨大な龍が姿を現した。

「にゃあ! どこから出たにゃ!」
「エンシェントウォータードラゴンか……!」
「シオ様の呼びかけに応えて頂いたようです。以前にもお会い致しました」

 アイ達が口を開けて驚いているが、それを気にせずに……どういう原理か分からないけど宙に浮いたリヴァイアサンがこちらに顔を向ける。

『ヒトよ、良い場に導いた。礼をせねばならんな』

 オレじゃ手に負えなそうなんだ。あの巣は壊さないでくれ、中に人がいるかも知れない。

『……いるな、300……200か?こうして話している間にも次々と数を減らしておるわ』

 あの巣まですぐに行きたい! 道を作ってくれ!

『よかろう、我が眷属も呼ぼう。者ども! 食事の時間だ!!』

 リヴァイアサンと比較すれば小ぶりだが、似たような形状の大型の海龍がリヴァイアサンの周りに突如大量に現れた!

『オオオオオオオオオオオオオオオン!!!!』

 そして、そのままわき目も降らずに蟻の群れに突っ込んでいった!

『巣は食らうなよ! それと崩すな! 間違ってもお前たちがエサになるでないぞ!』

 そう言うと、リヴァイアサンも体をくねらせて大きな口を開け大地ごと蟻達を食い始めた!

 リヴァイアサン、人間達はどこら辺にいる?

『ここからみてちょうど巣の中央辺りの高さ、左側の部屋に集められておる』

 わかった!

 オレは地面に手を当てて大地を隆起させると、レベッカ製の車が走れるサイズの道を作った。
 徐々に坂にして大地を持ち上げていき、真っすぐ巣に続く道を作っていく。

 テイツォ! 運転を頼む! 道から外れたら落ちるからな!

「了解にゃ!」

 車を魔法の袋から取り出すとテイツォが運転席に、助手席には清蓮が座る。
 アイとゴート、オレとアイレインとギルマスが荷台に乗りこんだ。
 距離的に道はまだ巣まで届いていないが、オレの魔法の範囲の兼ね合いもある。
 ここから先の途切れた道は走りながら作るしかないな。

 龍達! この道に蟻を近づけさせないでくれ!

『オオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!』

 クラーケンを通して海龍に指示をだす。オレの作った坂道を陣取るように龍達が空中に展開し、その近くの蟻たちを赴くままに食い散らかしていく。

「お前ら! この道を死守しろ! 龍達が守ってくれている! 龍達の食い漏らしを地面に叩き落せ!」
「「「了解だ!」」」

 冒険者達にギルマスが指示を出してくれた。

「すごい光景だ! まさか龍と共闘する日が来るなんて!」
「ああ、アイよ。このような戦はアルドといた時もなかった。アルド共蟻と戦ったが、巣まで行こうだなんて馬鹿なことはなかった!」
「先生でも……はい!」

 空中から何匹もの海龍が滑空して地面へと統べるように泳ぎ、大地を走る蟻たちを貪る! オレの作った道に近づかないよう、交互に龍達が空中を泳いで蟻達を近づけない。

『ズシン!』

 地面が揺れる! 地震でもきたのか?

 坂道が崩れないように、更に強化させつつ道を更に伸ばす。

「外側から乗り込むのか! 考えたな!」

 流石に巣の中を救助者を連れながら歩くのはきついだろ? そもそもそんな人数を守りながら蟻の中を歩くことなんて出来ないしな。

「すげえな、ああすげえ! お前、この戦い終わったらウチのギルドに来いよ! Sランクの冒険者書を発行してやる!」

 はっ、ゴーレムって冒険者になれんのか?

「ギルマスのオレがしてやるっつってんだ! 問題ないさ!」

 そうかい! じゃあ今度お願いしにいくさ。

「そうしろそうしろ」
「とりあえず生き抜いてからですね! しかしこの乗り物は馬車より早くて素晴らしい!」

 会話をしながらも、オレは土の魔法で坂道を伸ばしていく。ある程度近づいたからオレの探知の範囲に生存者の情報も入って来た。そこに合わせて道をカーブさせるように作っていく。

「にゃあ! 巣の上から飛んでくる蟻がいるにゃ!」

 飛行タイプか! 今までいなかったけどそんなのもいるんだな。

「ゴートさん!」
「応! シオは道を作るのに集中しろ!」
「私も魔法騎士の端くれです! お任せください!」

 そう言って3人が荷台の上で立ち上がると、手を前に出してそれぞれ魔法を放ち始めた!

「火炎連弾!」
「爆裂火球!」
「光の矢!」

 アイは火炎の魔法を連打させ蟻の羽を焼いて地面に落としていく。
 ゴートは蟻そのものを爆破させるタイプの魔法だ。
 アイレインは蟻の羽をピンポイントで打ち抜いて蟻を落下させる。
 落下中の蟻は龍達に空中で捕食されるものがほとんどで、地面にすら落ちれない。

『ハハハハハ! 馳走也!! 馳走也!』

 リヴァイアサンは相変わらず地面ごと蟻達を食い荒らしている。あんまり近くでやって貰いたくないな。
 比較的小型の龍が飛行タイプの相手をしてくれ始めた。相手と言っても一方的に追いかけて食うだけなのだが。

『ズシン』

 また地面に振動が伝わってくる。
 なんか嫌な予感がするな。

 リヴァイアサン! もうすぐ巣につく! 巣の周りの蟻達を何とか出来ないか!?

『ふん、龍遣いの荒いことよ。銀龍達! 巣の周りの蟻を振り落とせ!』

 比較的サイズの大きく好き勝手に蟻を食っていた銀色の鱗を持つ海龍達が一斉に巣に殺到すると、その長い胴体をしならせて蟻達を尻尾でなぎ倒していった。
 多少巣にもダメージが入るかもしれないが、崩れるような衝撃ではないようだ。

 着いた! 穴を開けるぞ!

 オレの作った道を巣に接触させると、巣の外壁部分に到達。
 オレは荷台から降りて、巣に手を当てる。
 巣は泥の塊で作られているようだ。土の魔法で巣に横穴を開ける!
 そこには探知で確認していた通り、多くの生存者達がいた。みんな疲れ切った表情でこちらに目を向ける。

「父さ……みなさん、助けに来ました! 手前の人達から順にこの穴から出てきて下さい!」

 アイレインが真っ先に穴に入り声をあげ、父を探そうとするも辞めた。

「幅的に二列が限界だ! 暴れずにゆっくり出てこい! アイ! 奥の通路を俺達で確保するぞ! 蟻を入れるな!」
「通路を塞ぎます! 通してください!」
「怪我人を診るにゃ! 重傷者はどこにゃ!」
「男は怪我人に手を貸してやれ! そこを開けろ! 蟻が入って来る通路はこっちで壊す! 歩ける人間は自分たちの足で歩け!」

 ゴート達が声を上げる、オレは通路を開けるため車をしまって外側の蟻が近寄らないように外に陣取って敵に炎の魔法を撃ちこむ。
 
「道幅は十分にあります! 龍達が協力してくれているので真っすぐ前に進んで下さい! 下を見ないように!」

 オレの横で清蓮も出て来た人達に声をかける。

「助かった……ありがてえ」
「ここを進むのか」
「ひっっぐ……ひっぐ……」

 手すりもない坂道が真っすぐ伸びていて、かつ龍が飛び回り下を向けば蟻が大量にいる。
長時間捕まっていて衰弱している人たちが、足がすくむのも仕方がない事だろう。
 
『ズシン』

 しかもまた地響きだ。先ほどよりも大きくなってきている。
 こういう時に人々に声をかけれないのがもどかしい。
 恐る恐る周りを見ながら、体の弱った人たちが何とか歩を進めていくが……遅い。

『ヒトよ、不味いのが来たぞ』

 ……なんだ?

『我と同類のモノだ。山の向こうから来てたから気づかなんだ』

 同類……龍か!

『左様、あやつは言葉こそ通じるが話は通じん。ヒトを逃がすなら急がせよ』

 急がせろっつってもみんな弱ってるんだ、どうにもなんねえよ。

「手を貸すぞ! ほら! 先頭が歩かないと後ろが来れない」

 ちょうどその時オレ達の後を追って来た冒険者達が戦闘の人達に追いついた。

「もう大丈夫だ! 頑張ったな! ほら、付いて来な!」

 比較的前の方がスムーズに動き出してくれた。

「シオ! ギルマスのとこの通路を潰してくれ!」

 アイの言葉にオレは振り向くと、穴の中へと歩を進める。

 計2か所ある穴の中の横道の一つをアイとゴートが陣取っている。そこには大量の蟻の死体が残って道を無事に塞いでいた。

「こっちだ! 通路が広くて手に負えん! 頼む!」

 長剣を握ったギルマスが蟻達を一人で食い止めていた、1匹倒しても後ろの蟻が死体を下げて次の蟻が入り込んでくる。
 しかも蟻は天井も歩けるらしく、今にも通路から体を入れてきそうだ。

 フレアバーナー!

「おわっ!」

 オレはその通路に向けって火炎放射の魔法を放って、蟻達を一気に退ける。そのまま周りの壁を操作してきっちりと通路を閉じる。

「おまっ! 助かったが言ってくれ! こええ!」

 ごめんごめん、口が無くってさ。

「シオ! こっちも頼む!」

 あいよ。

 オレはなんとか動こうとしている人たちをかき分けてアイ達の守っていた通路の前に移動すると、火炎放射の魔法で通路の蟻達を焼き消す。こちらも魔法で壁を動かして通路を塞いだ。

「足元! 蟻の牙が見えている!」
「天井に……横の壁からもだ!」

 ぬう、障壁魔法を貼って部屋を覆う事にするか。

「……本当に滅茶苦茶な性能だな、えーっと……シオだったか」

 おう、オレ高性能だろう?

「製作者の神経を疑うくらいにな。だがこの局面では助かる」

 製作者の神経は疑って貰って結構だ。

『ズシン……ズシン……』

『オオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』

 地響きと共にお腹の底から響くような音が聞こえてくる。
 や、気分の問題ですよ? 響きませんからね?

 オレは坂道側から外に出て、音源を見る。
 蟻の巣は山間の中腹にある。その背にある山を迂回するように地響きを立てながらそれは顔を出した。

オレは思わず硬直した。
 逃げようとする人々も、思わず足を止めてそちらに視線を向け釘付けになる。

「龍だ……龍神様だ……」

 誰かが言った。

「ついにおいでになられた……」
「これで蟻達は全滅だ……」

 そこには龍がいた。
 リヴァイアサン達と違い宙を泳ぐわけでもなく。
 グランフォールで戦ったような翼を広げる訳でもない。
 形で言うのであれば、象や河馬のそれだろう……サイズは明らかにおかしいが。
 流石にセルジアのように桁違いな大きさではないが、まるで巨大な建造物が移動しているような圧迫感を出して歩いてくる。
 
 背中に何本もの木を生やすそれは、リヴァイアサンよりもサイズ的には小さい…小さいが……太い。
 その両足は短いが、ずっしりと重厚感のある歩みは一歩進むたびに地響きを生み出す。
 土に覆われてもなお、見え隠れする鱗は茶色に近い黒。
 その口は大きく、1本1本の牙は鋭い。
 大きさは、高さで言うところ30メートルといったところか? 体は80メートルくらいある。
 いわゆる、典型的なドラゴンだ。

『最古龍、エンシェントアースドラゴンだ』
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