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第二章【番としての恋路】
第24話「妙に腹が立ちますというか」
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「手裏剣……何者!?」
「四ツ井のくノ一、葉緩だな?」
目の前に現れたのは忍びの装束をした女だった。
夜目の効く葉緩がとらえたのは艶やかな藍の髪を高く一つに結った姿。
月明かりとわずかな外灯、他に誰もいない状況で四ツ井家以外の忍びと対峙した。
葉緩は息をつき、忍びとして女に相対した。
「そちらから名乗るのが礼儀ではありませんか?」
「ふっ、そうね。あたしは望月 沙知(もちづき さち)。葵斗の遠縁で、くノ一よ」
以前、体育館裏で放たれた矢は沙知によるものと察し、葉緩は沙知を強く睨みつける。
「他家の忍が何の用ですか? この時代、忍びが争うことは不要です。守っていただかなくては」
「そうしたいところだけど、うちの葵斗があなたにお世話になっているようだから」
「やはり、葵斗くんは忍びの家系だったんですね」
葵斗が明確に口にしたわけではなかったのであいまいになっていたが、これで合点がいった。
今までの遠慮のなさははじめから葉緩に確信をもってのこと。
それも葵斗にとっては葉緩が”番”だから行動したと思うと、モヤッとしてしまう。
(何なのですか。妙に腹が立つといいますか……)
イライラと不機嫌になる葉緩に、沙知は口元に手をあてクスリと笑う。
「単刀直入に言うわ。葵斗に近づかないでくれる?」
「それは私に言うことですか? 近づいてきたのはあちらです。何故、あなたがそんなことを」
「裏切り者の子孫。そんな人に近づかないでほしいの。葉緩さん」
この人はなにを言っている?
理解できないと絶句すると、沙知はギリッと強く歯を食いしばって葉緩に毒を吐く。
「抜忍が忍びの家系を名乗るとは」
「……抜忍?」
「知らなかったの? 番のいる忍を誘惑し、抜け忍した。その子孫が今の四ツ井家だ」
そんなことを一度たりとも、宗芭は口にしなかった。
抜け忍とは、属していた忍者の集団を抜け出した者を指す。
その多くは裏切り者を意味するが、もし四ツ井家が元居た忍びの里を裏切り、抜けたのだとしたら大義に背いたことを意味する。
沙知が葉緩を敵視するのには正当性があった。
「またしても我が一族の者を惑わすか? 本来、葵斗の番(つがい)はお前ではない」
――また、困ってしまう話題だ。
何だこのズキズキする痛みは、あまりに不愉快だ。
散々葵斗に”番”だと振り回された結果、番ではないと言われてもうわけがわからない。
葉緩には葵斗の匂いがわからないため、余計に腹が立つというもの。
「私には番の証がわかりません。だから葵斗くんが番と言われてもピンと来ないのです」
葉緩がどうこうする問題ではないと突っぱねると、沙知が目を細めて冷たく言葉を放つ。
「……あなたさえ引いてくれればいいの。葵斗には本来の番と夫婦になってもらう」
――イラッ!
こうもめちゃくちゃに責められれば葉緩も黙ってはいられない。
拳を握りしめ、文句でも言ってやろうと口を開くも喉の奥で言葉が詰まる。
(なんなのですか……)
悔しいと涙がにじむ。
葵斗も、沙知も、勝手なことばかり言って葉緩を困らせる。
身に覚えのないことばかりで、好き勝手言われれば怒りに吠えたくなるというもの。
(勝手なことばかり言って! 大体、振り回してくるのは葵斗くんの方です!)
勝手に抱きしめてきて、勝手にキスをしてくる。
乙女の冒涜ばかりする葵斗に怒りを覚えずにはいられない。
同意のないキスは痛いばかりだ。
桐哉と柚姫を応援する優しくて甘い気持ちとはかけ離れている。
ちっとも甘くない、嫌悪感に満ちている……はずだった。
「四ツ井のくノ一、葉緩だな?」
目の前に現れたのは忍びの装束をした女だった。
夜目の効く葉緩がとらえたのは艶やかな藍の髪を高く一つに結った姿。
月明かりとわずかな外灯、他に誰もいない状況で四ツ井家以外の忍びと対峙した。
葉緩は息をつき、忍びとして女に相対した。
「そちらから名乗るのが礼儀ではありませんか?」
「ふっ、そうね。あたしは望月 沙知(もちづき さち)。葵斗の遠縁で、くノ一よ」
以前、体育館裏で放たれた矢は沙知によるものと察し、葉緩は沙知を強く睨みつける。
「他家の忍が何の用ですか? この時代、忍びが争うことは不要です。守っていただかなくては」
「そうしたいところだけど、うちの葵斗があなたにお世話になっているようだから」
「やはり、葵斗くんは忍びの家系だったんですね」
葵斗が明確に口にしたわけではなかったのであいまいになっていたが、これで合点がいった。
今までの遠慮のなさははじめから葉緩に確信をもってのこと。
それも葵斗にとっては葉緩が”番”だから行動したと思うと、モヤッとしてしまう。
(何なのですか。妙に腹が立つといいますか……)
イライラと不機嫌になる葉緩に、沙知は口元に手をあてクスリと笑う。
「単刀直入に言うわ。葵斗に近づかないでくれる?」
「それは私に言うことですか? 近づいてきたのはあちらです。何故、あなたがそんなことを」
「裏切り者の子孫。そんな人に近づかないでほしいの。葉緩さん」
この人はなにを言っている?
理解できないと絶句すると、沙知はギリッと強く歯を食いしばって葉緩に毒を吐く。
「抜忍が忍びの家系を名乗るとは」
「……抜忍?」
「知らなかったの? 番のいる忍を誘惑し、抜け忍した。その子孫が今の四ツ井家だ」
そんなことを一度たりとも、宗芭は口にしなかった。
抜け忍とは、属していた忍者の集団を抜け出した者を指す。
その多くは裏切り者を意味するが、もし四ツ井家が元居た忍びの里を裏切り、抜けたのだとしたら大義に背いたことを意味する。
沙知が葉緩を敵視するのには正当性があった。
「またしても我が一族の者を惑わすか? 本来、葵斗の番(つがい)はお前ではない」
――また、困ってしまう話題だ。
何だこのズキズキする痛みは、あまりに不愉快だ。
散々葵斗に”番”だと振り回された結果、番ではないと言われてもうわけがわからない。
葉緩には葵斗の匂いがわからないため、余計に腹が立つというもの。
「私には番の証がわかりません。だから葵斗くんが番と言われてもピンと来ないのです」
葉緩がどうこうする問題ではないと突っぱねると、沙知が目を細めて冷たく言葉を放つ。
「……あなたさえ引いてくれればいいの。葵斗には本来の番と夫婦になってもらう」
――イラッ!
こうもめちゃくちゃに責められれば葉緩も黙ってはいられない。
拳を握りしめ、文句でも言ってやろうと口を開くも喉の奥で言葉が詰まる。
(なんなのですか……)
悔しいと涙がにじむ。
葵斗も、沙知も、勝手なことばかり言って葉緩を困らせる。
身に覚えのないことばかりで、好き勝手言われれば怒りに吠えたくなるというもの。
(勝手なことばかり言って! 大体、振り回してくるのは葵斗くんの方です!)
勝手に抱きしめてきて、勝手にキスをしてくる。
乙女の冒涜ばかりする葵斗に怒りを覚えずにはいられない。
同意のないキスは痛いばかりだ。
桐哉と柚姫を応援する優しくて甘い気持ちとはかけ離れている。
ちっとも甘くない、嫌悪感に満ちている……はずだった。
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