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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode378
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アルカネットに薬で眠らされ、起きても泣き疲れて寝てしまい、キュッリッキは実に目が冴え渡っていた。なので少しはベルトルドと話でもしたかったのだが、ベルトルドのほうが速攻眠りに落ちてしまったので、どうしようもない。
眠れない時に無理に寝ようとしても逆効果なので、キュッリッキはローブの襟元からのぞくベルトルドの胸を、ぼんやりと見つめていた。
筋肉ムキムキでもなく、ぷよぷよやわでもない。ちょうどいいくらいの、引き締まった胸をしている。
いつも抱きしめられるので、ベルトルドの胸の感触は慣れっこになっていた。そして、こうして抱きしめられる都度、どこかホッとするような安心感がある。
ベルトルドの胸におでこをくっつけて、小さなため息をもらし、ふと、父親の胸はこんなかんじなのかな、という考えが頭をよぎった。
キュッリッキは昔、たった一度だけ自分の両親を探しに行ったことがある。
召喚スキル〈才能〉を授かった赤子を捨てた話は、アイオン族でも有名なことなので、自分を捨てた両親を見つけ出すのは容易だった。
顔を見せに行ったところで、歓迎されることはまずありえない。それでもキュッリッキは遠目に、両親を見てみたかった。
惑星ペッコは浮遊している大陸や島が無数にあり、そうした浮遊している土地に、街や村が在る。有翼人であるアイオン族にとって、住処が空にあろうが大地にあろうが関係ない。飛べばいい、ただそれだけだ。
両親の家はバルトル地方にある浮遊島の一つ、ベルカ島にあった。かつてキュッリッキがいた修道院の在る、ヴィフレア地方と近い。
島の南端に家は建っていた。赤や黄色のバラに囲まれた、白くて大きな家。そのバラ咲き乱れる花壇のそばに、2人の男女が寄り添いながら談笑していた。
(あれが、アタシのお父さんとお母さん……)
同じ金色の髪をしている。
片方の翼が奇形だったからという理由だけで、自分を捨てた両親。
可哀想に思ってくれたわけでもなく、いたわってくれたわけでもない。無慈悲に捨てた酷い大人達。
ふいに憎しみが、足元から這い上がるようにして脳天を突き抜けた。
修道院での仕打ちの数々を思い出し、自分をそんな境遇に陥れた張本人たちだ。それなのに…。
捨てた娘のことなどとうに忘れ去ったような、仲睦まじさが漂う2人の幸せそうな笑顔。キュッリッキは2人の笑みに誘われそうになり、ふらりと足を踏み出した。しかし突如我に返って、物陰に身を潜めた。
自分よりも少し年下の少女が、両親のもとに笑顔で駆け寄る姿が見えたからだ。
その少女を両親は嬉しそうに抱き寄せているのが見えて、その少女が自分の妹なのだとキュッリッキは直感した。
(絵に描いたような、あれが幸せそうな家族ってものなんだ…)
キュッリッキは心のどこかで、ほんの少し期待をしていた。
自分を捨てたことを後悔し、多少は哀しみに満ちているだろう両親を。
しかしそんなものは、存在しないのだ。何故なら自分の変わりは、ああして新しく生まれているから。
両親の愛情をたっぷり受けて、幸せを形にしたような笑顔の妹がいるのだから。
本来は、自分もあそこにいたはずだ。
片方の翼が奇形じゃなければ、ああして幸せそうに笑って、家族みんなで一緒に暮らせていたはず。
帰ることが許されないあの場所、けして得られない両親の愛情。自分には与えられなかった全てが、あそこにある。
結局それを再確認しただけだった。
思い出すだけで胸が引き裂かれるように痛い。思い出さなくてもいいことなのに、思い出して自ら心を傷つけている。いつかはこの痛みから、解放される日はくるのだろうか。
「泣いても構わないんだぞ」
突然囁くような声がして、キュッリッキはハッと顔をあげた。
眠れない時に無理に寝ようとしても逆効果なので、キュッリッキはローブの襟元からのぞくベルトルドの胸を、ぼんやりと見つめていた。
筋肉ムキムキでもなく、ぷよぷよやわでもない。ちょうどいいくらいの、引き締まった胸をしている。
いつも抱きしめられるので、ベルトルドの胸の感触は慣れっこになっていた。そして、こうして抱きしめられる都度、どこかホッとするような安心感がある。
ベルトルドの胸におでこをくっつけて、小さなため息をもらし、ふと、父親の胸はこんなかんじなのかな、という考えが頭をよぎった。
キュッリッキは昔、たった一度だけ自分の両親を探しに行ったことがある。
召喚スキル〈才能〉を授かった赤子を捨てた話は、アイオン族でも有名なことなので、自分を捨てた両親を見つけ出すのは容易だった。
顔を見せに行ったところで、歓迎されることはまずありえない。それでもキュッリッキは遠目に、両親を見てみたかった。
惑星ペッコは浮遊している大陸や島が無数にあり、そうした浮遊している土地に、街や村が在る。有翼人であるアイオン族にとって、住処が空にあろうが大地にあろうが関係ない。飛べばいい、ただそれだけだ。
両親の家はバルトル地方にある浮遊島の一つ、ベルカ島にあった。かつてキュッリッキがいた修道院の在る、ヴィフレア地方と近い。
島の南端に家は建っていた。赤や黄色のバラに囲まれた、白くて大きな家。そのバラ咲き乱れる花壇のそばに、2人の男女が寄り添いながら談笑していた。
(あれが、アタシのお父さんとお母さん……)
同じ金色の髪をしている。
片方の翼が奇形だったからという理由だけで、自分を捨てた両親。
可哀想に思ってくれたわけでもなく、いたわってくれたわけでもない。無慈悲に捨てた酷い大人達。
ふいに憎しみが、足元から這い上がるようにして脳天を突き抜けた。
修道院での仕打ちの数々を思い出し、自分をそんな境遇に陥れた張本人たちだ。それなのに…。
捨てた娘のことなどとうに忘れ去ったような、仲睦まじさが漂う2人の幸せそうな笑顔。キュッリッキは2人の笑みに誘われそうになり、ふらりと足を踏み出した。しかし突如我に返って、物陰に身を潜めた。
自分よりも少し年下の少女が、両親のもとに笑顔で駆け寄る姿が見えたからだ。
その少女を両親は嬉しそうに抱き寄せているのが見えて、その少女が自分の妹なのだとキュッリッキは直感した。
(絵に描いたような、あれが幸せそうな家族ってものなんだ…)
キュッリッキは心のどこかで、ほんの少し期待をしていた。
自分を捨てたことを後悔し、多少は哀しみに満ちているだろう両親を。
しかしそんなものは、存在しないのだ。何故なら自分の変わりは、ああして新しく生まれているから。
両親の愛情をたっぷり受けて、幸せを形にしたような笑顔の妹がいるのだから。
本来は、自分もあそこにいたはずだ。
片方の翼が奇形じゃなければ、ああして幸せそうに笑って、家族みんなで一緒に暮らせていたはず。
帰ることが許されないあの場所、けして得られない両親の愛情。自分には与えられなかった全てが、あそこにある。
結局それを再確認しただけだった。
思い出すだけで胸が引き裂かれるように痛い。思い出さなくてもいいことなのに、思い出して自ら心を傷つけている。いつかはこの痛みから、解放される日はくるのだろうか。
「泣いても構わないんだぞ」
突然囁くような声がして、キュッリッキはハッと顔をあげた。
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