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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode368
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客室の中の様子に、声をかけるタイミングを待っていた男は、コホンと軽い咳払いのあと、汽車の発車を告げた。
この汽車の中のダエヴァを仕切る初老の男で、階級は大佐、名をヨアキムといった。
今にも噛みつきそうな表情(かお)でベルトルドが振り向いて頷くのを見て、ヨアキム大佐は背筋が凍る思いだった。
普段あんな表情のベルトルドなど見ることは出来ないので、貴重な体験の部類に入るのだろうが、恐ろしくて何度も見たいものではない。
これから国境を越えて、敵地ボルクンド王国へと入る。オーバリーにあれだけの数の兵士たちを送り込んできていた逆臣軍、油断はできなかった。
ボルクンド王国領内のほぼ中央に、目指すエレギア地方はある。エルアーラと呼ばれる超古代文明の遺跡のある土地で、その近くのフェルトという町に、ベルトルドたちを送り届けなければならない。
順調に進めば約5時間ほどの旅程だが、敵地を突き進むのだから、奇襲はあるだろう。
魔法使いやサイ《超能力》使い、普通の戦闘員程度は難なく排除可能だ。しかしアサシン相手になると、乗り合わせるダエヴァでは手に余る。
唯一感知できるのはメルヴィンだけだ。
アサシンはメルヴィンに任せるとしても、ほかの敵はダエヴァで全て処理しなければならない。ベルトルドとアルカネットの前で、醜態は晒せないのだ。
ヨアキム大佐は姿勢を正すと、指揮をとるためにその場を後にした。
窓から差し込む日差しは橙色に染まり、客室の中を夕暮れの色に照らしていた。
30分程泣くに泣いたキュッリッキは、泣きつかれてメルヴィンの膝枕で眠ってしまった。
少しでもゆったりと寝やすいようにと席を譲り、ベルトルドとアルカネットの真ん中にルーファスは腰を落ち着けた。
「リッキーじゃなく、なんでお前なんだ」
「男3人で並んで座るとか、イヤですね、むさっ苦しい」
「ちょーすンまセンッ!」
オレだって嫌だよ! とは胸中で叫び、ルーファスはガックリとうなだれた。
ソレル王国の首都アルイールで別れてから、ベルトルドは少しもキュッリッキとスキンシップも楽しい会話も出来ておらず、心底ストレスマッハ状態に陥っている。
一方アルカネットは、キュッリッキを傷つけ泣かせてしまったことで、忸怩たる思いにハマり、しかしメルヴィンに慰める役を目の前で持って行かれて大層不機嫌だった。
まさに「むっすーーー!」といった表情の上司2人に挟まれているルーファスを見て、メルヴィンは内心同情でいっぱいになっていた。もちろん、自分に対して嫉妬に燃えているとは気づいていない。
眠りを解かれたフローズヴィトニルは、キュッリッキの足元の空いている座席(スペース)で、元気にフェンリルとじゃれあっている。
特別室の中が異様な空気に包まれっぱなしで、外で護衛にあたっているダエヴァの2人は、背中で大量の汗を流し続けた。
ベルトルドとアルカネットの2人から漂う、殺気と意味のわからない複雑な感情のオーラが、神経をチクチクと突き刺してくるためである。2人は共にサイ《超能力》使いゆえ、敏感に感じ取りやすかった。
そこへ別のダエヴァの者が敵襲の報を携え、すぐさま特別室内のベルトルドたちに報告された。
「敵は、サイ《超能力》と魔法の使い手が40名ほどです」
「よし、俺が殺る!」
この汽車の中のダエヴァを仕切る初老の男で、階級は大佐、名をヨアキムといった。
今にも噛みつきそうな表情(かお)でベルトルドが振り向いて頷くのを見て、ヨアキム大佐は背筋が凍る思いだった。
普段あんな表情のベルトルドなど見ることは出来ないので、貴重な体験の部類に入るのだろうが、恐ろしくて何度も見たいものではない。
これから国境を越えて、敵地ボルクンド王国へと入る。オーバリーにあれだけの数の兵士たちを送り込んできていた逆臣軍、油断はできなかった。
ボルクンド王国領内のほぼ中央に、目指すエレギア地方はある。エルアーラと呼ばれる超古代文明の遺跡のある土地で、その近くのフェルトという町に、ベルトルドたちを送り届けなければならない。
順調に進めば約5時間ほどの旅程だが、敵地を突き進むのだから、奇襲はあるだろう。
魔法使いやサイ《超能力》使い、普通の戦闘員程度は難なく排除可能だ。しかしアサシン相手になると、乗り合わせるダエヴァでは手に余る。
唯一感知できるのはメルヴィンだけだ。
アサシンはメルヴィンに任せるとしても、ほかの敵はダエヴァで全て処理しなければならない。ベルトルドとアルカネットの前で、醜態は晒せないのだ。
ヨアキム大佐は姿勢を正すと、指揮をとるためにその場を後にした。
窓から差し込む日差しは橙色に染まり、客室の中を夕暮れの色に照らしていた。
30分程泣くに泣いたキュッリッキは、泣きつかれてメルヴィンの膝枕で眠ってしまった。
少しでもゆったりと寝やすいようにと席を譲り、ベルトルドとアルカネットの真ん中にルーファスは腰を落ち着けた。
「リッキーじゃなく、なんでお前なんだ」
「男3人で並んで座るとか、イヤですね、むさっ苦しい」
「ちょーすンまセンッ!」
オレだって嫌だよ! とは胸中で叫び、ルーファスはガックリとうなだれた。
ソレル王国の首都アルイールで別れてから、ベルトルドは少しもキュッリッキとスキンシップも楽しい会話も出来ておらず、心底ストレスマッハ状態に陥っている。
一方アルカネットは、キュッリッキを傷つけ泣かせてしまったことで、忸怩たる思いにハマり、しかしメルヴィンに慰める役を目の前で持って行かれて大層不機嫌だった。
まさに「むっすーーー!」といった表情の上司2人に挟まれているルーファスを見て、メルヴィンは内心同情でいっぱいになっていた。もちろん、自分に対して嫉妬に燃えているとは気づいていない。
眠りを解かれたフローズヴィトニルは、キュッリッキの足元の空いている座席(スペース)で、元気にフェンリルとじゃれあっている。
特別室の中が異様な空気に包まれっぱなしで、外で護衛にあたっているダエヴァの2人は、背中で大量の汗を流し続けた。
ベルトルドとアルカネットの2人から漂う、殺気と意味のわからない複雑な感情のオーラが、神経をチクチクと突き刺してくるためである。2人は共にサイ《超能力》使いゆえ、敏感に感じ取りやすかった。
そこへ別のダエヴァの者が敵襲の報を携え、すぐさま特別室内のベルトルドたちに報告された。
「敵は、サイ《超能力》と魔法の使い手が40名ほどです」
「よし、俺が殺る!」
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