片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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モナルダ大陸戦争開戦へ編

episode350

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 リュリュへの定期報告で部屋を空けていたメルヴィンが、新しい指示を携えて戻ってきた。

「え? 汽車に乗って移動するの?」

「はい。ここから汽車で、オーバリーという街へ移動するようですよ」

「ほ~、んじゃ、結構ラクじゃんね」

 現在地のブリリオート王国首都バロータから、ボルクンド王国との国境付近にある街、オーバリーに行く汽車に乗るように言われていた。その汽車は皇国軍特殊部隊ダエヴァが接収しているらしい。

「ダエヴァも護衛につくなら、かなり安心だねえ」

「ええ、どのくらいの戦力が差し向けられるか判りませんから、リュリュさんのほうで急ぎ手配してくれたそうです」

「さすがデキルオカマはチガウ」

「アタシ、汽車ってあんまり乗ったことないの。楽しみ」

 度胸が据わっているのか、楽しげなキュッリッキの様子に、メルヴィンとルーファスは苦笑してしまった。

 今のキュッリッキの心境は、誘拐される危険よりも、メルヴィンと一緒にいることで心臓発作を起こさないかの方が重大事なのだ。

「それでは行きましょうか」

「おう」

「はーい」

 3人は立ち上がる。

 部屋を出ようとして、キュッリッキは「えっ」と己の手を見る。

 メルヴィンの左手が、自分の右手をしっかりと握ったのだ。

「いきなり攫われないようにするためです。離しません」

 真顔でそう言われて、つま先から顔に向けてボッと赤くなった。

(離しませんって……離しませんって…)

 メルヴィンの言葉が頭の中を何度もぐるぐる駆け巡る。

(どうしよう…、また顔がトマトになっちゃってる)

 顔を見て話をするのもやっとなのに、手まで繋がれて、キュッリッキはどうにかなってしまいそうだった。

 手を引かれながら宿の廊下を進み、キュッリッキはふとメルヴィンの手の大きさに気づく。

(メルヴィンの手って大きいなあ。強くて、あったかくって、安心しちゃう感じ)

 キュッリッキはそこに、初めて異性を強く意識した。

 散々ベルトルドやアルカネットにベタベタ触られたりしているが、手を握られただけで、こんなふうに心がドキドキするような気持ちにはなったことがない。

 自分にとって、メルヴィンは特別なのだと、今更思いを深めた。



 宿の外には上等の馬車と、ダエヴァの軍人たちが3人を待っていた。

「ステーションまでお送りします。馬車にお乗りください」

 馬車まではダエヴァの軍人たちが左右に居並び、万全の警戒態勢だった。

 3人はちょっと驚いたふうだったが、急いで馬車に乗り込んだ。

 当初の予定では、ボルクンド王国首都ヘリクリサムへ飛び、馬車や徒歩で集合地フェルトへ向かうはずだった。そのためベルトルドからも、危険に対処するよう重々言い含められていたのだ。

 しかしヘリクリサムでボルクンド王国が武装蜂起したので、止む終えずブリリオート王国へと飛んだ。そのおかげかどうか、フェルトまでは全て汽車での移動となる。

 ステーションへ着くと、ここもダエヴァに接収されていた。

 一般人が一人もいないステーションの中を、3人は丁重に汽車まで案内された。ステーションの職員すら排除されていた。
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