369 / 882
モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode350
しおりを挟む
リュリュへの定期報告で部屋を空けていたメルヴィンが、新しい指示を携えて戻ってきた。
「え? 汽車に乗って移動するの?」
「はい。ここから汽車で、オーバリーという街へ移動するようですよ」
「ほ~、んじゃ、結構ラクじゃんね」
現在地のブリリオート王国首都バロータから、ボルクンド王国との国境付近にある街、オーバリーに行く汽車に乗るように言われていた。その汽車は皇国軍特殊部隊ダエヴァが接収しているらしい。
「ダエヴァも護衛につくなら、かなり安心だねえ」
「ええ、どのくらいの戦力が差し向けられるか判りませんから、リュリュさんのほうで急ぎ手配してくれたそうです」
「さすがデキルオカマはチガウ」
「アタシ、汽車ってあんまり乗ったことないの。楽しみ」
度胸が据わっているのか、楽しげなキュッリッキの様子に、メルヴィンとルーファスは苦笑してしまった。
今のキュッリッキの心境は、誘拐される危険よりも、メルヴィンと一緒にいることで心臓発作を起こさないかの方が重大事なのだ。
「それでは行きましょうか」
「おう」
「はーい」
3人は立ち上がる。
部屋を出ようとして、キュッリッキは「えっ」と己の手を見る。
メルヴィンの左手が、自分の右手をしっかりと握ったのだ。
「いきなり攫われないようにするためです。離しません」
真顔でそう言われて、つま先から顔に向けてボッと赤くなった。
(離しませんって……離しませんって…)
メルヴィンの言葉が頭の中を何度もぐるぐる駆け巡る。
(どうしよう…、また顔がトマトになっちゃってる)
顔を見て話をするのもやっとなのに、手まで繋がれて、キュッリッキはどうにかなってしまいそうだった。
手を引かれながら宿の廊下を進み、キュッリッキはふとメルヴィンの手の大きさに気づく。
(メルヴィンの手って大きいなあ。強くて、あったかくって、安心しちゃう感じ)
キュッリッキはそこに、初めて異性を強く意識した。
散々ベルトルドやアルカネットにベタベタ触られたりしているが、手を握られただけで、こんなふうに心がドキドキするような気持ちにはなったことがない。
自分にとって、メルヴィンは特別なのだと、今更思いを深めた。
宿の外には上等の馬車と、ダエヴァの軍人たちが3人を待っていた。
「ステーションまでお送りします。馬車にお乗りください」
馬車まではダエヴァの軍人たちが左右に居並び、万全の警戒態勢だった。
3人はちょっと驚いたふうだったが、急いで馬車に乗り込んだ。
当初の予定では、ボルクンド王国首都ヘリクリサムへ飛び、馬車や徒歩で集合地フェルトへ向かうはずだった。そのためベルトルドからも、危険に対処するよう重々言い含められていたのだ。
しかしヘリクリサムでボルクンド王国が武装蜂起したので、止む終えずブリリオート王国へと飛んだ。そのおかげかどうか、フェルトまでは全て汽車での移動となる。
ステーションへ着くと、ここもダエヴァに接収されていた。
一般人が一人もいないステーションの中を、3人は丁重に汽車まで案内された。ステーションの職員すら排除されていた。
「え? 汽車に乗って移動するの?」
「はい。ここから汽車で、オーバリーという街へ移動するようですよ」
「ほ~、んじゃ、結構ラクじゃんね」
現在地のブリリオート王国首都バロータから、ボルクンド王国との国境付近にある街、オーバリーに行く汽車に乗るように言われていた。その汽車は皇国軍特殊部隊ダエヴァが接収しているらしい。
「ダエヴァも護衛につくなら、かなり安心だねえ」
「ええ、どのくらいの戦力が差し向けられるか判りませんから、リュリュさんのほうで急ぎ手配してくれたそうです」
「さすがデキルオカマはチガウ」
「アタシ、汽車ってあんまり乗ったことないの。楽しみ」
度胸が据わっているのか、楽しげなキュッリッキの様子に、メルヴィンとルーファスは苦笑してしまった。
今のキュッリッキの心境は、誘拐される危険よりも、メルヴィンと一緒にいることで心臓発作を起こさないかの方が重大事なのだ。
「それでは行きましょうか」
「おう」
「はーい」
3人は立ち上がる。
部屋を出ようとして、キュッリッキは「えっ」と己の手を見る。
メルヴィンの左手が、自分の右手をしっかりと握ったのだ。
「いきなり攫われないようにするためです。離しません」
真顔でそう言われて、つま先から顔に向けてボッと赤くなった。
(離しませんって……離しませんって…)
メルヴィンの言葉が頭の中を何度もぐるぐる駆け巡る。
(どうしよう…、また顔がトマトになっちゃってる)
顔を見て話をするのもやっとなのに、手まで繋がれて、キュッリッキはどうにかなってしまいそうだった。
手を引かれながら宿の廊下を進み、キュッリッキはふとメルヴィンの手の大きさに気づく。
(メルヴィンの手って大きいなあ。強くて、あったかくって、安心しちゃう感じ)
キュッリッキはそこに、初めて異性を強く意識した。
散々ベルトルドやアルカネットにベタベタ触られたりしているが、手を握られただけで、こんなふうに心がドキドキするような気持ちにはなったことがない。
自分にとって、メルヴィンは特別なのだと、今更思いを深めた。
宿の外には上等の馬車と、ダエヴァの軍人たちが3人を待っていた。
「ステーションまでお送りします。馬車にお乗りください」
馬車まではダエヴァの軍人たちが左右に居並び、万全の警戒態勢だった。
3人はちょっと驚いたふうだったが、急いで馬車に乗り込んだ。
当初の予定では、ボルクンド王国首都ヘリクリサムへ飛び、馬車や徒歩で集合地フェルトへ向かうはずだった。そのためベルトルドからも、危険に対処するよう重々言い含められていたのだ。
しかしヘリクリサムでボルクンド王国が武装蜂起したので、止む終えずブリリオート王国へと飛んだ。そのおかげかどうか、フェルトまでは全て汽車での移動となる。
ステーションへ着くと、ここもダエヴァに接収されていた。
一般人が一人もいないステーションの中を、3人は丁重に汽車まで案内された。ステーションの職員すら排除されていた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる