349 / 882
それぞれの悪巧み編
episode330
しおりを挟む
軍での勤めを終えてきたライオン傭兵団は、夕食の準備ができるまでスモーキングルームに集まるのが、ベルトルド邸にきてからの日課となっていた。
いつもならガヤガヤと適当な雑談が飛び交うが、今日はみんな黙ってキュッリッキの朗読を拝聴中である。
家庭教師のグンヒルドと毎日一時間、字を教わっている。グンヒルドが用意する本を朗読し、言葉の意味を教わり、キュッリッキの国語力も少しずつ上昇していた。
19歳にもなるキュッリッキが、7~8歳の子供が読むような本を、一生懸命になって読んでいる。しかしそのことを誰もバカになどしない。
家庭の事情や金銭的な事情で、基礎学校へ満足に行けず、働きに出る子供達が普通にいる。傭兵をしている子供は、そういった背景が多いのだ。
キュッリッキの詳しい生い立ちは知らないまでも、勉強することを喜び、真摯に取り組む姿勢は応援に値するのだった。
しかめっ面になったり、得意そうな顔をしたり、百面相も披露しながらの朗読会が終わると、キュッリッキは恥ずかしそうに笑った。みんなから励ましの拍手が贈られた。
「だいぶ読める単語が増えてきましたね」
シビルがニッコリ言うと、
「その調子で好きな路線の本を読むと、覚えるのも、もーっと早くなるかも」
尻尾をフサフサ振りながら、ハーマンが分厚い本を一冊差し出す。
「『初心者でもわかる魔法辞典』?」
受け取ったキュッリッキが表題を読むと、ハーマンはえっへんと胸を張る。
「スキル〈才能〉は違うものでも、理解を深めるためには一読する価値はあるよ。仕事にも大役立ちさ」
「ふみゅ~」
言われて適当なページを開くが、すぐにパタンと閉じる。
「ウチュー語がいっぱい並んでるかも…。ベルトルドさんの書く字みたい」
「えー…あんなのと一緒にしないでよー」
ハーマンは飛び跳ねながら抗議した。
「俺がなんだ??」
スモーキングルームのドアを開けながら、ベルトルドが不思議そうな顔で入ってきた。ハーマンは慌てて口を塞ぐ。
「おかえりなさい」
部屋のあちこちから、棒読みのような挨拶がチラホラ投げかけられる。
「おかえりなさい、ベルトルドさん」
ベルトルドに笑顔を向けると共に、キュッリッキは心配そうな視線を股間に注ぐ。
「ただいまリッキー、もうナマコは退治したぞ」
笑顔をひきつらせながら、ベルトルドはキュッリッキを抱きしめる。
「俺のフランクフルトは、ナマコごときに殺られたりはしないぞ」
「ほむ…」
キュッリッキは一人意味不明な表情を浮かべていたが、ライオン傭兵団は俯いて身体を小刻みに震わせながら、必死に笑いを堪えていた。
いつもならガヤガヤと適当な雑談が飛び交うが、今日はみんな黙ってキュッリッキの朗読を拝聴中である。
家庭教師のグンヒルドと毎日一時間、字を教わっている。グンヒルドが用意する本を朗読し、言葉の意味を教わり、キュッリッキの国語力も少しずつ上昇していた。
19歳にもなるキュッリッキが、7~8歳の子供が読むような本を、一生懸命になって読んでいる。しかしそのことを誰もバカになどしない。
家庭の事情や金銭的な事情で、基礎学校へ満足に行けず、働きに出る子供達が普通にいる。傭兵をしている子供は、そういった背景が多いのだ。
キュッリッキの詳しい生い立ちは知らないまでも、勉強することを喜び、真摯に取り組む姿勢は応援に値するのだった。
しかめっ面になったり、得意そうな顔をしたり、百面相も披露しながらの朗読会が終わると、キュッリッキは恥ずかしそうに笑った。みんなから励ましの拍手が贈られた。
「だいぶ読める単語が増えてきましたね」
シビルがニッコリ言うと、
「その調子で好きな路線の本を読むと、覚えるのも、もーっと早くなるかも」
尻尾をフサフサ振りながら、ハーマンが分厚い本を一冊差し出す。
「『初心者でもわかる魔法辞典』?」
受け取ったキュッリッキが表題を読むと、ハーマンはえっへんと胸を張る。
「スキル〈才能〉は違うものでも、理解を深めるためには一読する価値はあるよ。仕事にも大役立ちさ」
「ふみゅ~」
言われて適当なページを開くが、すぐにパタンと閉じる。
「ウチュー語がいっぱい並んでるかも…。ベルトルドさんの書く字みたい」
「えー…あんなのと一緒にしないでよー」
ハーマンは飛び跳ねながら抗議した。
「俺がなんだ??」
スモーキングルームのドアを開けながら、ベルトルドが不思議そうな顔で入ってきた。ハーマンは慌てて口を塞ぐ。
「おかえりなさい」
部屋のあちこちから、棒読みのような挨拶がチラホラ投げかけられる。
「おかえりなさい、ベルトルドさん」
ベルトルドに笑顔を向けると共に、キュッリッキは心配そうな視線を股間に注ぐ。
「ただいまリッキー、もうナマコは退治したぞ」
笑顔をひきつらせながら、ベルトルドはキュッリッキを抱きしめる。
「俺のフランクフルトは、ナマコごときに殺られたりはしないぞ」
「ほむ…」
キュッリッキは一人意味不明な表情を浮かべていたが、ライオン傭兵団は俯いて身体を小刻みに震わせながら、必死に笑いを堪えていた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た
pelonsan
恋愛
ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。
僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。
昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。
去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日……
※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。
凌辱系エロゲの世界に転生〜そんな世界に転生したからには俺はヒロイン達を救いたい〜
美鈴
ファンタジー
※ホットランキング6位本当にありがとうございます!
凌辱系エロゲーム『凌辱地獄』。 人気絵師がキャラクター原案、エロシーンの全てを描き、複数の人気声優がそのエロボイスを務めたという事で、異例の大ヒットを飛ばしたパソコンアダルトゲーム。 そんなエロゲームを完全に網羅してクリアした主人公豊和はその瞬間…意識がなくなり、気が付いた時にはゲーム世界へと転生していた。そして豊和にとって現実となった世界でヒロイン達にそんな悲惨な目にあって欲しくないと思った主人公がその為に奔走していくお話…。
※カクヨム様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる