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番外編1
メルヴィンの女・1
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キュッリッキは恥ずかしそうに伏せ目がちになりながらも、バラ色に染まった顔を上げ、潤んだ瞳を真っ直ぐ向けた。胸の前で組んだ小さな手を、決心を表すようにキュッと握り締める。
「アタシを………あげる」
今にも消え入りそうな声で囁くように言うと、全てを捧げるように、無防備にその胸に飛び込んできた。
「そして、ベルトルドは小娘を優しく抱きしめると、ベッドへ運ぶまでの短い道のりで、心ゆくまで熱い抱擁を堪能するのだった、まる」
「うむうむ」
ベルトルドは腕を組み、鼻の下を伸ばしながら満足そうに頷く。しかし、
「て、俺の心を読むな!!」
いきなり真顔になって、テーブルをドンッと拳で叩く。リュリュは額に片手をあて、呆れたように溜息をついた。
「もーすぐバレンタインだものね。だからって、そんな三流官能小説みたいな妄想を、会議中に浮かべて興奮してんじゃないわよ!」
「俺にとっては、こんな定例会議よりもバレンタインのほうが重要行事だ!!」
テーブルをバンバン叩いてリュリュを睨みあげた。
ベルトルドの目の前には、呆気にとられた議員たちが、どう対応していいか困って、ポカーンと口を開けていた。
会議室でリュリュと口論している、ベルトルドの妄想のオカズにされていたキュッリッキは、小さなクシャミを連発しながらも、どうにも落ち着かない様子でアジトの談話室をうろうろと歩いていた。
「おとなしく座ってミルクでも飲め、キューリ」
「子供扱いしないでよっ!!」
牙でも生やしそうな形相で、ギャリーに吠える。
「おうキューリ、ビール飲むか?」
ザカリーがニコニコしながらビール瓶を持ち上げると、
「なんにもイラナイんだからほっといてよ!!!!」
癇癪を起こして、キュッリッキは地団駄を踏んだ。
そんなキュッリッキの様子に皆苦笑を浮かべたが、同様に客間の方が気になってしょうがない。
今から数分前、メルヴィンを訪ねて、一人の女がライオン傭兵団のアジトに現れた。
ストレートの艶やかな黒髪に、少し日焼けしたような肌に赤い口紅がよく映えている美人だ。背が高くてスタイルも良く、ギャリー曰く「そそるような女」だった。
出迎えたメルヴィンは、キュッリッキの知らない表情(かお)を女に向けていた。そして、とてもくだけた口調で親しげに話しかけていたのだ。そのことがキュッリッキの心に不安の影を落としている。
(アタシには、あんな表情したことないもん…)
ソファで寝ていたタルコットが目を覚まし、そばにいたランドンから事情を説明され、
「ああ、カーリーが来たんだ」
と言って目をすがめた。
「知ってるのか?」
ギャリーが意外そうにタルコットを見ると、妖艶な顔を不思議そうに歪めながら、タルコットは小さく頷いた。
「昔メルヴィンと付き合ってたんだ。彼女は同じ正規部隊に所属していてね、だから知ってるんだけど。でもだいぶ前に別れたって聞いてたんだけどな」
「ヨリを戻しにきたとか?」
どこか嬉しそうにザカリーが言うと、キュッリッキの表情が咄嗟に泣きそうになる。
「どういう経緯で別れたかは知らないけど、どうなんだろうね」
興味なさそうに、タルコットは肩をすくめた。
昔付き合っていたという美女。嬉しそうにくだけて話をするメルヴィン。
キュッリッキの知らない表情をするメルヴィン。
あんなふうに話しかけてくれたことなど一度もない。いつも紳士的で、丁寧で敬語で話をする。腫れ物に触るようなかんじで。ほかのみんなはもっとくだけて親しげなのに、メルヴィンだけは。でも、あの美女にはあんなに親しげに。
キュッリッキは自分に対する普段のメルヴィンの態度や接し方を思い返し、何か悔しくなってきて、だんだんと涙が溢れてきて止まらなくなってしまった。
何故自分には他人行儀な接し方で、あの美女には親しげなのか。
このままあの美女とヨリを戻し、自分はいつまでもただの仲間の一人だったら。そんなの嫌だし見ていられない。ライオン傭兵団にいるのは、とてもとても辛いし我慢できない。
キュッリッキがポタポタ涙を流し始めて、皆ギョッと驚いた。
「アタシを………あげる」
今にも消え入りそうな声で囁くように言うと、全てを捧げるように、無防備にその胸に飛び込んできた。
「そして、ベルトルドは小娘を優しく抱きしめると、ベッドへ運ぶまでの短い道のりで、心ゆくまで熱い抱擁を堪能するのだった、まる」
「うむうむ」
ベルトルドは腕を組み、鼻の下を伸ばしながら満足そうに頷く。しかし、
「て、俺の心を読むな!!」
いきなり真顔になって、テーブルをドンッと拳で叩く。リュリュは額に片手をあて、呆れたように溜息をついた。
「もーすぐバレンタインだものね。だからって、そんな三流官能小説みたいな妄想を、会議中に浮かべて興奮してんじゃないわよ!」
「俺にとっては、こんな定例会議よりもバレンタインのほうが重要行事だ!!」
テーブルをバンバン叩いてリュリュを睨みあげた。
ベルトルドの目の前には、呆気にとられた議員たちが、どう対応していいか困って、ポカーンと口を開けていた。
会議室でリュリュと口論している、ベルトルドの妄想のオカズにされていたキュッリッキは、小さなクシャミを連発しながらも、どうにも落ち着かない様子でアジトの談話室をうろうろと歩いていた。
「おとなしく座ってミルクでも飲め、キューリ」
「子供扱いしないでよっ!!」
牙でも生やしそうな形相で、ギャリーに吠える。
「おうキューリ、ビール飲むか?」
ザカリーがニコニコしながらビール瓶を持ち上げると、
「なんにもイラナイんだからほっといてよ!!!!」
癇癪を起こして、キュッリッキは地団駄を踏んだ。
そんなキュッリッキの様子に皆苦笑を浮かべたが、同様に客間の方が気になってしょうがない。
今から数分前、メルヴィンを訪ねて、一人の女がライオン傭兵団のアジトに現れた。
ストレートの艶やかな黒髪に、少し日焼けしたような肌に赤い口紅がよく映えている美人だ。背が高くてスタイルも良く、ギャリー曰く「そそるような女」だった。
出迎えたメルヴィンは、キュッリッキの知らない表情(かお)を女に向けていた。そして、とてもくだけた口調で親しげに話しかけていたのだ。そのことがキュッリッキの心に不安の影を落としている。
(アタシには、あんな表情したことないもん…)
ソファで寝ていたタルコットが目を覚まし、そばにいたランドンから事情を説明され、
「ああ、カーリーが来たんだ」
と言って目をすがめた。
「知ってるのか?」
ギャリーが意外そうにタルコットを見ると、妖艶な顔を不思議そうに歪めながら、タルコットは小さく頷いた。
「昔メルヴィンと付き合ってたんだ。彼女は同じ正規部隊に所属していてね、だから知ってるんだけど。でもだいぶ前に別れたって聞いてたんだけどな」
「ヨリを戻しにきたとか?」
どこか嬉しそうにザカリーが言うと、キュッリッキの表情が咄嗟に泣きそうになる。
「どういう経緯で別れたかは知らないけど、どうなんだろうね」
興味なさそうに、タルコットは肩をすくめた。
昔付き合っていたという美女。嬉しそうにくだけて話をするメルヴィン。
キュッリッキの知らない表情をするメルヴィン。
あんなふうに話しかけてくれたことなど一度もない。いつも紳士的で、丁寧で敬語で話をする。腫れ物に触るようなかんじで。ほかのみんなはもっとくだけて親しげなのに、メルヴィンだけは。でも、あの美女にはあんなに親しげに。
キュッリッキは自分に対する普段のメルヴィンの態度や接し方を思い返し、何か悔しくなってきて、だんだんと涙が溢れてきて止まらなくなってしまった。
何故自分には他人行儀な接し方で、あの美女には親しげなのか。
このままあの美女とヨリを戻し、自分はいつまでもただの仲間の一人だったら。そんなの嫌だし見ていられない。ライオン傭兵団にいるのは、とてもとても辛いし我慢できない。
キュッリッキがポタポタ涙を流し始めて、皆ギョッと驚いた。
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