片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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初恋の予感編

episode266

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 ワイワイと賑やかになった部屋に、リトヴァをはじめとする数名のメイドたちが、豪華な料理の乗ったテーブルワゴンを、複数台押して入ってきた。

「飯だ飯だ!」

 匂いに反応してヴァルトは元気よくベッドから飛び降りると、ワゴンに飛びついて空の皿を手にとった。

「さあ! 俺様の皿にお菓子を盛るがいい!」

「毒でも食べてろ、うるさい奴…」

 ペルラがため息混じりに言うと、ヴァルトが心底嬉しそうに目を輝かせた。

「お昼ですからね、ありがたくいただきましょうか」

 カーティスがそう言うと、みんなワゴンの周りに群がった。

「はい、キューリさんのぶん」

「ありがとシビル」

 大きな白い皿にはたくさんの料理が盛られていたが、キュッリッキはそれを久しぶりに美味しそうだと思った。いつもなら食べる前に匂いでうんざりするところだ。

 皆皿を手に、思い思いの場所に座って食べ始めた。もごもごと口を動かしながらも、なにやら賑やかに会話が飛び交う。

 メイドたちも給仕に大忙しで、新しい料理や菓子の皿が、次々と追加された。見舞いということで、酒は出されなかった。

「ああ、ルーファス、そろそろあちらと繋いでくださいな」

 ふと思い出したようにカーティスが言うと、忘れてた、とルーファスが舌を出す。

 それをキュッリッキが不思議そうに見ていると、

「イソラにいるザカリー、マーゴット、マリオンの3人と、念話をつないでもらうんですよ」

 メルヴィンの説明に、キュッリッキの表情にサッと緊張のようなものが過ぎった。

「おっし、つながった。みんなー、声出して喋っても大丈夫だから」

 ルーファスの合図と同時に、

(おい大丈夫なのかキューリは!! 無事か!? 生きてるのか!?)

 けたたましいザカリーの声が、その場にいた全員の頭に喧しく轟いた。

「うるせーぞザカリー! ちったー静かに喋れ」

 ギャリーが即つっこむ。

(おめーなんか後回しだよ、それよりキューリ喋れるのか、まだ寝てるのか?)

 念話の声はイライラしていて、みんな「ヤレヤレ」と首を振った。

「アタシなら大丈夫だよ、ザカリー」

 キュッリッキは静かに答えた。

(ああ…よかった、ちゃんと喋れるんだな、大丈夫なんだな、よかった……)

 心底安堵したザカリーの声が、潮が引いていくように小さくなる。

(キューリちゃんよかったぁ~、元気になったんだねぇ)

 明るく間延びしたマリオンの声が割って入る。

(ザカリーは安心しちゃってぇ、ナメクジみたいに溶けてるよぉ~)

 多人数中継のため、双方の映像までは念話で送受信出来ていなかったが、その様子が容易に想像できて、みんな大笑いだった。

 キュッリッキは苦笑をおさめると、真顔になって口を開いた。

「ザカリーは怪我、大丈夫なの?」

(オレ? オレは全然大丈夫だよ。もう包帯もとっぱらってるし、ピンピンしてるぜ!)

(うんうん。キューリちゃんを毎日思って、真ん中の脚もビンビンしてるもんねぇ~)

 マリオンがいちいち混ぜ返す。

(ばっ! うるさいよおまえは!!)

「ザカリー最低…」

(ちょっまて、別にビンビンは……たまにしてるが……いやいや、してないしてない)

「欲求不満男」

(うっせー格闘バカ!)

「娼婦のねーちゃんと遊んどけよ。帰ってきてキューリ見て襲いかからないように」

(だからそこまで飢えてねーよ! オレの心証最悪にするなおまえら!!)

(アタシで遊んであげよっか~?)

(死んでろブス!!)

(ブスって言われたあああ)

「そのくらいにしておかないと、キューリちゃんがこわ~い顔してるぞ」

 ルーファスの一言に、ザカリーとマリオンの悪態がピタリと止む。

 ふうっ、とため息をつくと、キュッリッキは膝の上の皿を見つめた。

「ザカリーの怪我、アルカネットさんの仕業なんでしょ」
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