片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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初恋の予感編

episode259

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「だから! なんで!! 俺を起こさなかった!!!」

 仰向けに寝たままの姿勢で、拳をベッドにボスボスっと叩きつける。その様子に顔色一つかえず、セヴェリは深く頭を下げた。

「リッキーがわざわざ俺のために見舞いにきてくれていたというのに、話も出来なかったとは。労ってやれなかったし、可哀想なことをした」

「とは言いましても、熱を出されていたんですから、しょうがないじゃありませんか」

 ヴィヒトリが肩をすくめながらツッコむ。熱を出すほうが悪い、と言外に露骨に漂わせながら。

 すまし顔のセヴェリと、呆れ顔のヴィヒトリを交互にみやり、ベルトルドは憤然と鼻息を吐き出した。

 さきほど目を覚まし、キュッリッキが回復もまだの身体をおしてまで、健気に見舞いに訪れていた事実を聞かされて、たいそうご立腹状態だった。

 いくら熱を出していたとはいえ、誰も起こしてくれなかった。当然のこととはいえ、そのことで機嫌を損ねている。拗ねまくりだ。

 あまりの剣幕に、部屋付きの看護師が恐れおののいて、帰ろうとしていたヴィヒトリに泣きついてきた有様だ。

 今は離れ離れで会えない身――たった1週間だが――つもる話もあるし、とにかく会いたい。抱きしめてやりたい、頬ずりしたい。ああしたいこうしたいと、底の見えないほどの欲求で、ベルトルドは頭がどうにかなりそうだった。

 無理をしてまで会いに来たということは、キュッリッキの頭の中は、ベルトルドのことでいっぱい。いっときでも離れ離れになっていることに、耐えられないほど寂しがっているのだ。

 キュッリッキの愛は、もうベルトルドにしか向いていない!

(うむ、絶対そうにチガイナイ! 俺を案じ、俺を求め、俺が欲しくて濡らしているだろう!!)

 ベルトルドは拳をグッと握り締め、天井をキリッと睨んだ。

(あの桜貝色の可憐な唇を、息が苦しくなるほど貪り、甘く甘く慰めてやりたい。ああ…早く、早く帰りたいぞっ)

 ヴィヒトリは眼鏡をクイッと押し上げ、トリップしているベルトルドをじとーっと見つめた。

(絶対、よからぬ妄想に浸ってるんだろうなあ…。十中八九、キュッリッキちゃんオカズにされてる)

 大当たりだ。

「ああ、それとだな、この鬱陶しいまでの花を撤去しろ。ただし、リッキーの持ってきたバラだけは、残しておけよ」

 突如セヴェリに顔を向けて、ベルトルドは手をパタパタとさせた。

 今すぐ切花店が開けるだけの、大量の花々に埋もれた部屋を嫌そうに一瞥して、ベルトルドは眉を顰めた。花の色々な香りがむせ返りすぎて、逆に気分が悪い。

 毎日どこぞの貴婦人やら政治家やら商人からと、届けられる見舞いの花々である。

 ベルトルドが入院した日と翌日は、ハーメンリンナの花屋のすべての切花が売り切れる有様だった。ハーメンリンナの数件の花屋だけでは足らず、イララクス中の花屋から、花が消えた日でもある。

 皇都中の花がこの一室に集まっている状態なのだから、それは凄まじいほどの花の匂いだろう。入りきらなかった花もある。

 セヴェリもこれにはさすがに辟易していたので、快く応じてさっそく作業に取り掛かった。

 キュッリッキが持ってきたバラの花を見て、ベルトルドの表情が自然と和んだ。

 無理をしてまで自分に会いに来たキュッリッキの真心を思うと、寝ていたことが心底悔やまれてならない。

(今頃どうしているだろうか。もう寝ているか、それともまだ起きているかな)

 日中たっぷりと睡眠をとったせいで、目が冴え渡っているベルトルドだった。
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