262 / 882
初恋の予感編
episode259
しおりを挟む
「だから! なんで!! 俺を起こさなかった!!!」
仰向けに寝たままの姿勢で、拳をベッドにボスボスっと叩きつける。その様子に顔色一つかえず、セヴェリは深く頭を下げた。
「リッキーがわざわざ俺のために見舞いにきてくれていたというのに、話も出来なかったとは。労ってやれなかったし、可哀想なことをした」
「とは言いましても、熱を出されていたんですから、しょうがないじゃありませんか」
ヴィヒトリが肩をすくめながらツッコむ。熱を出すほうが悪い、と言外に露骨に漂わせながら。
すまし顔のセヴェリと、呆れ顔のヴィヒトリを交互にみやり、ベルトルドは憤然と鼻息を吐き出した。
さきほど目を覚まし、キュッリッキが回復もまだの身体をおしてまで、健気に見舞いに訪れていた事実を聞かされて、たいそうご立腹状態だった。
いくら熱を出していたとはいえ、誰も起こしてくれなかった。当然のこととはいえ、そのことで機嫌を損ねている。拗ねまくりだ。
あまりの剣幕に、部屋付きの看護師が恐れおののいて、帰ろうとしていたヴィヒトリに泣きついてきた有様だ。
今は離れ離れで会えない身――たった1週間だが――つもる話もあるし、とにかく会いたい。抱きしめてやりたい、頬ずりしたい。ああしたいこうしたいと、底の見えないほどの欲求で、ベルトルドは頭がどうにかなりそうだった。
無理をしてまで会いに来たということは、キュッリッキの頭の中は、ベルトルドのことでいっぱい。いっときでも離れ離れになっていることに、耐えられないほど寂しがっているのだ。
キュッリッキの愛は、もうベルトルドにしか向いていない!
(うむ、絶対そうにチガイナイ! 俺を案じ、俺を求め、俺が欲しくて濡らしているだろう!!)
ベルトルドは拳をグッと握り締め、天井をキリッと睨んだ。
(あの桜貝色の可憐な唇を、息が苦しくなるほど貪り、甘く甘く慰めてやりたい。ああ…早く、早く帰りたいぞっ)
ヴィヒトリは眼鏡をクイッと押し上げ、トリップしているベルトルドをじとーっと見つめた。
(絶対、よからぬ妄想に浸ってるんだろうなあ…。十中八九、キュッリッキちゃんオカズにされてる)
大当たりだ。
「ああ、それとだな、この鬱陶しいまでの花を撤去しろ。ただし、リッキーの持ってきたバラだけは、残しておけよ」
突如セヴェリに顔を向けて、ベルトルドは手をパタパタとさせた。
今すぐ切花店が開けるだけの、大量の花々に埋もれた部屋を嫌そうに一瞥して、ベルトルドは眉を顰めた。花の色々な香りがむせ返りすぎて、逆に気分が悪い。
毎日どこぞの貴婦人やら政治家やら商人からと、届けられる見舞いの花々である。
ベルトルドが入院した日と翌日は、ハーメンリンナの花屋のすべての切花が売り切れる有様だった。ハーメンリンナの数件の花屋だけでは足らず、イララクス中の花屋から、花が消えた日でもある。
皇都中の花がこの一室に集まっている状態なのだから、それは凄まじいほどの花の匂いだろう。入りきらなかった花もある。
セヴェリもこれにはさすがに辟易していたので、快く応じてさっそく作業に取り掛かった。
キュッリッキが持ってきたバラの花を見て、ベルトルドの表情が自然と和んだ。
無理をしてまで自分に会いに来たキュッリッキの真心を思うと、寝ていたことが心底悔やまれてならない。
(今頃どうしているだろうか。もう寝ているか、それともまだ起きているかな)
日中たっぷりと睡眠をとったせいで、目が冴え渡っているベルトルドだった。
仰向けに寝たままの姿勢で、拳をベッドにボスボスっと叩きつける。その様子に顔色一つかえず、セヴェリは深く頭を下げた。
「リッキーがわざわざ俺のために見舞いにきてくれていたというのに、話も出来なかったとは。労ってやれなかったし、可哀想なことをした」
「とは言いましても、熱を出されていたんですから、しょうがないじゃありませんか」
ヴィヒトリが肩をすくめながらツッコむ。熱を出すほうが悪い、と言外に露骨に漂わせながら。
すまし顔のセヴェリと、呆れ顔のヴィヒトリを交互にみやり、ベルトルドは憤然と鼻息を吐き出した。
さきほど目を覚まし、キュッリッキが回復もまだの身体をおしてまで、健気に見舞いに訪れていた事実を聞かされて、たいそうご立腹状態だった。
いくら熱を出していたとはいえ、誰も起こしてくれなかった。当然のこととはいえ、そのことで機嫌を損ねている。拗ねまくりだ。
あまりの剣幕に、部屋付きの看護師が恐れおののいて、帰ろうとしていたヴィヒトリに泣きついてきた有様だ。
今は離れ離れで会えない身――たった1週間だが――つもる話もあるし、とにかく会いたい。抱きしめてやりたい、頬ずりしたい。ああしたいこうしたいと、底の見えないほどの欲求で、ベルトルドは頭がどうにかなりそうだった。
無理をしてまで会いに来たということは、キュッリッキの頭の中は、ベルトルドのことでいっぱい。いっときでも離れ離れになっていることに、耐えられないほど寂しがっているのだ。
キュッリッキの愛は、もうベルトルドにしか向いていない!
(うむ、絶対そうにチガイナイ! 俺を案じ、俺を求め、俺が欲しくて濡らしているだろう!!)
ベルトルドは拳をグッと握り締め、天井をキリッと睨んだ。
(あの桜貝色の可憐な唇を、息が苦しくなるほど貪り、甘く甘く慰めてやりたい。ああ…早く、早く帰りたいぞっ)
ヴィヒトリは眼鏡をクイッと押し上げ、トリップしているベルトルドをじとーっと見つめた。
(絶対、よからぬ妄想に浸ってるんだろうなあ…。十中八九、キュッリッキちゃんオカズにされてる)
大当たりだ。
「ああ、それとだな、この鬱陶しいまでの花を撤去しろ。ただし、リッキーの持ってきたバラだけは、残しておけよ」
突如セヴェリに顔を向けて、ベルトルドは手をパタパタとさせた。
今すぐ切花店が開けるだけの、大量の花々に埋もれた部屋を嫌そうに一瞥して、ベルトルドは眉を顰めた。花の色々な香りがむせ返りすぎて、逆に気分が悪い。
毎日どこぞの貴婦人やら政治家やら商人からと、届けられる見舞いの花々である。
ベルトルドが入院した日と翌日は、ハーメンリンナの花屋のすべての切花が売り切れる有様だった。ハーメンリンナの数件の花屋だけでは足らず、イララクス中の花屋から、花が消えた日でもある。
皇都中の花がこの一室に集まっている状態なのだから、それは凄まじいほどの花の匂いだろう。入りきらなかった花もある。
セヴェリもこれにはさすがに辟易していたので、快く応じてさっそく作業に取り掛かった。
キュッリッキが持ってきたバラの花を見て、ベルトルドの表情が自然と和んだ。
無理をしてまで自分に会いに来たキュッリッキの真心を思うと、寝ていたことが心底悔やまれてならない。
(今頃どうしているだろうか。もう寝ているか、それともまだ起きているかな)
日中たっぷりと睡眠をとったせいで、目が冴え渡っているベルトルドだった。
0
お気に入りに追加
151
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる