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初恋の予感編
episode245
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「なんだか怒ってる感じがするから…、ちょっと怖い、かも」
「あ……」
メルヴィンは咄嗟に顔に手をあてると、頬を軽く叩く。
「すみません、考え事をしていたから」
そう言って苦笑を浮かべる。
「考え事?」
「……あなたのことを、考えていました」
「アタシのこと?」
キュッリッキは思わずドキリとした。
何を考えてくれていたんだろう。それを思うと、心が妙にザワザワとして、でも、嬉しさがこみ上げてきた。
目を見張って見つめてくるキュッリッキから目をそらし、メルヴィンは再び膝に視線を落とした。
「もっと、頼ってほしいなと…、思ってるんです」
穏やかな口調だが、どことなく拗ねた響きがある。実際メルヴィンは拗ねていた。
その言葉に、キュッリッキは萎れたように目を伏せた。
毎日のように、遠まわしに問われている。夜中、何があったのかと。
メルヴィンの気持ちは、痛いほど感じている。こんなにも真剣に、心配してくれているのだ。それが判っているのに、本当のことを話す勇気が、まだ出せないでいた。
ベルトルドとアルカネットは、あらかじめ自分のことを知っていた。それでいて、惜しみない愛情を注いでくれる。だから全てを、包み隠さずさらけ出すことができた。
でもメルヴィンは何も知らない。過去のことも、自分がアイオン族であることも。そして、片方しかない翼のことも。
もしこれらのことを話せば、彼はどう思うのだろうか。
ライオン傭兵団の中では、メルヴィンが一番話しやすい。優しくて格好良いし、一緒に居て嫌じゃない。それでも全面的に信用するのは、まだ無理だった。
隠していることを全部打ち明けたら、優しくなくなるかもしれない。そして嫌われるかもしれない。
メルヴィンに嫌われるのは、絶対イヤだった。それで話すことが怖い。そのことがかえって、メルヴィンにはいらぬ心配をかけさせていることも判っているのだ。
(もっとメルヴィンのことが判れば、話すこと出来るの、かな…)
それもあるだろう。しかし、
(嫌われちゃっても、平気でいられるくらい、アタシが強くなれば大丈夫なのかもしれない)
きっと、後者のほうだろうと、キュッリッキの心は判っていた。
人のせいにしないで、自分が強くさえあれば、堂々と話せるはずだ。今すぐには無理だけど。
キュッリッキは左手をシーツの中から出すと、メルヴィンにそっと伸ばした。
自分に伸ばされた細い手に気づいて、そっと両掌で包み込む。この2週間で一回り小さくなった頼りなげな手が、ほのかに温かい。
「アタシね、昔、イヤなことがいっぱいあったの。それをずっと、思い出さないようにしていたのね。でも最近、毎日夢に見て、思い出しちゃって…」
そのことで夜中に泣いたりしているのだと、暗に告げた。
「でね、もうちょっとだけ時間くれる? メルヴィンにもルーさんにも、傭兵団のみんなにも、ちゃんと話すから。話せる勇気が持てたら、絶対に話すから」
必死に言うその顔を見て、メルヴィンは表情を和ませた。
「はい。勇気が出るまで、待っています」
「ありがと」
キュッリッキはホッとしたように微笑んだ。
「あ……」
メルヴィンは咄嗟に顔に手をあてると、頬を軽く叩く。
「すみません、考え事をしていたから」
そう言って苦笑を浮かべる。
「考え事?」
「……あなたのことを、考えていました」
「アタシのこと?」
キュッリッキは思わずドキリとした。
何を考えてくれていたんだろう。それを思うと、心が妙にザワザワとして、でも、嬉しさがこみ上げてきた。
目を見張って見つめてくるキュッリッキから目をそらし、メルヴィンは再び膝に視線を落とした。
「もっと、頼ってほしいなと…、思ってるんです」
穏やかな口調だが、どことなく拗ねた響きがある。実際メルヴィンは拗ねていた。
その言葉に、キュッリッキは萎れたように目を伏せた。
毎日のように、遠まわしに問われている。夜中、何があったのかと。
メルヴィンの気持ちは、痛いほど感じている。こんなにも真剣に、心配してくれているのだ。それが判っているのに、本当のことを話す勇気が、まだ出せないでいた。
ベルトルドとアルカネットは、あらかじめ自分のことを知っていた。それでいて、惜しみない愛情を注いでくれる。だから全てを、包み隠さずさらけ出すことができた。
でもメルヴィンは何も知らない。過去のことも、自分がアイオン族であることも。そして、片方しかない翼のことも。
もしこれらのことを話せば、彼はどう思うのだろうか。
ライオン傭兵団の中では、メルヴィンが一番話しやすい。優しくて格好良いし、一緒に居て嫌じゃない。それでも全面的に信用するのは、まだ無理だった。
隠していることを全部打ち明けたら、優しくなくなるかもしれない。そして嫌われるかもしれない。
メルヴィンに嫌われるのは、絶対イヤだった。それで話すことが怖い。そのことがかえって、メルヴィンにはいらぬ心配をかけさせていることも判っているのだ。
(もっとメルヴィンのことが判れば、話すこと出来るの、かな…)
それもあるだろう。しかし、
(嫌われちゃっても、平気でいられるくらい、アタシが強くなれば大丈夫なのかもしれない)
きっと、後者のほうだろうと、キュッリッキの心は判っていた。
人のせいにしないで、自分が強くさえあれば、堂々と話せるはずだ。今すぐには無理だけど。
キュッリッキは左手をシーツの中から出すと、メルヴィンにそっと伸ばした。
自分に伸ばされた細い手に気づいて、そっと両掌で包み込む。この2週間で一回り小さくなった頼りなげな手が、ほのかに温かい。
「アタシね、昔、イヤなことがいっぱいあったの。それをずっと、思い出さないようにしていたのね。でも最近、毎日夢に見て、思い出しちゃって…」
そのことで夜中に泣いたりしているのだと、暗に告げた。
「でね、もうちょっとだけ時間くれる? メルヴィンにもルーさんにも、傭兵団のみんなにも、ちゃんと話すから。話せる勇気が持てたら、絶対に話すから」
必死に言うその顔を見て、メルヴィンは表情を和ませた。
「はい。勇気が出るまで、待っています」
「ありがと」
キュッリッキはホッとしたように微笑んだ。
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