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記憶の残滓編
episode228
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まだ着替えも済んでいないが、ベルトルドはキュッリッキの左側に寝転がり、肘枕をしてキュッリッキのほうに身体を向けた。
「アルカネットの奴はまだ帰ってこれないから、リッキーを独り占め出来るゾ」
フフンッと悪巧みをしているような笑みを浮かべるベルトルドに、キュッリッキは苦笑する。ベルトルドとアルカネットは、普段は主従のような体裁を取っているが、実際はもっと同等のような感じなのだ。不思議な関係、とキュッリッキは常々思っていた。
「ねえベルトルドさん、アタシとなんのお話をするの?」
ベルトルドのほうへ顔を向け、困ったように言う。いきなり話をしようと言われても、何を話せば良いのか判らない。
「俺に聞いて欲しいことでも、聞いてみたいことでも、なんでも構わんぞ」
優しく微笑むベルトルドの顔を見つめ、少し考え込んだ。
「うんと…」
やや言いづらそうに発して、視線を泳がせる。
「あのね、毎日メルヴィンが、いっぱい心配してくれるの」
「うん」
「アタシがいつも、泣いたあとの顔をしているから、どうしたのって、聞いてくるのね」
「うん」
「メルヴィンが興味本位で聞いてきてるわけじゃないのは、アタシも判るの。すごく心配してるって判るから、だから、理由を話さなきゃって思うんだけど…。でも、話したくないのね…」
夜中に辛い思い出を夢に見たり、思い出して荒れているコトなどを話せば、自分の過去についても、話さなくてはいけなくなるだろう。それを思うと心が重くなって、話すことができない。
(ヤレヤレ、相変わらず直情過ぎるな、メルヴィンの奴)
今のキュッリッキに直球は酷である。変化球を投げられても困るが、メルヴィンの青臭すぎる一面に、呆れるベルトルドだった。
「アイツはせっかちだからなあ。相手を思ってのことでも、時に逆効果にしかなっていない。リッキーをこんなに困らせてしょうのない」
明かりに照らされる、濃淡に輝く金色の髪を撫でながら、ベルトルドは苦笑を浮かべた。
「でもね、何時か話さなきゃいけない時がくると思うの。あんなにいっぱい心配してくれるから。だけど、打ち明ける勇気が出ないの」
美しい顔を悲しさに沈める少女の頬に、ベルトルドはそっと触れた。
「確かにアイツは真面目に心配しているだろう。だが、無理に話す必要はないぞ。まだまだリッキーの心の傷は癒えてない。それを自ら抉り出すようなコトは、絶対にしちゃダメだよ。今話したところで、アイツでは支えきれないし、その覚悟も出来てないからな」
「うん…」
「話さなくてはならない、そうリッキーが思うのなら、いつか話してやればいい。少なくとも、今じゃない。誰だって心の中の問題を打ち明けるのは勇気がいる。だから、心の整理がついて、話せると確信した時に、話してやればイイ」
「うん、そうだね」
たとえメルヴィンが真摯に向き合おうとしてくれていても、話す勇気は出ない。ベルトルドとアルカネットにも、自分の口からは、まだまだ少しずつしか話せていないのだ。
片翼であること、それによって両親から捨てられたこと。迫害を受け続けてきたことなど、思い起こすと涙が溢れて止まらない。
この1週間、夢に見て思い出し、ベルトルドとアルカネットに感情をぶつけ続けている。泣き喚き、怒り任せに暴言を吐きつけたりしていた。そのせいか、ほんのちょっぴり、心が軽くなった気がするのだ。
それこそがベルトルドの狙いであることを、キュッリッキは知らなかった。
「アルカネットの奴はまだ帰ってこれないから、リッキーを独り占め出来るゾ」
フフンッと悪巧みをしているような笑みを浮かべるベルトルドに、キュッリッキは苦笑する。ベルトルドとアルカネットは、普段は主従のような体裁を取っているが、実際はもっと同等のような感じなのだ。不思議な関係、とキュッリッキは常々思っていた。
「ねえベルトルドさん、アタシとなんのお話をするの?」
ベルトルドのほうへ顔を向け、困ったように言う。いきなり話をしようと言われても、何を話せば良いのか判らない。
「俺に聞いて欲しいことでも、聞いてみたいことでも、なんでも構わんぞ」
優しく微笑むベルトルドの顔を見つめ、少し考え込んだ。
「うんと…」
やや言いづらそうに発して、視線を泳がせる。
「あのね、毎日メルヴィンが、いっぱい心配してくれるの」
「うん」
「アタシがいつも、泣いたあとの顔をしているから、どうしたのって、聞いてくるのね」
「うん」
「メルヴィンが興味本位で聞いてきてるわけじゃないのは、アタシも判るの。すごく心配してるって判るから、だから、理由を話さなきゃって思うんだけど…。でも、話したくないのね…」
夜中に辛い思い出を夢に見たり、思い出して荒れているコトなどを話せば、自分の過去についても、話さなくてはいけなくなるだろう。それを思うと心が重くなって、話すことができない。
(ヤレヤレ、相変わらず直情過ぎるな、メルヴィンの奴)
今のキュッリッキに直球は酷である。変化球を投げられても困るが、メルヴィンの青臭すぎる一面に、呆れるベルトルドだった。
「アイツはせっかちだからなあ。相手を思ってのことでも、時に逆効果にしかなっていない。リッキーをこんなに困らせてしょうのない」
明かりに照らされる、濃淡に輝く金色の髪を撫でながら、ベルトルドは苦笑を浮かべた。
「でもね、何時か話さなきゃいけない時がくると思うの。あんなにいっぱい心配してくれるから。だけど、打ち明ける勇気が出ないの」
美しい顔を悲しさに沈める少女の頬に、ベルトルドはそっと触れた。
「確かにアイツは真面目に心配しているだろう。だが、無理に話す必要はないぞ。まだまだリッキーの心の傷は癒えてない。それを自ら抉り出すようなコトは、絶対にしちゃダメだよ。今話したところで、アイツでは支えきれないし、その覚悟も出来てないからな」
「うん…」
「話さなくてはならない、そうリッキーが思うのなら、いつか話してやればいい。少なくとも、今じゃない。誰だって心の中の問題を打ち明けるのは勇気がいる。だから、心の整理がついて、話せると確信した時に、話してやればイイ」
「うん、そうだね」
たとえメルヴィンが真摯に向き合おうとしてくれていても、話す勇気は出ない。ベルトルドとアルカネットにも、自分の口からは、まだまだ少しずつしか話せていないのだ。
片翼であること、それによって両親から捨てられたこと。迫害を受け続けてきたことなど、思い起こすと涙が溢れて止まらない。
この1週間、夢に見て思い出し、ベルトルドとアルカネットに感情をぶつけ続けている。泣き喚き、怒り任せに暴言を吐きつけたりしていた。そのせいか、ほんのちょっぴり、心が軽くなった気がするのだ。
それこそがベルトルドの狙いであることを、キュッリッキは知らなかった。
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