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記憶の残滓編
episode217
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翌朝目が覚めると、ベルトルドとアルカネットは部屋にいなかった。時計を見ると、7時を少し過ぎている。6時には目を覚ますキュッリッキにしてみたら、ちょっと寝坊だった。
何度か目を瞬かせていると、頭もスッキリしてきて、昨夜のことを色々と思い出していた。
こんな自分を愛してくれたベルトルドとアルカネット。これからは、もう寂しい思いをしなくていい。そして、ベルトルドとアルカネットの2人には、何も隠し事をしなくても大丈夫。辛いことも悲しかったことも、全部打ち明けられる。それにライオン傭兵団にもずっと居られるし、居場所を失うこともない。
「アタシ、もう独りじゃない。ベルトルドさんと、アルカネットさんと、ライオン傭兵団のみんなと一緒なんだ」
エヘッとキュッリッキは弾んだ声を出して笑った。
急に世界が開けたような気がして、怪我などしていなければ、飛び上がって踊りだしそうな気分である。
それは他人から見れば、ささやかで小さな幸せなのかもしれない。でもキュッリッキには何ものにも代え難い、大きな幸せを掴んだ気持ちで心がいっぱいに満たされていた。
ベルトルドは着替えが下手だった。脱ぐのは得意だが、軍服や着こなしが必要な衣服を身につけると、見事に着崩れてしまう。意図的にそうしているわけではなく、天然で崩れるのだ。
そのため着替えに時間がかかるので、ベッドにしがみついて起きようともしないベルトルドを、アルカネットは魔法で引き剥がし、ベルトルドの部屋へと連れてきていた。
寝ぼけ眼をこすりながら、ベルトルドは軍服を着る作業に取り掛かる。アルカネットがテーブルの上に順番に並べていたので、それを着るだけなのだが。
「どうしてアナタは、毎日同じ作業をしていて、上達しないのでしょうね…」
「人間誰しも得意不得意はあるもんだ。それに、俺は脱ぐのは得意だぞ。あと女の服を脱がすのも大得意だ!」
フフンッと偉そうに笑う。
「そうでしょうとも。あれだけ御乱行していれば。素っ裸で帰ってくることも多かったですしね」
「…もう俺は、女遊びは辞めたんだ!」
「別に辞めなくてもいいのですよ? お好きなだけ女を取っ替え引っ替えして遊んでいればいいのです。リッキーさんには私がいますから、安心してくださいな」
「余計安心出来るかっ!」
ようやく軍服を全て身に付け、鏡の前に立つ。
雑に着たベルトルドの軍服を直しながら、アルカネットはホッとした表情で言った。
「それにしても、リッキーさんの心を救ってあげることができて、本当に良かったですよ」
「まだだぞ」
「え?」
真顔になるベルトルドの顔を見つめ、アルカネットは首をかしげる。
「救ってあげられたのは、まだほんの表面だけだ。本当の意味で救うことになるのは、これからだ」
「確かに、言葉にして伝えただけに過ぎませんが…。まだ何か、彼女の心に問題があるのですか?」
「お前にも見せただろう、リッキーの過去を。俺たちが考える以上に、リッキーの心の傷は深いんだ。愛を伝えただけで、そう簡単に癒せるほど軽いものじゃない。お前も本気でリッキーを愛しているなら、覚悟しておけよ」
眉間を寄せたアルカネットに、ベルトルドは頷いた。
「俺たちは、愛という鍵を使って、リッキーが忘れようとしていたものを収めた心の奥底の扉を、無理やりこじ開けてしまったんだからな」
何度か目を瞬かせていると、頭もスッキリしてきて、昨夜のことを色々と思い出していた。
こんな自分を愛してくれたベルトルドとアルカネット。これからは、もう寂しい思いをしなくていい。そして、ベルトルドとアルカネットの2人には、何も隠し事をしなくても大丈夫。辛いことも悲しかったことも、全部打ち明けられる。それにライオン傭兵団にもずっと居られるし、居場所を失うこともない。
「アタシ、もう独りじゃない。ベルトルドさんと、アルカネットさんと、ライオン傭兵団のみんなと一緒なんだ」
エヘッとキュッリッキは弾んだ声を出して笑った。
急に世界が開けたような気がして、怪我などしていなければ、飛び上がって踊りだしそうな気分である。
それは他人から見れば、ささやかで小さな幸せなのかもしれない。でもキュッリッキには何ものにも代え難い、大きな幸せを掴んだ気持ちで心がいっぱいに満たされていた。
ベルトルドは着替えが下手だった。脱ぐのは得意だが、軍服や着こなしが必要な衣服を身につけると、見事に着崩れてしまう。意図的にそうしているわけではなく、天然で崩れるのだ。
そのため着替えに時間がかかるので、ベッドにしがみついて起きようともしないベルトルドを、アルカネットは魔法で引き剥がし、ベルトルドの部屋へと連れてきていた。
寝ぼけ眼をこすりながら、ベルトルドは軍服を着る作業に取り掛かる。アルカネットがテーブルの上に順番に並べていたので、それを着るだけなのだが。
「どうしてアナタは、毎日同じ作業をしていて、上達しないのでしょうね…」
「人間誰しも得意不得意はあるもんだ。それに、俺は脱ぐのは得意だぞ。あと女の服を脱がすのも大得意だ!」
フフンッと偉そうに笑う。
「そうでしょうとも。あれだけ御乱行していれば。素っ裸で帰ってくることも多かったですしね」
「…もう俺は、女遊びは辞めたんだ!」
「別に辞めなくてもいいのですよ? お好きなだけ女を取っ替え引っ替えして遊んでいればいいのです。リッキーさんには私がいますから、安心してくださいな」
「余計安心出来るかっ!」
ようやく軍服を全て身に付け、鏡の前に立つ。
雑に着たベルトルドの軍服を直しながら、アルカネットはホッとした表情で言った。
「それにしても、リッキーさんの心を救ってあげることができて、本当に良かったですよ」
「まだだぞ」
「え?」
真顔になるベルトルドの顔を見つめ、アルカネットは首をかしげる。
「救ってあげられたのは、まだほんの表面だけだ。本当の意味で救うことになるのは、これからだ」
「確かに、言葉にして伝えただけに過ぎませんが…。まだ何か、彼女の心に問題があるのですか?」
「お前にも見せただろう、リッキーの過去を。俺たちが考える以上に、リッキーの心の傷は深いんだ。愛を伝えただけで、そう簡単に癒せるほど軽いものじゃない。お前も本気でリッキーを愛しているなら、覚悟しておけよ」
眉間を寄せたアルカネットに、ベルトルドは頷いた。
「俺たちは、愛という鍵を使って、リッキーが忘れようとしていたものを収めた心の奥底の扉を、無理やりこじ開けてしまったんだからな」
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