片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
219 / 882
記憶の残滓編

episode216

しおりを挟む
 泣きつかれていたのもあり、ウトウトしていると、賑やかな言い合いをしながら、ベルトルドとアルカネットが寝間着に着替えて戻ってきた。

 2人は張り合うようにしてベッドまでくると、いきなりジャンケンを始めた。真剣、かつ睨み合いながら、赤いオーラのようなものが見えて、キュッリッキは目を見張る。

「絶対に負けんぞ!」

「ふんっ。せいぜいサイ《超能力》でも駆使なさるがいいでしょう」

「お前ごときにサイ《超能力》など必要ないわっ!!」

 せーのっ! と元気よく2人は掛け声を合わすと、あいこを5回繰り返して、勝負はアルカネットの勝ち。悔しそうにベルトルドが地団駄を踏んだ。

「きいいいいいいいいいいいっ」

「これも愛の差というもの」

 目を瞬かせながら、一体何事だと二人を見上げていると、

「リッキーさんの左右どちら側で寝るか、決めていたのですよ」

 にっこりとアルカネットが説明する。

「……」

 つまり、2人とも一緒に寝るのか。

(こ…これも、愛なの、かな…)

 ここに愛について講義する人がいれば、これも一種の愛だと言うだろう。しかし愛を知った初日に、この2人の行動を理解するのは、まだまだ難しかった。キュッリッキからしてみたら、単に張り合っているだけにしか見えないのだ。

 キュッリッキを真ん中に挟んで、左側にアルカネット、右側にベルトルドが寝た。そしてこの争奪戦に参戦したフェンリルは、キュッリッキの腹の上に丸くなった。まさか2人が腹の上で寝るという暴挙に出るわけにもいかないので、勝負はフェンリルの勝ちだろう。フェンリルは勝ち誇って、尻尾をパタリと振った。それを見て、ベルトルドとアルカネットはこめかみをヒクつかせる。

「おのれ犬…」

「生意気ですね…」

 キュッリッキの右上半身は、怪物に切り裂かれて大怪我を負っている。そのため包帯でキツく縛られ、身動きがとれない。更に、触れると痛がるから、少し距離を置かないといけない。

 ピッタリとくっついて寝たい2人は、それで左右どちらで寝るかを決めていたのだ。

「おいアルカネット、お前くっつきすぎだろ!」

「別にいいじゃありませんか。ね、リッキーさん」

「……えっと」

 今はまだ身体が動かせないからあまり関係なかったが、実はこの無駄に広いベッドが気に入っている。怪我が治って身体が自由に動かせたら、寝相を気にせず思う存分寝転がりたいと思っていた。

(怪我が治っても、このまま一緒に寝るのかなあ…)

 ベルトルドもアルカネットも、横になりながら頭を上げて、何やら言い合いを続けている。先程までの感動は、もはや時間とともに過去に消え去っていた。

「アタシ、眠いからもう寝るの。おやすみなさい」

 呆れたような声で言われて、ベルトルドとアルカネットは黙り込むと、泣きそうな顔をキュッリッキに向けた。しかしキュッリッキは、呆れ顔のまま目を閉じて取り合ってくれない。

 お互い顔を見合わせ溜息をつくと、同時にキュッリッキの頬にキスをして、おとなしく眠りに就いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

処理中です...