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記憶の残滓編
episode200
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そろそろ8時になろうかという頃、ノックがして、ゾロゾロと女性たちが入ってきた。
「お目覚めでございますか? おはようございます、お嬢様」
「おはようございます」
初老に差し掛かった風貌の女性と、まだ20代くらいの女性たちが数名、キュッリッキに向かって朝の挨拶をした。
「お、おはよう…」
きょとんっとした表情で、キュッリッキはぎこちなく挨拶を返す。
(お嬢様って……アタシのこと?)
「ご気分は如何でしょうか。どこか、お苦しいところなど、ございませんか?」
慇懃に訊ねられて、キュッリッキは小さく首を振る。
「ドコも苦しくないよ」
「それは、ようございました」
老婦人はニッコリと微笑んだ。
「わたくしは、この屋敷でハウスキーパーをつとめております、リトヴァと申します。今日からお嬢様の、お身の回りのお世話をさせていただきます」
そういって、丁寧に頭を下げた。
「後ろにおりますメイドたちも、共にお世話をさせていただく者たちです。どうぞ、なんなりとお申し付けくださいね」
メイドたちも、ひとり一人名乗りながら頭を下げた。
しかしキュッリッキは、文字通り、ぽかーんと口を開けて固まってしまった。その表情を見て、リトヴァが首をかしげる。
「どうかなさいましたか? お嬢様」
「え…、えっと…」
表情とは裏腹に、キュッリッキの頭の中は忙しく回転していた。
(やっぱりアタシがお嬢様って呼ばれてる、なんでだろう? ココってドコなのかな…。ベルトルドさん隣に寝てたから、もしかしてココって…)
「あ、あの」
「はい」
「あの、ココって、ベルトルドさん…ち?」
おっかなびっくり問うと、リトヴァは明るく笑んだ。
「さようでございます」
身体が元気であれば、飛び上がって驚くところだ。
キュッリッキの驚いた様子に、リトヴァは小さく頷く。
「昨日、お屋敷にいらしたときから、お目覚めになっていなかったのですね。――ここはベルトルド様のお屋敷でございます。そして、このお部屋は、お嬢様のためにご用意されたものでございますよ。お気に召すと良いのですけれど」
「うん、とっても素敵なお部屋だね」
「旦那様もアルカネット様も、お喜びになりますわ。ここは、南棟の2階にあるお部屋でございます。お屋敷の中でも陽当りも風通しもいい、お身体を癒すには最高でございます。旦那様とアルカネット様が、慎重に検討なされてご用意しておりましたから」
語尾がやや小さくなり、リトヴァと背後のメイドたちの表情が、何とも言えないモノになっていて、キュッリッキは首をかしげた。
家具やベッドの配置、インテリアに至るまで、あの2人が喧しいほど注文をつけて、寸分の狂いもなく使用人たちにやらせたということは、キュッリッキは生涯知ることはない。
ハァ、と小さくため息をつくと、リトヴァは「失礼いたします」と言って、キュッリッキの額に触れた。
「お熱の方もすっかり下がっているご様子、お医者様がお見えになる前に、お支度をしてしまいましょうね」
「支度?」
「はい。お身体を拭いて、お着替えを済ませてしまいましょう」
「お目覚めでございますか? おはようございます、お嬢様」
「おはようございます」
初老に差し掛かった風貌の女性と、まだ20代くらいの女性たちが数名、キュッリッキに向かって朝の挨拶をした。
「お、おはよう…」
きょとんっとした表情で、キュッリッキはぎこちなく挨拶を返す。
(お嬢様って……アタシのこと?)
「ご気分は如何でしょうか。どこか、お苦しいところなど、ございませんか?」
慇懃に訊ねられて、キュッリッキは小さく首を振る。
「ドコも苦しくないよ」
「それは、ようございました」
老婦人はニッコリと微笑んだ。
「わたくしは、この屋敷でハウスキーパーをつとめております、リトヴァと申します。今日からお嬢様の、お身の回りのお世話をさせていただきます」
そういって、丁寧に頭を下げた。
「後ろにおりますメイドたちも、共にお世話をさせていただく者たちです。どうぞ、なんなりとお申し付けくださいね」
メイドたちも、ひとり一人名乗りながら頭を下げた。
しかしキュッリッキは、文字通り、ぽかーんと口を開けて固まってしまった。その表情を見て、リトヴァが首をかしげる。
「どうかなさいましたか? お嬢様」
「え…、えっと…」
表情とは裏腹に、キュッリッキの頭の中は忙しく回転していた。
(やっぱりアタシがお嬢様って呼ばれてる、なんでだろう? ココってドコなのかな…。ベルトルドさん隣に寝てたから、もしかしてココって…)
「あ、あの」
「はい」
「あの、ココって、ベルトルドさん…ち?」
おっかなびっくり問うと、リトヴァは明るく笑んだ。
「さようでございます」
身体が元気であれば、飛び上がって驚くところだ。
キュッリッキの驚いた様子に、リトヴァは小さく頷く。
「昨日、お屋敷にいらしたときから、お目覚めになっていなかったのですね。――ここはベルトルド様のお屋敷でございます。そして、このお部屋は、お嬢様のためにご用意されたものでございますよ。お気に召すと良いのですけれど」
「うん、とっても素敵なお部屋だね」
「旦那様もアルカネット様も、お喜びになりますわ。ここは、南棟の2階にあるお部屋でございます。お屋敷の中でも陽当りも風通しもいい、お身体を癒すには最高でございます。旦那様とアルカネット様が、慎重に検討なされてご用意しておりましたから」
語尾がやや小さくなり、リトヴァと背後のメイドたちの表情が、何とも言えないモノになっていて、キュッリッキは首をかしげた。
家具やベッドの配置、インテリアに至るまで、あの2人が喧しいほど注文をつけて、寸分の狂いもなく使用人たちにやらせたということは、キュッリッキは生涯知ることはない。
ハァ、と小さくため息をつくと、リトヴァは「失礼いたします」と言って、キュッリッキの額に触れた。
「お熱の方もすっかり下がっているご様子、お医者様がお見えになる前に、お支度をしてしまいましょうね」
「支度?」
「はい。お身体を拭いて、お着替えを済ませてしまいましょう」
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