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記憶の残滓編
episode194
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「今から行けば、半分くらいは片付きそうです。問答している時間が無駄です。あなたの部屋に行きますよ」
「宰相府の仕事はリュリュに頼んである。別に、普通に出仕すればいいだろう? 俺もまだ寝足りない」
「寝込みを襲おうとしているから寝不足になるのです」
「そうじゃなくってだな…」
「あなた、最近お仕事が増えたことを自覚していないのですか? 宰相府はリュリュに任せておけても、総帥本部でのお仕事は誰が決済するんです」
「あ…」
そういえば、と口パクで言って、呆れているアルカネットの顔を見上げた。
「正規部隊をソレル王国に派兵した、その件でも仕事が溜まっているはずです。今から行けば、半分くらいは片付くでしょう。問答している時間が無駄です」
反論を許さない態度でまくし立てられ、ベルトルドは渋々起き上がる。
「あ、行ってきますのキスを…」
「しなくてよろしい」
ベルトルドはまた耳を掴まれ、グイグイと引きずられながら、キュッリッキの部屋を後にした。
キュッリッキは記憶と言う名の夢の中で、再び過去と向き合っていた。
(こんなの……もう、思い出したくないのに…)
忘れ去ってしまいたい自分の過去。悲しくて、苦しい思い出しかないのに。
どんなに拒絶しようとしても、思い出は容赦なくキュッリッキを襲う。そして再び、辛い思い出がゆっくりと浮き上がっていった。
アイオン族の子供にとって、7歳という歳は特別だ。
7歳になるまでは、背に生えた翼が育ちきれていないため、自ら羽ばたいて飛ぶことが出来ない。その為翼は出しっぱなしになり、翼を構成する骨や膜などが、その間にある程度育つ。そして7歳になると自力で地面すれすれを飛べるようになり、訓練を重ねて自由に飛べるようになる。出し入れも7歳になると自在に可能になった。
7月7日はキュッリッキの誕生日だ。生まれて7年たった今、ようやく翼をしまうことができる。この日をどれほど待ち望んだことだろう。
鏡の前で翼が溶けるように消えていく様を、まじまじと見つめる。
背に生える翼に「消えろ」と念じただけで消えていく。そして「生えろ」と念じると、再び翼は背に生えた。
普通に育っている右の翼と、生まれつき育たない無様な左の翼。どちらも同じように。
「どうせ飛べないんだから、ずっとしまっとこう」
いっそ、なくなっちゃえばいいのに、と思う。
この左の翼が原因で、キュッリッキは両親に捨てられたのだ。そのことは、修道院の子供たちも修道女たちも口にしている。
片翼で親にまで見捨てられた惨めな子、だと。そしていじめられる。
でも、今日から翼のことを気にせずいられる。出していなければいいんだ。見えなくすれば、いつか誰も気にしなくなる。
そう考えると気持ちが少しラクになり、キュッリッキは天気のいい外へ駆け出した。
「宰相府の仕事はリュリュに頼んである。別に、普通に出仕すればいいだろう? 俺もまだ寝足りない」
「寝込みを襲おうとしているから寝不足になるのです」
「そうじゃなくってだな…」
「あなた、最近お仕事が増えたことを自覚していないのですか? 宰相府はリュリュに任せておけても、総帥本部でのお仕事は誰が決済するんです」
「あ…」
そういえば、と口パクで言って、呆れているアルカネットの顔を見上げた。
「正規部隊をソレル王国に派兵した、その件でも仕事が溜まっているはずです。今から行けば、半分くらいは片付くでしょう。問答している時間が無駄です」
反論を許さない態度でまくし立てられ、ベルトルドは渋々起き上がる。
「あ、行ってきますのキスを…」
「しなくてよろしい」
ベルトルドはまた耳を掴まれ、グイグイと引きずられながら、キュッリッキの部屋を後にした。
キュッリッキは記憶と言う名の夢の中で、再び過去と向き合っていた。
(こんなの……もう、思い出したくないのに…)
忘れ去ってしまいたい自分の過去。悲しくて、苦しい思い出しかないのに。
どんなに拒絶しようとしても、思い出は容赦なくキュッリッキを襲う。そして再び、辛い思い出がゆっくりと浮き上がっていった。
アイオン族の子供にとって、7歳という歳は特別だ。
7歳になるまでは、背に生えた翼が育ちきれていないため、自ら羽ばたいて飛ぶことが出来ない。その為翼は出しっぱなしになり、翼を構成する骨や膜などが、その間にある程度育つ。そして7歳になると自力で地面すれすれを飛べるようになり、訓練を重ねて自由に飛べるようになる。出し入れも7歳になると自在に可能になった。
7月7日はキュッリッキの誕生日だ。生まれて7年たった今、ようやく翼をしまうことができる。この日をどれほど待ち望んだことだろう。
鏡の前で翼が溶けるように消えていく様を、まじまじと見つめる。
背に生える翼に「消えろ」と念じただけで消えていく。そして「生えろ」と念じると、再び翼は背に生えた。
普通に育っている右の翼と、生まれつき育たない無様な左の翼。どちらも同じように。
「どうせ飛べないんだから、ずっとしまっとこう」
いっそ、なくなっちゃえばいいのに、と思う。
この左の翼が原因で、キュッリッキは両親に捨てられたのだ。そのことは、修道院の子供たちも修道女たちも口にしている。
片翼で親にまで見捨てられた惨めな子、だと。そしていじめられる。
でも、今日から翼のことを気にせずいられる。出していなければいいんだ。見えなくすれば、いつか誰も気にしなくなる。
そう考えると気持ちが少しラクになり、キュッリッキは天気のいい外へ駆け出した。
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