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混迷の遺跡編
episode177
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エグザイル・システムの台座の前で、ベルトルドは後ろを振り向く。
「ルー、メルヴィン、俺と一緒に飛べ。リッキーと貴様らは、俺の屋敷で当分寝泊りだ」
「えっ」
ルーファスとメルヴィンは顔を見合わせる。
「詳しいことは屋敷に着いたら話す。他はイララクスに着いたら解散だ。それと、ハドリー、ファニー、アルカネットが迷惑をかけたようで、すまなかったな」
「い、いえ」
「あたしたちそんな、別に」
いきなり話しかけられて、2人はビックリする。アルカネットが、というのはザカリーを粛清しようとした、あのことだろう。
「ギルドに寄って行くといい」
「はい」
「判りました」
その時、キュッリッキが僅かに目を開けた。
「リッキー…」
ベルトルドがそっと声をかけると、キュッリッキはゆっくりと瞬いて、ベルトルドを見上げる。
「今からエグザイル・システムで飛ぶ。ほんの少し、我慢するんだぞ」
キュッリッキは小さく頷いて、そして再び目を閉じ意識をなくした。
ベルトルドはほんの一瞬、辛そうに表情を曇らせたが、踵を返して台座に乗る。その後ろ姿を見て、ハドリーはそっと呟く。
「あのひとに任せておけば、リッキーは大丈夫だろうな」
「うん、そうだね」
ハドリーの呟きを受けて、ファニーも同意する。端々に見える、キュッリッキへの優しさと慈しみ。あんな酷い怪我にも負けないくらい、元気にしてくれるだろう。それと同時に、自分たちとは違う遠いところへ行ってしまったような錯覚を覚え、2人は寂しげにキュッリッキを見つめた。
台座にルーファスとメルヴィンが乗ると、
「さあ、帰るぞ!」
そう言って、ベルトルドは皇都イララクスのスイッチを踏んだ。
ベルトルドら帰還御一行がイソラの町を出立すると、アルカネットとシ・アティウスはナルバ山を目指して出発した。
「空を飛ぶと早いですな」
アルカネットの飛行魔法で、2人は宙を飛んで移動していた。
「早めに終わらせて、私もイララクスに戻りたいのですよ」
「ベルトルド様に任せていると、何をされるか判りませんからね…あの召喚士の少女」
「今すぐ飛んで帰りたいです!!」
アルカネットはグッと脇で拳を握った。
2人はベルトルドの命を受けて、ナルバ山の遺跡調査に向かっている。あの遺跡が何なのか、ある程度の見当がついているとシ・アティウスが言ったからだ。
調査だけならシ・アティウスだけで充分だが、ソレル王国兵が舞い戻っている可能性がある。アルカネットはそのための護衛だ。そして案の定ナルバ山にはソレル王国兵の1個小隊が派遣されていたが、これはアルカネットの容赦ない攻撃魔法で一蹴された。
「容赦ないですな」
「手加減する必要もないような雑魚ですしね」
空洞も遺跡の中も真っ暗で、篝にあった燃料は全て燃え尽きており、アルカネットの魔法で作った灯りが柔らかく照らす。
「我々が調査に入った時も、救出され再度訪れた時も、神殿に変化はなかった。しかし突然地震が起こり、神殿の中は変わっていた」
淡々としたシ・アティウスの声が、靴音と共に神殿の中に陰々と響いていた。
「私は実際には見なかったが、醜悪で大きい怪物が現れたらしい。神殿内の構造も作り変わっていたそうだ。それも一瞬にして」
できれば見ておきたかった、とシ・アティウスは付け加えた。それにはアルカネットが厳しい視線を向ける。
シ・アティウスはまるで動じたふうもなかったが、軽く頭を下げた。
数日前の惨劇が嘘のように、神殿の中は縦に長い通路があるのみの、暗い空間に戻っている。
黙々と歩き進み、再奥にあるエグザイル・システムのようなものと称された台座の前に着く。シ・アティウスは台座の表面に手をあて、すっと台座を見上げた。
「間違いないでしょう。これが」
「レディトゥス・システム」
言葉をついで言うと、アルカネットは顎をひいて台座を睨むようにして見上げた。
「ルー、メルヴィン、俺と一緒に飛べ。リッキーと貴様らは、俺の屋敷で当分寝泊りだ」
「えっ」
ルーファスとメルヴィンは顔を見合わせる。
「詳しいことは屋敷に着いたら話す。他はイララクスに着いたら解散だ。それと、ハドリー、ファニー、アルカネットが迷惑をかけたようで、すまなかったな」
「い、いえ」
「あたしたちそんな、別に」
いきなり話しかけられて、2人はビックリする。アルカネットが、というのはザカリーを粛清しようとした、あのことだろう。
「ギルドに寄って行くといい」
「はい」
「判りました」
その時、キュッリッキが僅かに目を開けた。
「リッキー…」
ベルトルドがそっと声をかけると、キュッリッキはゆっくりと瞬いて、ベルトルドを見上げる。
「今からエグザイル・システムで飛ぶ。ほんの少し、我慢するんだぞ」
キュッリッキは小さく頷いて、そして再び目を閉じ意識をなくした。
ベルトルドはほんの一瞬、辛そうに表情を曇らせたが、踵を返して台座に乗る。その後ろ姿を見て、ハドリーはそっと呟く。
「あのひとに任せておけば、リッキーは大丈夫だろうな」
「うん、そうだね」
ハドリーの呟きを受けて、ファニーも同意する。端々に見える、キュッリッキへの優しさと慈しみ。あんな酷い怪我にも負けないくらい、元気にしてくれるだろう。それと同時に、自分たちとは違う遠いところへ行ってしまったような錯覚を覚え、2人は寂しげにキュッリッキを見つめた。
台座にルーファスとメルヴィンが乗ると、
「さあ、帰るぞ!」
そう言って、ベルトルドは皇都イララクスのスイッチを踏んだ。
ベルトルドら帰還御一行がイソラの町を出立すると、アルカネットとシ・アティウスはナルバ山を目指して出発した。
「空を飛ぶと早いですな」
アルカネットの飛行魔法で、2人は宙を飛んで移動していた。
「早めに終わらせて、私もイララクスに戻りたいのですよ」
「ベルトルド様に任せていると、何をされるか判りませんからね…あの召喚士の少女」
「今すぐ飛んで帰りたいです!!」
アルカネットはグッと脇で拳を握った。
2人はベルトルドの命を受けて、ナルバ山の遺跡調査に向かっている。あの遺跡が何なのか、ある程度の見当がついているとシ・アティウスが言ったからだ。
調査だけならシ・アティウスだけで充分だが、ソレル王国兵が舞い戻っている可能性がある。アルカネットはそのための護衛だ。そして案の定ナルバ山にはソレル王国兵の1個小隊が派遣されていたが、これはアルカネットの容赦ない攻撃魔法で一蹴された。
「容赦ないですな」
「手加減する必要もないような雑魚ですしね」
空洞も遺跡の中も真っ暗で、篝にあった燃料は全て燃え尽きており、アルカネットの魔法で作った灯りが柔らかく照らす。
「我々が調査に入った時も、救出され再度訪れた時も、神殿に変化はなかった。しかし突然地震が起こり、神殿の中は変わっていた」
淡々としたシ・アティウスの声が、靴音と共に神殿の中に陰々と響いていた。
「私は実際には見なかったが、醜悪で大きい怪物が現れたらしい。神殿内の構造も作り変わっていたそうだ。それも一瞬にして」
できれば見ておきたかった、とシ・アティウスは付け加えた。それにはアルカネットが厳しい視線を向ける。
シ・アティウスはまるで動じたふうもなかったが、軽く頭を下げた。
数日前の惨劇が嘘のように、神殿の中は縦に長い通路があるのみの、暗い空間に戻っている。
黙々と歩き進み、再奥にあるエグザイル・システムのようなものと称された台座の前に着く。シ・アティウスは台座の表面に手をあて、すっと台座を見上げた。
「間違いないでしょう。これが」
「レディトゥス・システム」
言葉をついで言うと、アルカネットは顎をひいて台座を睨むようにして見上げた。
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