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混迷の遺跡編
episode149
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ザカリーは眠ることができず処置室の前まで来ると、遠慮がちに中を覗いた。キュッリッキの容態が気になってしょうがないのだ。
「キューリは大丈夫だよ」
いきなりランドンに話しかけられ、ザカリーはちょっと驚いてサッと壁に隠れる。
「こっちにきて座りなよ」
笑い含みに促され、少しためらったあと、中に入って隣の椅子に座った。
やっとキュッリッキの姿を見ることができて、ザカリーはグッと息を詰める。
輸血を受けているが、血の気を失った蒼白な面は変わっていない。それでも神殿の中で見たときよりは、多少落ち着いているようにも見えた。
血で汚れた衣服は脱がされ、痛々しすぎる傷をあわらにし、裸の上に軽くシーツがかけられ眠っている。髪の毛は邪魔にならないよう束ねられ、血で汚れていた毛は丁寧に清められていた。おそらくマルヤーナがしてくれたのだろう。
回復魔法で痛みが和らいでいるせいなのか、キュッリッキの表情は落ち着いていた。
「酷い傷、だな…」
「肩から胸の傷も酷いけど、背中も凄く大きな痣になってた。あの怪物に殴られたのかもしれない」
肩にも打撲痕があり、擦り傷もいくつか見られた。
「でもね、ウリヤスさんがきちんと診てくれたけど、内臓類に損傷はないって。それだけは幸いだった。もし内臓類に損傷があったら、もう助からなかったから」
「そうか……」
ホッとした反面、それでもあんな僅かな時間でこれだけの大怪我を負ったのだ。どれほど怖かっただろうか。痛かっただろうに。それを思うとやりきれなかった。
「ごめんな…」
独りごちるように、キュッリッキに向けてザカリーは呟いた。
「俺が怒らせなきゃ、神殿に入ることもなかったんだよな」
あんなふうにからかうんじゃなかった。ほんの些細なことで、こんな事態に発展してしまったのだ。
そう思えば思うほど、短慮だったと自分を責めた。己を責めることしか出来ないことが余計に悔しい。自らを責めたところで、それは自己満足にしか過ぎない。キュッリッキはいまだ生死の境を彷徨っているのだから。
「キューリは死なない」
ボソッとした声でランドンは断言する。
「僕が看てるし、こんな大怪我を負ってもこの子は死ななかった。だから大丈夫」
「……」
いつもは口数の少ないランドンが、慰めるように言った。
ランドンは常に影に徹して、けしてでしゃばらず仲間を支えてくれる。いざという時どれほど頼りになる男だろうとよく思う。
回復魔法を使い続けるだけでも大変な苦労なのに、ザカリーのことまで気遣ってくれる。その気持ちが嬉しく、救われる思いだった。
「ありがとな」
ザカリーは俯いて肩を震わせた。
「キューリは大丈夫だよ」
いきなりランドンに話しかけられ、ザカリーはちょっと驚いてサッと壁に隠れる。
「こっちにきて座りなよ」
笑い含みに促され、少しためらったあと、中に入って隣の椅子に座った。
やっとキュッリッキの姿を見ることができて、ザカリーはグッと息を詰める。
輸血を受けているが、血の気を失った蒼白な面は変わっていない。それでも神殿の中で見たときよりは、多少落ち着いているようにも見えた。
血で汚れた衣服は脱がされ、痛々しすぎる傷をあわらにし、裸の上に軽くシーツがかけられ眠っている。髪の毛は邪魔にならないよう束ねられ、血で汚れていた毛は丁寧に清められていた。おそらくマルヤーナがしてくれたのだろう。
回復魔法で痛みが和らいでいるせいなのか、キュッリッキの表情は落ち着いていた。
「酷い傷、だな…」
「肩から胸の傷も酷いけど、背中も凄く大きな痣になってた。あの怪物に殴られたのかもしれない」
肩にも打撲痕があり、擦り傷もいくつか見られた。
「でもね、ウリヤスさんがきちんと診てくれたけど、内臓類に損傷はないって。それだけは幸いだった。もし内臓類に損傷があったら、もう助からなかったから」
「そうか……」
ホッとした反面、それでもあんな僅かな時間でこれだけの大怪我を負ったのだ。どれほど怖かっただろうか。痛かっただろうに。それを思うとやりきれなかった。
「ごめんな…」
独りごちるように、キュッリッキに向けてザカリーは呟いた。
「俺が怒らせなきゃ、神殿に入ることもなかったんだよな」
あんなふうにからかうんじゃなかった。ほんの些細なことで、こんな事態に発展してしまったのだ。
そう思えば思うほど、短慮だったと自分を責めた。己を責めることしか出来ないことが余計に悔しい。自らを責めたところで、それは自己満足にしか過ぎない。キュッリッキはいまだ生死の境を彷徨っているのだから。
「キューリは死なない」
ボソッとした声でランドンは断言する。
「僕が看てるし、こんな大怪我を負ってもこの子は死ななかった。だから大丈夫」
「……」
いつもは口数の少ないランドンが、慰めるように言った。
ランドンは常に影に徹して、けしてでしゃばらず仲間を支えてくれる。いざという時どれほど頼りになる男だろうとよく思う。
回復魔法を使い続けるだけでも大変な苦労なのに、ザカリーのことまで気遣ってくれる。その気持ちが嬉しく、救われる思いだった。
「ありがとな」
ザカリーは俯いて肩を震わせた。
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