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ナルバ山の遺跡編
episode70
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暗いアーチ状の通路を通り、出口に差し掛かった頃、一瞬の眩しさに手をかざす。
「うわあ…」
ルーファスに手を引かれたキュッリッキは、目の前に広がる光景に目を見開いた。
「すごーい、すごーい! ねえねえ、これは湖? キラキラしてるの!」
「いやいや、水じゃなく、ちゃんとした地面なんだよ」
ルーファスにそう言われて、キュッリッキは改めて目を凝らす。
目の前にはまるで、大きな湖が広がっているようにしか見えない。水のような光沢と輝きを放った、不思議な地面だった。
水のような地面に立ってみせて、カーティスはキュッリッキに笑いかけた。
「水ではなく、ちゃんと地面です。濡れてもいませんよ」
両手を広げておどけてみせる。
ルーファスの腕からそっと離れると、小走りに駆けていって、軽くジャンプして煌く地面を踏みしめてみる。靴底から伝わって来るのは、硬い石の感触だった。
「うわあ、ホントだね~」
ハーメンリンナに入った途端、いつになくキュッリッキは無邪気にはしゃいでいた。疲れなど、いっぺんに吹き飛んでしまったようだ。
あまりにも素直すぎるその反応を見て、二人は顔を見合わせ笑みを浮かべた。かつて自分たちも初めてハーメンリンナを訪れたとき、似たような感想を持って、恐る恐る地面を踏んでみたものだった。
幼い子供のようにはしゃぐキュッリッキを微笑ましく見つめながら、ルーファスはカーティスを見る。
「それにしてもさあ、遅くね?」
「遅いですねえ…。渋滞でもしているんでしょうか、鈍速のくせに」
待ちくたびれたように、ルーファスとカーティスはひたすら東のほうを見つめていた。キュッリッキもつられて東に視線を向けたが、光る地面が煌めいているだけだ。
二人が何を待っているかは判らないが、キュッリッキは早くこの中を探検してみたくてしょうがなかった。
城壁の外側は、キュッリッキには見慣れた街並み。しかし壁を隔てたその中には、不思議な光景が広がっている。
うんと高い壁の内側には、そのぶんだけ大きな影が出来てさぞ暗いだろう、といつも思っていた。しかし外側の街よりも、ずっとずっと明るいのだ。
城壁の内側の壁は、光を弾いて真っ白に光っている。鏡が照り返すよりも、ずっと柔らかい光だった。だから目が痛くなるような眩しさは感じない。その柔らかく明るい光が、城壁の中全体を照らしているので、全然暗くなかった。地面はその光を受けて、煌く水面のような景色を生み出していた。
キュッリッキの立っている位置からは、光る地面以外は、街らしきものは見えない。だだっ広い湖のような広場だけだ。ただ遠方に蜃気楼のような、何かの影のようなものが浮かんで見えていた。
いよいよ退屈な空気が漂い始めた3人のそばに、突如として一隻の無人のゴンドラが、音もなく到着した。
「ああ、ようやくベルトルド卿のゴンドラが迎えにきましたよ。さあさ、これに乗っていきます」
まだ光る地面に関心を寄せているキュッリッキの手をひいて、ルーファスとカーティスはゴンドラに乗り込んだ。
「うわあ…」
ルーファスに手を引かれたキュッリッキは、目の前に広がる光景に目を見開いた。
「すごーい、すごーい! ねえねえ、これは湖? キラキラしてるの!」
「いやいや、水じゃなく、ちゃんとした地面なんだよ」
ルーファスにそう言われて、キュッリッキは改めて目を凝らす。
目の前にはまるで、大きな湖が広がっているようにしか見えない。水のような光沢と輝きを放った、不思議な地面だった。
水のような地面に立ってみせて、カーティスはキュッリッキに笑いかけた。
「水ではなく、ちゃんと地面です。濡れてもいませんよ」
両手を広げておどけてみせる。
ルーファスの腕からそっと離れると、小走りに駆けていって、軽くジャンプして煌く地面を踏みしめてみる。靴底から伝わって来るのは、硬い石の感触だった。
「うわあ、ホントだね~」
ハーメンリンナに入った途端、いつになくキュッリッキは無邪気にはしゃいでいた。疲れなど、いっぺんに吹き飛んでしまったようだ。
あまりにも素直すぎるその反応を見て、二人は顔を見合わせ笑みを浮かべた。かつて自分たちも初めてハーメンリンナを訪れたとき、似たような感想を持って、恐る恐る地面を踏んでみたものだった。
幼い子供のようにはしゃぐキュッリッキを微笑ましく見つめながら、ルーファスはカーティスを見る。
「それにしてもさあ、遅くね?」
「遅いですねえ…。渋滞でもしているんでしょうか、鈍速のくせに」
待ちくたびれたように、ルーファスとカーティスはひたすら東のほうを見つめていた。キュッリッキもつられて東に視線を向けたが、光る地面が煌めいているだけだ。
二人が何を待っているかは判らないが、キュッリッキは早くこの中を探検してみたくてしょうがなかった。
城壁の外側は、キュッリッキには見慣れた街並み。しかし壁を隔てたその中には、不思議な光景が広がっている。
うんと高い壁の内側には、そのぶんだけ大きな影が出来てさぞ暗いだろう、といつも思っていた。しかし外側の街よりも、ずっとずっと明るいのだ。
城壁の内側の壁は、光を弾いて真っ白に光っている。鏡が照り返すよりも、ずっと柔らかい光だった。だから目が痛くなるような眩しさは感じない。その柔らかく明るい光が、城壁の中全体を照らしているので、全然暗くなかった。地面はその光を受けて、煌く水面のような景色を生み出していた。
キュッリッキの立っている位置からは、光る地面以外は、街らしきものは見えない。だだっ広い湖のような広場だけだ。ただ遠方に蜃気楼のような、何かの影のようなものが浮かんで見えていた。
いよいよ退屈な空気が漂い始めた3人のそばに、突如として一隻の無人のゴンドラが、音もなく到着した。
「ああ、ようやくベルトルド卿のゴンドラが迎えにきましたよ。さあさ、これに乗っていきます」
まだ光る地面に関心を寄せているキュッリッキの手をひいて、ルーファスとカーティスはゴンドラに乗り込んだ。
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